色付きメガネで見る世界

わたぬき れおん/四月一日 獅音

世界が綺麗に見える君

「月が綺麗ですね。

 星も綺麗だし、ここに降ってくる雪と水面にうつるすべて!みているすべてが美しいです!!」

  

 発表になると、いつもそうやってみんなの前でも楽しそうにしていた君。


 でも美しいものはいつも私の中からいなくなってしまいます。本当にいつもです。

 君だっていなくなってしまいました。

 きっとここまでくると、私が何かしているのかもしれません。気づくといなくなります。

 私の何が悪かったのでしょう?何がいけないのでしょう?

  

  

「おはよう!理石! 今日のベーグルみた!? 僕美味しそうすぎて今年も買っちゃったよ!! 期間限定のやつだよ!!」

「見たよ、いつもやってるやつでしょう、私も去年買ったし今年も買うつもり。

 にしてもよく買えたね、人気やばいじゃん」

「僕すっごく運が良くてね! 僕があれ好きだからって知ってた前の人が急いで声かけてくれててね! 後ろに人もいなかったからすぐに買えたんだ!!」

「いつもながらの人徳というか、さすがすぎやしない?? あれに並んでないってあるの?」

「僕ってばラッキー!」


 その日、出ていたお題は「最近見つけた素晴らしいもの、または心に残ったもの」「二度と想像もしたくない景色」でした。

 今おもうとなんて極端なお題。


 それでも。

 世界がいつも綺麗な君には選ぶ余地も無いようで、

「どれにしよっかなー!!」って。

 たくさんのキラキラから素敵なものを選ぶのに忙しそうでした。


 何も思いつかず、最近見つけた素晴らしいことにあなたを思い浮かべ。

「笑顔の素敵な誰をも惹きつける人が、天真爛漫でいること」について発表した私に、

 素晴らしい発表だったと心の底から思っているように、(いえきっと君は本当にそう思っていたのでしょうが)言ってくれましたね。


 行く場行く場に、楽しみを見出せない。あのとき私には君が全ての理由だったのです。

 それに気づいていないことが、君をより綺麗なものにさせていました。


 街で見かける信号に綺麗な鳥が止まっていたこと、立ち寄った店の内装が可愛いこと、新しく知り合った人がどんなに素敵か。


 他の人にも話していたとは思いますが、外をあまり出歩かない私には、君が世界を見せてくれていたも同然でした。


 世界が綺麗なものにしか映らない君に教えてもらうこの世界は、自分で味わうよりずっと美味しく楽しい。

 君と楽しく遊び勉強していた日たちは、一等素敵で煌めいていました。


 振り返ると、煌めいていたということは、次の瞬間には無くなってしまうことを意味していたのかもしれません。

 いつのまにか煌めきは私の近くにはいなくなってしまったようです。


 あの日、いつもいたところに姿を現さなくなったあの日。

 偶然ではありませんでしたね。

 久しく行っていないという湖や公園に出かけて、いつものように絵を描いているのかと。ただそう思っていました。


 けれど、そのあと誰も君を見かけることはできませんでした。

 いません。いつ探しても姿は見えません。


 綺麗で素敵で美しいものが大好きな君は、あるいは同じように綺麗な、何かに魅入られて私たちからは見えないそれは綺麗な世界に行ってしまったのでしょうか。


 どうか無邪気で誰からも愛される、素敵なままでいてください。

 私に会わなくていいから、君が変わらないことが嬉しいから。


 きっとこれからも、私が見つけた美しい人はどんどん近くにはいてくれない日々が続きます。きっとそう言う定めなのでしょう。


 ーーー月が綺麗ですね、恋愛か友愛かはわかりません。でも私君のこと大好きでした。

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