第2話: 体育祭の予行演習
朝のホームルームが終わると、すぐに体育祭の予行演習が始まる。グラウンドに全校生徒が集められ、クラスごとに整列。私はA組の最後尾、隣には優花が立っている。美咲は実行委員だから、マイクを持って壇上にいる。
「みなさん、今日は予行演習です! 本番と同じ流れで進めますから、ちゃんとついてきてくださいねー!」
美咲の声がスピーカーから響く。朝日が眩しくて、目を細める。制服の上にジャージを羽織った姿が、なんだか新鮮だ。
優花が小声で囁いた。
「あかりさん、今日はリレーもあるんですよね。私、出場しないけど……応援、よろしいですか?」
「もちろん。優花の応援、楽しみにしてるよ」
優花は眼鏡の奥で目を細めて、頷く。なんだか嬉しそうだ。
開会式が終わると、まずはクラス対抗の玉入れ。A組は赤いハチマキ。私はカゴ係で、地面に座って玉を受け止める役。美咲は投げる側で、勢いよく玉を放つ。
「あかり、ちゃんと受け止めて!」
「わかったー!」
玉が飛んでくるたびに、私は慌ててカゴを動かす。美咲の投げた玉がぴったり入ると、彼女がこっちを見てガッツポーズ。私は手を振り返す。隣では優花がスコアを数えていて、
「美咲さん、すごい……。あかりさんも、動きがいいです」
「え、そう? ただ必死なだけだよ」
玉入れが終わると、次はリレー。私はアンカーじゃないけど、第三走者。バトンを受け取る瞬間、美咲の声が聞こえた。
「あかり、行くよ!」
バトンが私の手に滑り込む。全力で走る。風を切る音と、観客席からの歓声。ゴールテープを切ると、息を切らして振り返る。美咲が駆け寄ってきて、ハイタッチ。
「やったじゃん! クラス優勝だよ!」
「え、ほんと? すごい!」
優花も拍手しながら近づいてきて、
「お疲れ様です。あかりさん、かっこよかったです」
「ありがとう。優花の応援のおかげだよ」
三人で笑い合う。汗が頰を伝う。美咲が私のジャージの裾を引っ張って、
「ちょっと休憩しよ。水飲もう」
グラウンド脇のベンチに座る。優花が持ってきたペットボトルを回して飲む。冷たい水が喉を通って、生き返る。
美咲が私の横にぴったり座って、
「ねえ、あかり。明日の本番、私の借り物競走に出てくれない?」
「え、私? でも走るの苦手だよ」
「大丈夫、私が隣で走るから。二人三脚みたいにさ」
優花が少し困った顔で、
「でも、美咲さん。借り物競走は一人ずつですよね……?」
「あ、そっか。でも、応援ならいいよね?」
私は笑って、
「うん、応援するよ。美咲、がんばって」
美咲は少し頰を膨らませたけど、すぐに笑顔に戻る。優花が私の反対側に座って、
「あかりさん、私も何か出たいな……。でも、球技は苦手で」
「優花は応援団とかどう? プラカード作るの得意でしょ」
「そうですね……。あかりさんのために、特別なの作ります」
予行演習は午後まで続いた。最後に閉会式。美咲がマイクで締めくくる。
「みなさん、お疲れ様でした! 明日の本番、絶対優勝しましょう!」
グラウンドが拍手に包まれる。私は美咲を見上げて、手を振る。優花も小さく手を振り返す。
放課後、教室に戻って着替える。美咲が私のロッカーの前に立って、
「あかり、明日早起きして、一緒に朝練付き合ってよ」
「え、朝練? 私、走れないよ」
「大丈夫、私が引っ張るから。ね?」
優花が後ろから声をかける。
「あかりさん、私も図書室で朝読書してるんです。一緒にどうですか?」
二人の視線が私に集中する。私は首を傾げて、
「えっと……どっちも行きたいな。朝は優花と、放課後は美咲と、とか?」
美咲と優花が同時に、
「「えっ?」」
なんか、変な空気になった。でも、私は気づかないふりして、
「じゃあ、明日からそうしよう。二人とも、よろしくね」
帰りの電車の中、窓に映る自分の顔を見る。体育祭、楽しみだな。美咲の走る姿、優花の応援。どっちも見たい。
家に着いて、夕飯を食べながら母親に今日のことを話す。
「体育祭、クラス優勝したんだって?」
「うん、リレーで。美咲と優花がいてくれて、助かった」
母親が微笑んで、
「二人とも、あかりのこと大事にしてくれてるね」
「え、そう? 友達だから当たり前だよ」
母親はくすっと笑っただけ。私は箸を置いて、部屋に戻る。明日のために、早めに寝なきゃ。
ベッドでスマホを見ると、美咲からLINE。
『明日、朝6時に校門で! 待ってるよ♡』
優花からも。
『明日の朝、図書室の鍵開けておきます。静かに来てくださいね』
私は返信して、スマホを置く。なんだか胸がどきどきする。でも、理由はわからない。体育祭の緊張かな。
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