超科学エンドマーク
銀木犀(Ginmokusei)
No.1:脱兎のごとく
陽の差す廃れたビルの中。
金属や火薬の匂いが充満する中、騒動が繰り広げられていた。
雑兵1「とっ捕まえろォ!!!」
雑兵2「奴らを逃がすんじゃねぇ!!!!」
耳をつんざくような発砲音が鳴り響き、薬莢の落ちる音は留まることを知らない。
銃口の先には、軽々と動き回る少年少女がいた。
???「...っへへ、血気盛んだねぇあのゴロツキ!でかい武器持ってら」
???「そんな悠長なこと言ってる場合ですか姉さん...全く彼らもしつこいですね!」
リーダー格の男「テメェら、あのガキが持ってるケースにあてんじゃねえぞ!!!一発かすりでもすれば命はねぇと思え!!」
指さす先では、少女が何やらアタッシュケースを手に持っていた。
???「みんな、この先は右だ。計測ルート上はこっちがいちばん近いみたいだね」
???「おー助かる!」
???「油断するなよ...!たまに計測機械アホになんだから」
3人「承知!!」
若き少年少女とは思えない身のこなしで銃弾の中をすり抜け、通路の右を曲がった。しかし、その先は床が崩れており、とてもとびこえられる距離ではなかった。
???「うっわまじかよ!!」
???「最悪を引いたな...」
???「『アレ』、使えそうかい?」
緑の髪をした少年が問いかける。
青髪の少女は数秒顎に手を当て、辺りを見回す。そこへ黄髪の少女が割って入った。
???「多分無理です。使うには狭すぎるので」
???「えー...じゃあ引き返すしかないのかぁ....」
そうこうしている内に、先程の雑兵が追いついてきた。
雑兵2「見つけたぞォ!!!潰せ!!!」
荒くれ者たちは銃を構える。
???「やっば...?!」
???「まずい...!一か八か...下に降りるか...?!」
今にも蜂の巣にされようとした時、白髪の華奢な子が脇の鉄パイプを瞬時に手に取り、雑兵たちに向かって走り出す。
???「...その必要は、ない。」
間合いを詰められ、咄嗟に銃を構え直そうとした瞬間。
雑兵3「ぐぉわっ...?!?!」
雑兵4「ごふっ...?!」
2人の雑兵が鉄パイプの殴打を食らった。
???「...あー...そう来るか」
???「あの子らしいといえばそうですけど...まぁいいか」
3人もそれぞれ倒されていく男たちの持っていた銃を手に取り、応戦する。
雑兵5「ぎゃっ?!」
6「ぐええっ!!!!」
7「ごはっ!!!」
雑兵2(ど、どうなってやがる...?!このヒョロガキ共、馬鹿みてえに強ぇ...?!)
2「クッソガキ共がァァアアアアアアアアア!!!」
一際体の大きい男は、ミニガンをかまえ、乱射しようとする。
しかし、トリガーを押しても弾が出ない。
その時、ピッ...ピッ...と機械音が鳴りだす。
何事かと銃身を見ると、時限爆弾が、男の死に時があと2秒である事を示していた。
2「...!!!!あっっっっっっ?!?????!」
???「ナイスすり替え♪」
???「...じゃあな、ノータリン」
ぎゃああああああああ、という断末魔と共に、火花が吹き荒れる。
???「...じゃ、もう引き返せないですし、今のうちに降りちゃいましょっか!」
全員でこくりと頷くと、熱気を背後に、4人は再度駆け出した。
???「さすが...あの一瞬で弾薬と爆破装置を入れ替えるとは...」
???「ケースを取った時に拾った爆弾が役に立った。...それと、戦闘中に武器を背中に回したままだったアイツがアホだったんだ」
???「っはは、言えてるねー...じゃ、この弾薬はお外にー...ポイっ!!!」
青髪の少女は窓から勢いよく放り出す。金色に輝く鉛の弾は、陽に照らされ輝いていたのだった。
ーーーーーー
...
