ソース君と生クリームちゃん
由汰のらん
第1話
僕の名前はソース。割と割高のお高めな濃厚ソース。細身のボトルに入った、甘めが自慢のソースだ。
僕の存在意義は、食材にかけられる調味料であること。
醤油ほど出番は多くない。でも時として調理中に唐突にかけられることもある。例えばチャーハン作る時、焼きそば作る時、デミグラスソースを作る時など。
そして今僕は、生クリームという存在と対面している。人生初の対面式だ。
「……君、生クリームだよね?真っ白でふわふわ。それでいてほぼ油脂にも関わらず誰からも愛され年中イベントごとで大量に使用されると噂の生クリームだよね?!」
初めて彼女を見た僕は半ば興奮気味。
すると、平たいお皿に乗ったひとすくいほどの生クリームが言った。
「あな、きみはだあれ?我が名は確かに生乳脂肪なり。されど我は口惜しながら思はれたる生乳脂肪ならず。」
こいつ、生クリームの癖して時代錯誤だ。
古典女子を気取ったつもりかもしれないが、『生乳脂肪』って言葉、古典文学栄えていた時代にはなかったと思う。割と卑猥な響きでそれにも驚きだ。
「ええと、初めましてが先だったね。ごめんね。僕の名前は濃厚ソース。ところで君はなぜ『愛されている生クリーム』じゃないの?」
「主は“しょーとけーき”を買ひしくせに、『苺とすぽんじの食はまほしかりしばかりのごとく、生乳脂肪は苦手なれば残す』と言ひて、我はかくし捨て置かれたるぞ。」
「ええ!うちの主、生クリームが苦手だったの?!」
「さり。なにともわびしき心地になりき。」
生クリームがしょんぼりと、立っていた角を傾ける。かなり落ち込んでる様子だ。
「ああ、そんなに落ち込まないで?! せっかく君と僕がこうして出会えたじゃない!せっかくだから楽しいおしゃべりをしようよ!」
爽やかさを全面に出し、“いい男”の印象を彼女に植え付ける。
僕は、生クリームというものといっしょくたに混ざり合うのが目的だった。
彼女と無我夢中で混ざり合う姿を想像だけで興奮してしまう!
おっと、興奮しすぎでボトルの外側に結露が出来てしまった!危ない危ない。こうも簡単に見切り発射してしまっては、彼女をただNTRしてしまうにすぎない。
はは、それではただの性犯罪ソースだ。
「かたじけなくたれ“そーす”や。我もきみと楽しくお物語がせばや。」
「嬉しいなあ。こんなにも美しい君と語り合えるなんて!」
「嬉しきなど、さても新しきお言の葉。」
こうして僕と生クリームさんは小一時間おしゃべりを楽しんだ。
ソースの油分量がいかに低いか。それでも醤油の油分量の方が低いこと。やっぱり醤油という存在には勝てず、僕にはコンプレックスがあること。そしてウスターソースがやたら鼻につくこと。
主導権は確実に僕が握っていた。
なんでも僕の味方であるかのように受け答えをしてくれる生クリームさんは、思った通りの“いい女”。やっぱり是が非でも混ざり合いたいと思った。
「な、生クリームさん! ぜひ、ぜひ僕と一夜を共にしてください!!」
中濃ソースとウスターソースの違いを語っている間に、思わず本音を叫んでしまった。
もう僕の外側は結露でびっとびとだったのだ。
「い、一夜を共に?! さる、我は誰にも思はれたらぬ生乳脂肪といふに。きみは思ふともいふ?!」
「お願いだよ生クリームさん!こんな獣のような僕だけど、僕はずっと君という油脂に液体を打ち付けることが夢だったんだよ!」
「無用よ、無用無用!されど、我もすずろに体が火照りて……」
今にも溶けてしまいそうな生クリームさんが、お皿に身体を堕落させる。
あまりの色欲さに、僕の理性が飛んだ。
その時だった。
『お兄ちゃーーーん!! このお皿の生クリーム食べていいの?!』
『ん、ああいいよ。俺クリーム嫌いだからお前にやる。』
『さんきゅー!』
主の妹が生クリームさんの乗ったお皿を持ち上げる。
生クリームさんが、そのまま妹の口の中へと滑り込んでいく。
「あぁぁっぁぁぁあああああああ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!生クリームさぁぁぁあぁあああん!!!!」
「いや、うたてきぞ!!いまだきみとあまた語り合はまほしかりきよーーー!」
こうして僕らの出会いは儚く散ったのだった。
また会える日を信じて、僕は自分の肉体を結露でびっとびっとにさせるのであった。
【終】
ソース君と生クリームちゃん 由汰のらん @YUNTAYUE
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