引継ぎファイル 供述調書1

               供述調書


住居 東京都■■■■■■■■■丁目■番の■

職業 無職         (電話■■■-■■■■-■■■■)

氏名 ■■ 知子   昭和■年■月■日生(76歳)

 上記の者は、平成28年6月5日警視庁K警察署において、本職に対し、任意次のとおり供述した。

1 私は、二年前に夫を亡くして以来、今お話しした住所に一人で住んでいます。

2 本日は、私が深森で見たものについてお話しします。

3 最初に、深森についてお話しします。

  深森というのは、■■■の古い地名です。今の住所で言うと、■■■二丁目と四丁目にまたがる一部の地域を指すと思います。

  私が小さい頃には、大人は皆その地域のことを深森と呼んでいましたし、昔からこの辺りに住んでいる高齢者は、今でも深森と呼んでいると思います。

  何か地名表示があるわけではないので、新しく来た人たちはそこを深森と呼ぶことは知らないと思います。

  深森は、一年前まではその名前通りの鬱蒼とした森が残る場所でしたが、去年、開発工事で掘り返されて、すっかり地形が変わってしまい、今では森林はほとんど残っていません。森の中にあった小さな祠も、壊されたのかそれともどこかへ移されたのか、なくなってしまいました。

  それが何の開発工事だったのかは、よく知りません。宅地造成とか、バイパスの予備工事だとか、色々な噂はありましたが、本当のところは私には分かりません。

  今は工事は止まっていて、作業員も来ていません。

  工事が止まっている理由については、知りません。

4 私が見たものについて、お話しします。

  それを見たのは、

    平成28年5月31日 午前9時ころ

 のことです。

  私は、天気のいい日の午前中には散歩をする習慣があり、その日も散歩に出たのですが、いつものルートがたまたま水道管の工事をしていて通れなかったのです。

  それで、あまり気は進みませんでしたが、深森の工事現場の横を通る道を歩くことにしたのです。

  深森の工事現場は、重機で掘り返されて剥き出しになった赤土からたくさんの雑草が生えていました。

  小さな羽虫がたくさん飛んでいました。

  高く伸びたハルジオンやナズナの向こうに、花柄のワンピースを着た若い女性が立っていました。

  その人は、越江さんに少し似ている気がしました。

  嫌な臭いがしている気がしました。実際にしていたかどうかは分かりません。

  ただ、とても嫌な気分でした。

  女性は、私に向かって何か言っていました。

  羽虫の音がうるさくて、よく聞こえませんでした。

  私はそのまま無視して通り過ぎようと思ったのですが、女の人が小さな木像のようなものを持っているのが見えてしまいました。

  女の人は笑っていました。

  幸せそうな、とても嬉しそうな声で、私に向かって

    けずってくれませんか

 と言っているのが聞こえました。

    けずってくれませんか、これをけずってくれませんか

 と何度も何度も繰り返していました。

  普通、そんなにずっと叫んでいたら息が切れそうなものですが、その人はずっと同じ間隔で繰り返していました。

  小さな羽虫が飛んでいました。

  とても嫌な気分でした。

  私は何も答えずに家に帰りました。

5 私が家を出たのは、いつも見ているニュースのコーナーが終わる午前8時半で、深森までは歩いて30分くらいかかりますので、私がそれを見たのは、午前9時ころということになります。

                              ■■ 知子 ㊞

以上の通り録取して読み聞かせたところ、誤りのないことを申し立て、末尾に署名押印した。

   前 同 日

                         警視庁K警察署

                           司法警察員

                           巡査部長 都丸 大成



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