その後、何とかアジトを脱した4人は、砂埃の舞い踊る中瓦礫に囲まれる日陰で腰を下ろしていた。
この日は特に日照りが強く、ジリジリと辺りを燃やさんとする勢いでとめどなく光が差していた。
???「....っはぁ~!やけに暑いな...この地区といえど流石に暑過ぎやしないか...?」
???「しゃーないよ、予報じゃ一日中雲無しって言ってたんだし...ちょいと休んだらすぐ街にズラかればいいじゃんね?」
緑髪の少年と青髪の少女が愚痴混じりで言葉を交わす。その額は布から絞るには十分の滝汗が流れていた。
???「お水も少ししか持ってきてませんからね...ほら、汗拭いてくださいよ、大樹さん」
大樹。その名前に反応したのは緑髪の少年であった。
大樹「あぁ、助かるよ...あーー全く、ここら一帯は水道がろくに整備されてないからなぁ....飲み水くらいないのかな」
???「ほら、姉さんもそんなところで寝転んでないで。汗だくのまんまじゃ風邪引きますよ?」
???「大丈夫さ~!なんたってあたしは恵美お姉さんなんだからァ...ぐえぇ...タオルちょうだい...砂がついて気持ち悪い...」
恵美という名の青髪の少女は、妹らしき少女に首周りを拭いてもらっていた。
大樹「ほぉら言わんこっちゃない...だからさっきも床に寝転んだらダメって言ったのに...大変だね...咲も」
黄髪の少女は苦笑する。咲という名の彼女は姉の世話を焼くのが日常茶飯事であった。これではどちらが姉かわかったものではない。
咲「そういえば2人とも」
ふと咲は辺りを見渡す。
咲「あの子...見当たりませんけど、どこへ?」
恵美「あー...そういえばどこいったんだろ。疲れてたから覚えてないや」
そこへ、大樹がある方向へ指を指す。
大樹「あそこに物資がないか探しに行ったみたいだよ。まぁ、こんな所にあるものなんてどうせロクな物でもないんだけどね」
方向の先は廃れて埃まみれになっているコンビニエンスストア跡だった。
恵美「まあまあ信じましょうや。意外と掘り出しもんがあるかもよ?」
咲「だといいんですけど...うぅ...それにしても暑い...」
3人は小さい天井のある壊れかけの壁で、暑さに耐えかね項垂れていた。
その時、見慣れた影が彼らの前に現れた。
???「...なにしてんだお前ら。まるで屍みたいにうなだれて」
何やらビニール袋を両手に提げている。
顔を上げると、整った綺麗な顔が映る。
咲「...響さん!!」
響と呼ばれた白髪の少女は、袋を3人に手渡す。
触れてみると、ひんやりとしていた。
響「今のお前らにゃ掘り出しもんかもな。さっさと開けろ。温まっちまう前に」
そうして食い気味に恵美が袋を開け、大樹と咲が間から覗き込む。
3人「こ....!これは...!!!」
ガサゴソと袋をまさぐり、取り出したものを天に掲げる。
恵美「アイスだーーーーーー!!!!!!」
咲「こ、こんなもの...あったんですか?!」
大樹「いやでも、賞味期限とっくに過ぎてたり...」
響が顎を少し上げ、見下す様な顔になると、
響「俺が何でも構わず持ってくると思ってるのか?裏を見てみろ、裏を」
腕を組む響に従い恐る恐る裏面の表示を見る。
大樹「賞味期限...ッ...あと3ヶ月後......!!!!!!!」
2人「おぉーーー!!」
姉妹は目を輝かせる。
恵美「ほらほらさっさと食べよ!!!溶けちゃうよ!!」
咲「ああ幸せ...!」
大樹「体にしみ渡る....!!!」
暑さに苦しみ水分の枯渇していた彼らの喉を潤すには十分であった。
全員であっという間に全てのアイスを食べてしまうと、恵美は立ち上がり、背伸びをする。
恵美「ん~...!!さぁて、体力回復したことだし、そろそろ出発しますかぁ!!」
大樹「ここに長居するわけにもいかないからね。依頼人に例のを渡さなきゃ」
咲「第7番街でしたっけ?待たせちゃいけませんし、行きましょうか!」
響「ブツはここにある。さぁ、さっさと行くぞ。」
恵美「うげぇぇ...歩きたくないよォ...」
咲「ワガママ言ってないで、行きますよ!ほら!」
そして4人は立ち上がり、大樹と響だけ何故か別方向へと歩いていく。
恵美「んえ?ちょ、どこいってんのさ?!」
咲「私たちこっちから来ましたよね?ちょっと2人とも?!」
2人は呼び止められ踵を返した。
響「歩いて行きたいってんなら別に着いてこなくてもいいが。」
そう口にする響に少し悪い顔をしながら大樹は続ける。
大樹「まあ、好きにするといいさ。別に、強制はしてないからね~」
そうしてまた歩き出した2人を姉妹は慌てて追いかけるのであった。
恵美「ちょ、ちょっと待ってよ?!」
そうして数十分歩いた後。
恵美「うげ...ねえ、マジでどこ向かってるわけ?なんか...変なとこ...」
