遊戯

 ジャック・オー・ランタンは旅人を導く存在。

 どこにも行けない代わりに道を見失った誰かと彷徨う種族。


 あっちの世界とこっちの世界を行き来して困ってるモノを助けるのが自らの役割だとカボチャに空けられた動かぬ口で深夜の訪問者は語った。

 特にハロウィンの夜はどちらの世界にも迷い込む輩が多いようで、その日も彼は右往左往していたそうだ。

 生首を失くしたデュラハンの胴体を見つけたのは一段落ついて休憩しようとした矢先。

 各所に刻んだ紋様。気配を飛ばす程度の効果しか発揮しないそれを近づけば反応するセンサー代わりに使い駆けつけてみれば、お菓子屋さんの看板付近で項垂れる影が一つ。

 仮装と言うには精巧すぎる頭の無い姿にすぐ同郷の種族だと気づいた彼は保護して廃工場へ連れていった。

 自分の生首とはぐれた、合流しないとと懸命に伝える胴体を落ち着かせ、人混みが消え失せた翌朝探すことにしたのだが。

 現地に行ってみればハロウィンのカボチャ色した髪の女がそれを持ち去るところだった。

 もしかして正体がバレて拉致でもされたんじゃないか?

 そう考えた彼はひとまず胴体に潜伏用の衣服を買い与えこっちの様子を伺うことにした。

 私のように自由に動けない代わりに用意済みだった紋様の反応や、生首と胴体が離れたことで見るようになった夢。

 お互いの状況を共有し巡り会うための現象だと思われるそれを頼りに私の素性と目的を探ろうと、お菓子屋さんからの気配をキッカケに尾行し居場所を突き止めようとしていた。

 そこまでくれば私が彼同様生首のエリスの依頼を受けて動いているとわかり引き合わせようとしていたようだが、ここでまた新たな問題が発生する。

 胴体が生首のエリスの瞳と同じ色した青い石のはめこまれた指輪を失くしたと伝えてきたのだ。

 お互いがお互いを見つけ出すための目印。潜伏している間は確かにあった。

 失くすとすれば恐らく肝試しをキッカケに廃工場へ来るようになったヤンキーからこっそり逃げた時であろう。

 アレは大切な贈りモノだから失くしたままでは会えないと落ち込む胴体を新たな潜伏先でなだめ、改めて。

廃工場へエリスの衣服を回収しに来てみれば……。



「『私が貼った紙と失せモノの指輪を発見し感謝と経緯を伝えるためまずは単身探偵事務所へやって来た』っと」


 キーボードを叩く指を止める。

 ボイスレコーダーに録っておいたジャック・オー・ランタンの話を文字に起こして耳のイヤホンを外す。

 聞こえてくる声をほぼ無心でノートパソコンに打ち込んでいったけど、今度はコレを調査書としてまとめないといけない。

 私が書いて、読んで、保管するだけの書類にそこまでする必要があるのかって自問自答はある。でもこれも仕事だし。

 文字を消したり付け足したり並べ替えたりするのは遊戯のようで退屈しないし、それに、まぁ。

 タバコを吸いに換気扇下に向かう途中。チラッと間仕切りの内側を覗く。

 ソファーに横たわる欲しがってたパーカーに身を包んだ姿を眺める。

 今回の失せモノ探しの締め括りだ。

 記録として、記念として。ちゃんと残しておかないと。



 十一月二十六日。夜中。

 青い石の指輪をつけた胴体に抱き抱えられ生首のエリスがすやすや寝息を立てていた。

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