第二話

 そしてイワシの全身をまんべんなく焼くと、少しげた良いにおいがしてきた。よし、これで良いだろう。良い匂いで我慢がまんできなくなった私は、イワシにかじりついた。いただきます。


 それは柔らかい身であぶらがのっていて、とても美味おいしかった。でも大きさが三〇センチなので、一匹食べるとそれで満足した。あとは家に、持って帰ろう。あ、でも九匹は多いか。二匹で、十分か。すると残りの七匹は、どうしよう?


 と考えると、魚屋さんのアオマさんの顔が浮かんだ。よし、この七匹はアオマさんにあげよう! 私が買い物に行くと、いつもオマケをしてくれるからそのおれいだ!


 そうして私は、海から街中に移動することにした。その時ふと海を振りかえると、水平線が左右に広がっていた。私には、信じられなかった。この惑星わくせいギアマが、球体きゅうたいであることを。


 こうして見てみると、へらべったい惑星に思えるのだが。だが近年の研究で、この惑星ギアマは球体で宇宙にポッカリと浮かんでいるそうだ。そう一昨年おととしまで通っていた、高等学校で学んだ。

 

 私は、歩きながら考えた。このヅキミ国には、私たち人間が住んでいる。でもエルフが住む国、ドワーフが住む国、ホビットが住む国、そして何と魔族が住む国もあるそうだ。


 それらの国にも、いつか行ってみたいと思っている。まあ、いつになるか分からないけど。そうして左右にレンガ造りの建物が建っている石畳いしだたみの道を歩いていると、アオマさんが店主の魚屋さんに着いた。木製の台の上に、銀色や赤色の様々な種類の魚がっている。


 すると白いエプロンを着た、アオマさんが声をかけてきた。アオマさんは背が高くて、髪は短くて目が細いのが特徴だ。

「よう、リーネちゃん。今日も可愛かわいいね。何を買ってく?」


 そう、私は可愛いらしい。体は小柄こがらで金色の髪は首までの長さで、目は丸い印象いんしょうだとよく言われる。そして今は白い半袖はんそでのシャツを着て、黒いひざまで長さのスカートを穿いている。私は金属製のバケツを、持ち上げた。


「違うの。今日は、魚を買いにきたんじゃないの」

「え? それじゃあ、何しにきたんだい?」

「魚がたくさん釣れたから、あげようと思うの。ほら、アオマさんはいつも私が魚を買う時にオマケをしてくれるから」


 するとアオマさんは、バケツをのぞき込んだ。

「へえ、これをリーネちゃんが釣ったのかい。どれどれ。ああ、こりゃあ良いイワシだ。こんなに良いイワシを、タダじゃあもらえないよ」


 そう言ってアオマさんは、るしてあるカゴから小さな金貨を一枚取り出した。

「はい、これ。一〇〇〇ゴールドあげるよ。これでイワシを、もらうよ」


 私は小さな金貨を受け取って、考えた。そうか。イワシを釣って持ってくれば、お金をもらえるのか。それならばと私は、聞いてみた。

「それじゃあ明日もイワシを釣ってくれば、買ってくれる?」


 するとアオマさんは、ちょっとこまった表情になった。

「いや、イワシはもう十分かなあ……。あ、そうだ。カツオなら、買うよ。最近、れる数が少ないから。そうだなあ、一匹五〇〇〇ゴールドで買うよ」


 ご、五〇〇〇ゴールド?! 一匹で五〇〇〇ゴールドなら、二匹で一万ゴールド?! よし、決めた。明日は、カツオを釣ろう! そう決心した私は、「分かったわ。それじゃあ、楽しみにしててね」と告げて魚屋さんを後にした。


 そうして灰色のレンガで造られて屋根は赤色の家に帰ってきた時は、もう夕方になっていた。私は家に中に入ると、夕食を作っているお母さんにバケツの中に入っているイワシを見せた。

「ねえねえ、お母さん! 今日、イワシを釣ったんだ!」


 すると黄色い上着にグレーのズボンを穿いた優し気な顔をしたお母さんは、少し驚いた表情になった。


「あらあら、立派りっぱなイワシね。これ、リーネが釣ったの?」

「うん!」

「それじゃあ、これも料理して夕飯のおかずにしましょう」


 そう言ってお母さんは、レンガでできたかまどで料理を始めた。そして、私に告げた。

「それじゃあリーネは、スープとパンを用意して」

「うん!」


 私はコーンスープを三枚のお皿によそって、三切れのパンを白いカバーがかけてあるテーブルに載せた。するとお母さんの料理が終わったようで、お父さんを呼んでくるように言われた。


 お父さんは隣の部屋で、クワやカマなどの畑仕事で使う道具を作っている。私は灰色のエプロンをつけて作業している、ととのった顔立かおだちのお父さんに呼びかけた。

「お父さーん! 夕食の準備ができたよー!」


 するとお父さんは、笑顔で振り返った。

「おお、もうそんな時間か。分かったよ、すぐに行く」


 私とお母さんが木製のイスに座ってテーブルについていると、お父さんはやってきた。

「おお、今日のおかずは、イワシか」

「そうよ。何と、リーネが釣ってきたの」

「ほお。リーネが」


 なので私は、得意とくいげに答えた。

「そうなの、すごいでしょう」


 それをお母さんは、しょう油と砂糖さとうてくれた。だからイワシは甘辛あまからくて、美味おいしかった。お父さんとお母さんも、美味しそうに食べていた。

「ほお。こりゃあ、あぶらがのって美味うまい」

「ホントに、そうね」

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