咲「お化けとか出てきませんよね...?!うぅ...」
彼らは薄暗い路地を歩いていた。
半壊の建物ばかりがそびえ、そこらかしこで砂埃が舞う。
大樹「まあまあ、そんな事言わないで。さっきアジトから出る時に二手に分かれて出たじゃない?そんときにいいもん見つけてね...」
大樹はしゃがみ大きなシャッターに手をかける。
響とともに思い切り開くと、すぐに視界が光に包まれ、段々と晴れてくる。
響「...まだあったな」
目の前には、ガレージと思しき倉庫があった。中央あたりには、新品と言って差し支えないバイクが2台止まっていた。
恵美「す...すっげー!!!!!」
咲「だからさっきも来るのが遅かったわけですか...」
響「あの時は追っ手が来てたから中には入れなかったが...今はもう引き返してる頃かと思ってな。」
そうして大樹と響は雑に置かれている鍵を手にし、バイクへと差し込む。するとエンジンの音が仰々しくかかり、マフラーからは黒い煙がもうもうと立ち上がってきた。
大樹「...ビンゴ!」
響「中までよく手入れされてるな...」
恵美「っつーかこれ、誰のやつなんだろ?あいつらのとは考えにくいし...」
大樹「どうせこんなとこに置いてあるんだし、まともなやつのものじゃないでしょ。気にしなーい気にしなーい!」
咲「それはそれでどうなんですか...?...わっ!?」
咲は突然投げ渡されたヘルメットを手に取る。
響「お前は後ろに乗れ。運転は俺がする。」
咲「あ...はいっ」
そうして響と咲が準備をする中、大樹と恵美はどっちが運転するかで争っている。
大樹「...いざ...尋常に...」
恵美「...勝負!!」
2人「最初はグー!!!じゃんけんほい!!!!」
恵美「ぎゃあああああああ!!!!!!」
大樹「っし!!!」
恵美はパーで負けた。
そうして大樹たちもバイクに乗る準備を進める。
響と大樹は数回空吹かしをすると、カマキリのごとく曲がっているハンドルをしっかりと握った。
大樹「...アクセル全開!」
恵美「しゅっぱーつ!!!!」
咲「ううぅ...やっぱこういうの苦手...」
そして鳴り響くエンジンの音を背に、走り出したのだった。
恵美「いやっほーーーーーーい!!!!!」
大樹「こら騒がない!危ないよ!」
彼らは法無き大地を爆走していた。
法定速度を守ったところで得もない。ノロノロと走っていてはギャング達に捕まるだけである。
響「ケース落としたらお前の責任だからな。分かってるのか?」
恵美「っへへ、でぇじょうぶだって!!」
すると恵美の頬横を、銃弾が通っていった。
恵美「...へ?」
恐る恐る後ろを振り返ろうとすると、重いエンジン音が聞こえる。
雑兵たち「待てやゴラァアアアアアアアアア!!!!!」
後ろから先程のギャングたちの残党が追ってきていた。
大樹「やっべ?!逃げるぞ!!!」
響「振り落とされるなよ...!!!」
大樹と響はアクセルグリップを振り絞ると前かがみになり速度をあげた。
咲「いやあああああああああ!!!!!」
後ろから迫り来る銃弾を躱しながら、響と大樹は見事なハンドル捌きでギャングたちを欺いていく。
恵美「オラッ!!来んじゃねえ!!」
雑兵1「ぐぇっ?!」
雑兵2「うわっおいお前来んじゃn」
雑兵たち「ぐぎゃあああああ!!!!」
恵美「グッバーイ♪」
咲「きゃああああああ?!どっか行ってください!!!」
雑兵3「ごふぁああああ!!!」
雑兵4「銃は鈍器じゃねぇえええええ!!!」
雑兵3、4「あびゃああああああああ!!!!」
1人、また1人と片付けていく。
そうしていると目の前に渓谷が見えてきた。
大樹は響の方に目をやる。
片手で響はGOサインをすると、そのままギャングたちに向かって親指を下に向けた。
ニヤリとする大樹。了解のハンドサインで返し、運転する2人は即座にハンドルを限界まで回した。
咲「あえ?...ねえ、あの、二人とも、嘘ですよね?!??ちょっと!!!!??ねえ聞いてますか2人ともォ?!!!」
響「しっかり捕まれよ。」
大樹「アトラクションのお時間だ!」
恵美「うひゃー、スリル満点だぁ」
雑兵「...?アイツら何をやって...おい、追うぞ!!!」
後ろから迫るエンジン音が更に強まる。
響「...アホだな」
そして雑兵の目にやっと「渓谷あり」の標識が見えた頃。
大樹「それでは快適な落下の旅を~」
雑兵「???!????!ちょっ、止まれな」
雑兵たち「ぎゃああああああああ!!!!」
咲「だから優しくしてくださいってえええええええええええええええええ!!!!!!!!!.....」
渓谷に落ちていく男たちの上で、2台のバイクが天高く飛び上がったのだった。
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