第四十六話

 私は門番もんばんうながされて、城の中に入った。そこもやはり、赤いレンガで造られていた。左右にはやはり赤い柱がならんでいて、通路になっていた。私はそこを両手を上げたまま、ゆっくりと進んだ。すると、大きなひらけた部屋に出た。奥は一段高くなっていて、大きくて立派りっぱなイスがあった。


 私は門番に促されて、そのイスに近寄ちかよった。するとそこには、魔族の女性が座っていた。金色の髪を背中まで伸ばしてながの目をして、不敵ふてきみを浮かべている。そして黒くゆったりとしたドレスを着ていて、もちろんひたいには黒いつのえていた。ハッキリ言って美人だが、私にはそんなことよりも気になることがあった。


 それはこの魔族の女性が持つ、存在感そんざいかんだ。近くにいるだけで精神力がうばわれそうな、プレッシャー。だが同時に見つめるだけで、心がおだやかになるような微笑ほほえみ。そんな相反あいはんする雰囲気ふんいきを、その魔族の女性は持っていた。


 なので私は単純に、この魔族の女性をおそれた。今まで、こんな雰囲気を持った人を見たことが無かったからだ。こ、この人が現在の魔族の女王じょおうか……。すると女王と思われるこの人は、静かに聞いてきた。

「まあ、手をろして楽にするがよい。その理由は、分かるか?」


 私は恐怖きょうふを感じながらも、やっと答えた。

「い、いえ。分かりません」


 すると女王と思われる人は、やはり静かに答えた。

「手を下ろして、仮にわらわに何かしようとしてもムダだからだ。その前に妾が即死そくし魔法で、おぬしを殺すからだ……」


 それを聞いて私の全身は、ガタガタとふるえ出した。ウソじゃない。この人がその気になれば、私は次の瞬間しゅんかんにも殺される。そんな予感がしたからだ。だから私の呼吸こきゅうは、みだれだした。立っているのが、つらくなるほど。すると女王と思われる人は、再び静かに聞いてきた。


「お主、人間だな?」

「は、はい」

「お主、名は何ともうす?」

「は、はい。リーネと申します」

「ではリーネ。お主はこの国に一体いったい、何をしにきた?」

「は、はい。ほんマグロという、魚を釣りにきました」

「ふうむ。なるほど……」


 それから女王と思われる人は、つぶやいた。

「ふうむ。まあ、ウソは言ってないようだな……」


 私はその言葉を聞いても、おどろかなかった。いや、むしろ当然だと思った。この人なら、相手のウソを見破みやぶる魔法を使えてもおかしくないと考えたからだ。いや、この人なら魔法を使わなくてもそれができそうな気がした。私がウソを言ってないと分かったからなのか、女王と思われる人は自己紹介を始めた。


「妾はこの魔族の国の女王、ラソミだ。おぼえておくがいい。それと、側近そっきんの二人だ。まあこの二人の名前などは、憶える必要は無いだろう……」


 すると次の瞬間、ラソミ女王の両側に二人の男性が現れた。私から見て左に、太って背が低い男性の魔族。そして右側には、せて背の高い男性の魔族が現れた。体形たいけいまったく違うが、二人とも氷のようなするどい目で私を見つめていた。


 そして私は、考えた。この二人が突然、現れた理由を。それはおそらく、瞬間移動だろう。私たち人間も、そしてエルフも瞬間移動の魔法を研究している。それは正に、夢の魔法だからだ。


 でも魔族はその魔法を、あっさりと使った。しかも、誰が使ったのか分からない。だからひょっとすると、魔法ではないのかも知れない。魔法ではない、別の方法で瞬間移動したのかも知れない。そう考えて私はあらためて、魔族を心の底から恐れた。


 するとラソミ女王は、思い出したように聞いてきた。

「それにしても、酔狂すいきょうなものだな。わざわざ魚を釣りに、この魔族の国を訪れるとは。理由は何だ? その本マグロという魚は、そんなに美味びみなのか?」


 私はここでウソを言ったら、ホントにマズイことになると思い正直に話した。

「正直、美味おいしいかどうか私には分かりません。我々われわれ、人間の国の国王が食べたがっているのです。もし釣って持って行ったら、一〇○○万ゴールドもらえます……」


 するとラソミ女王は、鼻をフンとらした。

「ふん、かねか。まったく人間とは、あさましいモノだ」


 そして立ち上がり、胸をって言いはなった。

「それにくらべて我々魔族は、ほこり高い。どの国とも国交こっこうを持たずに、魔法を駆使くしして全ての魔族がおだやかに暮らしているからな!」


 それを聞いて、私は思わず言ってしまった。

「なるほど。つまり魔族は、いんキャぼっちなんですね」


 するとラソミ女王は、ブチれて立ち上がった。

「だ、だーれが陰キャぼっちだ?! こ、殺す! この人間の小娘こむすめ、今すぐ妾の即死魔法で殺してやる!」


 そんなラソミ女王を見て、痩せた魔族があせった。

「お、おやめください女王! そんなことをしたら国際問題になります!」


 太った魔族は、私を指差ゆびさした。

「こ、これ! 人間の小娘! お前は早く女王にびぬか!」


 え? ラソミ女王の即死魔法で殺される? い、いやだ! それは嫌だ! なので私は、素早すばや土下座どげざした。

「申し訳ありません、女王! もう二度と、魔族のことを悪く言ったりしません!」

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