第4章 AI小説における「大幅な加筆修正」の法的役割と残存リスク

ユーザー様が前提とされている「大幅な加筆修正」を行うことは、AI生成物が著作権法上の保護を受けるための、最も強力な法的防御となりますが、法的リスクを完全に排除することはできません。


4.1 「大幅な加筆修正」がもたらす防御:著作物性の確立


日本の著作権法は、著作物を「思想又は感情を創作的に表現したもの」と定義し、著作者は「これらを創作する者」である人間でなければならないと定めています 6。

● 人間の「創作性」の証明: AIが本文の大部分を自動で生成する段階は「最も法的リスクが高い領域」であり 6、人間の関与がAIの出力に対する単なる軽微な修正に留まる場合、その作品は人間の「思想又は感情の表現」を欠き、著作物性を否定されるリスクに直面します 6。

● 創作的な変容の必要性: 人間がAIの出力に対して、単なる推敲(誤字脱字チェック)ではなく、プロットの再構築、主要な表現の変更、独自の解釈を加えるといった実質的かつ創作的な変容を施した場合、その行為は人間の能動的な選択と創作的な寄与を証明します 6。

● 「道具」としてのAI利用の確立: 大幅な加筆修正を行うことは、AIを「創作主体」として利用したのではなく、あくまで「文章のヒントを提供したり、編集を補助したりする道具」として利用したことを法的に確立します 6。この結果、作品は法的に人間の著作物として確立されます 6。

したがって、AI生成物に頼らず、人間の思想や感情を反映した質と量を伴う加筆修正を行う限り、その作品が「人間の創作性を欠くため保護されない」という法的リスクは低減されます 6。


4.2 残存する「間接的な依拠」リスク


「大幅な加筆修正」は、作品の著作物性を確立する防御にはなりますが、AIが学習データに依拠して生成した結果としての侵害リスク(間接的依拠リスク)を完全に排除することはできません。

● 依拠性の推認: AIの出力が暗記により既存の著作物の創作的表現を再現している場合、類似性は認められます。AI利用者が既存の著作物を認識していなかったとしても、AIが学習プロセスを経由して既存著作物に依拠したと判断される「間接的な依拠」のリスクが存在します 5。

● 加筆修正によるリスク軽減の限界: 人間の加筆修正によって生成物の著作物性は確立されますが、AIが生成した元の表現やプロットの核に、既存の著作物の創作的表現との類似性が高かった場合、その侵害リスクが完全に解消されたとは言い切れません 6。この類似性が学習データに起因する場合、裁判で「偶然の一致」を証明することは極めて困難です 6。


4.3 人間による参照行為とAIのパターン学習の差異


ユーザー様が指摘するように、「特定の小説を読み込ませて似たようなものを作る」ことと、「パターン学習によって結果として似たような生成物ができてしまう」ことは、概念的にもレベル感も異なります。

人間が既存の作品を参照する場合、著作者は意識的にその作品を享受し、アイデアや一般的なプロット構成を抽出し、それを自己の思想・感情に基づいた独自の表現へと昇華させます。法的判断において依拠性が認められるのは、既存の「表現」そのものに接し、それを複製・翻案した場合に限られます 6。

一方、AIの出力は、膨大なデータを情報解析し、その統計的パターンを抽出・再構築する過程を経て生まれます 6。ユーザーが特定の表現を意図していなくとも、AIの学習を経由して、学習データに含まれる著作物の創作的表現がそのまま出力される可能性を否定できません 6。

このAI特有の間接的な依拠リスクを克服するためには、AI提供者側が、学習に用いられた著作物の創作的表現が生成段階で出力されないようフィルタリング措置が取られていることなど、技術的な担保を証明できることが極めて重要となります 6。

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