筆記用具

「ねぇねぇ見て」

「えっ、なにアレ本物?」

「まっさか。マネキンとかでしょ」


 チャイニーズマフィア風の格好で街中に佇む。

 肩にかけたカバンには一昨日買ったヘアバンドを着けた生首。

 銀髪に映える赤と黒のリボン付きは夢の一件で落ち込んでいたエリスの気分を上げてくれたようで青い瞳がキラキラと輝いてる。


「マネキンにしてはリアルだよね。生きてるみたい」


 実際生きてるんだけどね。

 眺めてる二人を見て見ぬフリする。


「アニメのキャラなのかな? あのお姉さんのかっこもなんかのコスプレ?」


 オリジナルだし私服なんだけどね。

 スマホ片手に聞こえてないフリをする。


「……アレ?」

「なんのキャラかわかった?」

「違うけど、あのマネキン抱えた人ハロウィンにいなかった?」

「えっ? ……あーそーいえばいたかも」


 そのやり取りを聞いてようやく顔を上げる。

 こっちをチラチラしながら話をしていた女性達に視線を向けて、アレ?

 私もあの二人見たことある気がすると首を傾げる。

 会ったことはない。それは確か。

 じゃあ一体どこ、で……思い出した。


「エリス行くよ」

「次の場所に?」

「聞き込みに」


 スマホの画面はそのまま。

 スワイプで該当の写真を見つけ出す。


「こんにちは」


 近くまで来て確信した。

 SNSに仮装エンジョイ写真載せてた二人だ。


「その話ちょーっと聞かせてくれる?」


 格好と持ち物が奇抜な分口調はフレンドリーに。


「いきなり声かけられてビックリしたよね。私こういうモノで今この首の落とし主探してるの」


 嘘は言わず、でも真実は伏せて名刺と笑顔を差し出した。


「探偵……?」

「えっ、お姉さん探偵なの? ドラマとかで見るあの?」

「そうそうドラマとかで見るあの探偵」

「本物はじめて見たかも」


 まぁ普通に生きてたら会うことのない職種だもんねと頷きながら。


「ってわけで、ご協力お願いしまーす」


 私はそれっぽく筆記用具を取り出した。



 十一月九日。お昼過ぎ。

 ハロウィンのイベントに参加していた二人から有益な情報を聞き出した。

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