机に鏡。小物用の小さな座布団。


「それじゃ髪乾かすね」


 その上に生首を置いて自分はソファーにゆったりと座る。

 手にしたドライヤーのスイッチを入れれば。


「んわーー」


 しっとり濡れたエリスの銀髪がシャンプーの匂いと共に波打った。


「ほんと綺麗だよねぇ。羨ましい」


 シャワーを浴びた後のナイトケア。

 エリスがうちで過ごすようになってからの日課。


「もがみの髪も綺麗な色なのだわ」

「私のコレは地毛じゃなく染めてるだけなんだけど」


 緊張してたのは初日だけで今ではすっかり気に入ってくれた人工の風を受け鏡の中の青い瞳が私の頭部に向く。


「自分で色をつけたの?」

「そうそう。まぁ失敗してこんな目立つ色になっちゃったんだけど」


 ほんとはもっと落ち着いた色になる予定だったんだけどなぁ。

 パッケージに騙されたと今さらな後悔が滲む。


「元々は黒髪、てより茶色か。街中歩いてるとすれ違う人達と同じよ」


 根元から毛先まで。痛めないように。

 丁寧に風を当てながら雑談を楽しむ。


「てっきりそんな色の種族だと思ってたのだわ。前にもがみが人間にも色々いるって言ってたし」

「あーだとしたらその種族は私だけってことになるわね」


 金髪とか白髪、赤毛は見たことあるけどここまでハロウィンのカボチャ色した人間は自分以外見たことがない。


「だからもがみに声かけたのだわ」


 指先から伝わる質感にドライヤーを止める。


「よく目立って他とは違うから、もしかして同じ世界から来た存在なのかなって、助けてくれるかもって思ったのだわ」

「……そっ」


 そう言ってくれるなら、この失敗も報われるかなって。

 傍らにあったくしで乱れた髪を整えた。



 十一月八日。寝る前。

 すっかり気分を持ち直したエリスの様子にホッと胸を撫で下ろした。

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