第2話 凱旋パレードと裏切りの英雄

 王都は歓喜に満ちていた。

鐘が鳴り響き、紙吹雪が風に舞う。 通りを埋める民は旗を振り、老若男女が涙を流し、声を枯らして叫んでいた。


「万歳! 勇者パーティー万歳!」

「魔王を討った聖なる三人に、祝福を!」


 黄金の馬車の上に立つのは、三人の少女。 かつて“勇者パーティー”と呼ばれた仲間たちだった。


 聖女セリア・ルーミア。

光の加護を持ち、民から“純白の奇跡”と讃えられる少女。

長い金の髪を風に揺らし、涙を浮かべながら手を振る。

 

 剣士リィナ・バルド。

紅いマントを翻し、勝ち気な笑みで群衆の声に応える。

その背には、魔王を斬った“勇者の剣”が掲げられていた。

 

 宮廷魔導士ノエル・アルフェン。

紫紺の瞳が光を受け、静かに民衆を見渡す。

微笑んでいたが、その表情は非常に晴れやかだった。


「これで、ようやく平和が訪れますね」

セリアが囁くように言う。

隣のリィナはうなずき、笑顔で群衆に手を振った。

「うん。長い戦いだった。でも、やっと終わったんだ」


……ただし、そこに“彼”の名はなかった。

王都の広場に掲げられた大きな垂れ幕。 そこに描かれた肖像は三人の姿のみ。 中央にはリィナが、左右にセリアとノエルが立ち、


 彼女たちの背後には“黒く塗り潰された人影”が描かれていた。

王城のバルコニーでは、国王が立ち上がり、声を張り上げた。


「勇者パーティーの三名が、ついに魔王を討ち果たした! だが悲しむべきことに、その戦いの中で、裏切り者が出た! “天城レン”――魔王に魂を売り、仲間を欺き、国を滅ぼしかけた大罪人である!」

王の言葉が、民衆に重く響く。


「奴は最も憎むべき邪悪そのものだったのである。 だが残る三人の英雄達が立ち上がり、魔王を討ち、世界に平和を取り戻したのだ!」

 

 群衆が歓声を上げる。 憎悪と歓喜が入り混じった声。

レンという名前に、子供たちが石を投げる真似をし、老人たちが唾を吐いた。


「許せぬ! 裏切り者め!」

「勇者たちに拍手を! 真の英雄たちに!」

その熱狂は狂気にも似ていた。


 セリアは胸に手を当て、祈るように目を閉じた。

「神よ。あの男にふさわしき最大の罰を与えるよう……」

祈りの言葉を口にする彼女の瞳には、レンを思うかつての色はなかった。


 リィナは群衆に手を振りながら、力強く叫ぶ。

「私たちはあの裏切り者を、絶対に許さない! 次会ったら絶対にぶち殺してやる!」


 ノエルは隠しきれぬ笑みを浮かべながら、二人に小さな声で話しかけた。

「……王も民衆も私たちの嘘を微塵も疑ってないようですね。 もう彼がこの国で生きていく事は不可能でしょう」


 王都を覆う歓喜の波。

そのただ中で、三人の少女は確かに“彼を憎んでいた”。 

元々彼に抱いていた深い愛情が反転したその憎悪は、深く、鋭い呪いとなっていた。





 その光景を、遠くの丘の上から一人の青年が見下ろしていた。

風に乱れた黒髪、土埃にまみれた外套。 そして、既に失われた左腕。


 天城レンは、冷えた風の中で立ち尽くしていた。

王都から上がる歓声が、かつて自身が受けてきた声援と重なる。


 足元には、一枚の紙片が転がっていた。

――あちこちに貼られた「裏切り者天城レンの指名手配書」。

燃やすことも、破ることもできなかった。

彼はそれを拾い上げ、指先で軽くなぞる。自分の顔が歪んで描かれているのを見て、小さく笑った。


「……そうか。 これが今みんなが認識している俺なのか」

目を細める。 目線の先に広がる王都はまぶしいほどに輝いていた。


 レンは片手で思いっ切り自身の頬をたたいた。

「よし、くよくよしちゃダメだ! 絶対にこの呪いを解いてみんなの元に戻ってやる!!」

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