第十一話

 すると精神的な疲れも取れたので、私は水の魔法を使って小舟こぶね砂浜すなはまに移動させた。そして金属製のバケツの中のアンコウを見ながら、考えた。よし。後は小舟をおじいさんに返してアンコウをヘイテさんに渡して、五〇万ゴールドをもらうだけだ。でも……。私は、アンコウを見つめた。


 ヘイテさんによると、アンコウは食べられるらしい。このちょっとグロテスクな魚は一体いったい、どんな味がするんだろう。私は、ごくりとツバを飲み込んだ。そして、誘惑ゆうわくに負けた。


 このアンコウを、ちょっと食べてみたいという誘惑に。だ、大丈夫、大丈夫。全部、食べるわけじゃないから。ちょっと、味見あじみをするだけだから。そう考えて、魚の図鑑ずかんでアンコウの食べ方を調べてみた。するとこの魚はさばいて、ミソでて食べると美味おいしいらしい。なるほど。


 なので私は早速、家に戻ってなべとミソを調味料を持ってきた。そして魚の図鑑によると、煮る前にさばかなければならないらしい。それを理解した私は、ナイフでさばいてみることにした。


 でもアンコウの表面はヌルヌルしていたので、さばきずらかった。少し考えた私は海水で表面のヌルヌルを洗い落として、近くにある林に入って木のえだにぶら下げた。うん、これでさばきやすくなった。


 そして私はナイフでエラ、皮、あんきも、内臓、ほお肉、そしてアンコウの身を切り取った。それから、それらをさっと鍋で煮た。次にあん肝を、叩いて細かくした。


 それから鍋で少しいためてミソと調味料と水を混ぜて、スープを作った。更にスープを温めてから、具を入れて煮た。そうしてアンコウ鍋は、でき上った。よし、早速食べてみよう。いただきます。


 まずは、スープから。うん。あん肝の旨味うまみ煮汁にじるけ込んでミソと調和していて、あっさりとしているが味わい深い。そして身は淡白たんぱくで、上品じょうひんな味だ。皮はプルプルとした食感が楽しい。エラと内臓はコリコリとした食感。うん、美味おいしい。


 気付くと私は、アンコウ鍋をすべて食べていた。うーん、美味しかった。満足、満足。こんなに美味しい魚なら、ヘイテさんが研究したいという気持ちも分かる。


 はっ、ヘイテさん! 私はここで、思い出した。しまったー! このアンコウはヘイテさんに渡して、五〇万ゴールドをもらうための魚だった!  

どーしよー! 全部、食べちゃったよー! そして私は、落ち込んだ。はあ。どうして私は、こんなに食いしん坊なんだろう?……。


 と落ち込んできても、しょうがない。食べてしまったモノは、しょうがない。なので再び、アンコウを釣ることにした。するとさっき釣って釣り方をおぼえているので、もう一匹のアンコウはあっさりと釣れた。私はそれを金属製のバケツに入れて、イシーロさんがいるレストラン、ビューティフル・テイストに向かった。


 イシーロさんに話をすると、イシーロさんは満足そうな表情になった。

「お、もう釣ったのか。さすがこの国で一番の釣り、リーネさんだ。ちょっと待ってな。今、ヘイテさんを呼んでくるからよ」


 そうしてイシーロさんはレストランを出て行ったので、私は店内のテーブルのイスに座って待つことにした。するとしばらくすると、イシーロさんとヘイテさんが店内に入ってきた。


 私は金属製のバケツに入ったアンコウを、ヘイテさんに見せた。するとヘイテさんは、目を輝かせた。

「素晴らしい! 見事みごときたアンコウです! これで研究が始められます!」


 ほっ、良かった。ヘイテさんも、満足してくれたようだ。ならば、もらうモノをもらわなければ。なので私は、ちょっと催促さいそくしてみた。

「あ、あのう、ヘイテさん。それで、お礼の方は?……」


 するとヘイテさんは、はっとした表情になった。

「ああ、すみません。初めて生きたアンコウを見て、忘れていました」


 そうして持っていたバックから、袋を取り出して私に渡した。

「この中にに、五〇万ゴールドが入っています。確認をしてください」


 なので私は、袋の中身をテーブルの上に出した。そして、金貨を数えた。一、二、三、四……。うん、確かに五〇枚ある。つまり、五〇万ゴールドある。私はそれを再び袋に入れると、ヘイテさんにお礼を言った。

「ありがとうございます、ヘイテさん! あ、そうだ。また何か釣って欲しい魚がいたら、釣ってあげますよ。もちろん、五〇万ゴールドで。それでは!」


 そうして私は、家に帰ることにした。気分はもう、ウキウキだった。五〇万ゴールドだよ、五〇万ゴールド! これだけあれば、しばらく遊んで暮らせるよ! だが家に帰って、お母さんにこの話をするとキッパリと言われた。

「そのお金は、銀行にあずけなさい」


 はあ、やっぱり……。確かに五〇万ゴールドなんて大金を、家に置いておくのは危険だ。その点、銀行は警備けいびがしっかりとしているから預ければ安心だ。それに銀行に預ければ、少しだが利子りしが付く。はあ。五〇万ゴールドをパーッと使って、遊んで暮らしてみたかったなあ……。


 だが私は、思い出した。まだイシーロさんからもらった一〇万ゴールドが、あることを。まあ、これだけあればしばらく遊んで暮らせるか。なので五〇万ゴールドは明日、銀行に預けることにした。


 そして、次の日。私は日課の牛のちちしぼりと牛に草を食べさせる仕事を終えると、銀行に向かった。この国の唯一ゆいいつの銀行、ヅキミ銀行は街の奥にあった。やはり銀行だから、安全な街の奥に造られたようだ。


 そこは赤いレンガで造られていて、いかにも頑丈がんじょうそうだった。中に入って私は紺色こんいろの制服を着ている女性職員に、五〇万ゴールドが入った袋を渡した。

「すみません。このお金を、預かってください」

「はい、金額を、確認させていただきます」

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