第1話 孤独の少女
リナの家は古い屋敷のようで、木の床はきしみ、壁の色は淡く剥がれていた。窓の外に広がる庭には、春の花々が咲き乱れているのに、彼女の目には色彩が届かない。
「リナ、朝ごはんよ。」
母の声が階段を伝って降りてくる。
リナはただうなずき、席についた。目の前のパンやスープも、味があることは知っているが、心は動かない。
家族は心配そうに彼女を見つめる。父は静かに新聞をめくり、母は何度も視線を送る。兄はからかうように笑う。だが、リナの心は依然として冷たいままだった。
学校に行っても同じだった。
教室のざわめき、友達の笑顔、先生の励ましの言葉――すべてが、ガラス越しに見ているだけの世界だった。友達が手をつなぎ、楽しそうに話す姿を見ても、心は微動だにしない。
ある日、休み時間に一人で校庭の隅に座るリナに、クラスメイトの少女が近づいてきた。
「ねえ、リナ。遊ぼうよ。」
その声は、いつもならただの音にすぎないはずだった。しかし、そのとき、リナは自分の胸の奥に小さな何かが生まれるのを感じた。暖かさでも喜びでもない、けれど確かに“反応”のようなもの。
リナは小さく首を振った。
「……いいの。」
少女は少し残念そうに笑い、去っていった。リナは再び一人になる。しかし、その瞬間に芽生えた感覚は、彼女に一つの気づきを与えた。
――私は、何かを知りたいのだ。
――この胸に届く、正体のわからない感覚を、私は理解したい。
その日、リナは決心する。
「愛を、知る旅に出よう。」
夜、月明かりに照らされた窓辺で、リナは小さなリュックを背負い、旅の地図を広げた。どこへ向かうかはわからない。誰に会うのかも、何を感じるのかも、未知だった。しかし、胸の奥に生まれた小さな火は、確かに彼女を前へと押し出した。
灰色の世界の中で、少女の旅は始まったのだった。
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