青空の果て、俺は獣になっていた

@tsuberoo

第1話 春の出来事

> 小鳥のさえずり、森の風、太陽の明かり。

それを求めた俺がいた。




社会人1年目、俺は絶望を味わっていた。

「ハァぁぁぁ…」


「おいおい、ため息ばっか付いてたら運が逃げるぜ?」

俺の親友・大西がコーヒー片手に椅子に座る。


「だってよぉ…この都会の空気とか、会社の雰囲気、もー!いやだ!」

「わかるけどよ、俺たちはもう大人、子供じゃねぇんだからシャキッとしろ」


大西は俺の机にコーヒーを置いた。

その言葉通り、俺はいつまで子供気分で居るんだろうと考え、またため息が出てしまう。


「お疲れ様です」

会社の残業が終わり、眠気に耐えながら帰る。


その時――(プルルル)

「電話?」


電話に出て前を見ると、そこにはバイクがものすごい勢いで向かっていた…(ドォオン)

鈍い音とともに体が吹き飛ぶ。

聞こえたのは、ただ救急車のサイレンと人々の声だけだった。



---


目が覚めると、目の前はまさに――「雲?」

ふわふわとした、信じられないほど柔らかい空間に俺は包まれていた。


「そろそろ起きんか」


振り向くと、そこには――

(なんだ、いかにも神みたいな見た目のおっさん…)


「聞こえてるぞ!」

「えぇ!? おっさん、心読めんの? てか…ここどこだよ!」


「疑問に思うのもわかるが、今は時間がないんじゃ」

おっさんは淡々と語り出す。


「お前はまあ、死んだ」

俺は思わず声を詰まらせた。

「そんなあっさり!?」


「人間は脆いもんじゃ。ここはあの世の受付場みたいなもんじゃ」

雲のような柔らかい足元が少し揺れる。

俺はまだ夢の中にいるのかと疑った。


「じゃあ俺は天国か地獄、どっちなんだよ」

「まあ、そんな焦るでない。単刀直入に言うと――お主は転生じゃな」


淡々と自分のペースで話を進めるおっさん。

俺の心臓は早鐘のように鳴り、頭が真っ白になった。


「ちょ…待ってくれよ! 簡単に決めやがって…転生先ぐらい選ばせてくれよ!」

「お前はもう決まっておる。規則で言えんがな…そら、行ってきい!」


次の瞬間、俺の周りに穴が空き、体が落ちていく。


「うわぁぁぁぁ――!!!」

---


> 目が覚める。

頬をくすぐる、柔らかな風の感触。

まぶたの隙間から差し込む光は、まるで春の朝日のようにあたたかい。




ゆっくりと身を起こし、あたりを見渡した。

そこには――俺がずっと求めていたものが広がっていた。


果ての見えない草原。

空には雲ひとつなく、どこまでも透き通った青。

草の匂いが胸いっぱいに広がり、遠くでは鳥の声まで聞こえる。


「……すげぇ」

思わず、息を漏らす。


この空気、この景色。

都会の喧騒の中で夢にまで見た“自然”が、今、俺の目の前にあった。


――だが。


ふと、違和感を覚える。

体の重心が妙に低い。足元が、地面に近すぎる。


嫌な予感がして、震える手で自分の腕を見る。


「……え?」


そこにあったのは、毛に覆われた獣のような手足。

指は短く、爪が光を反射していた。


頭の中が真っ白になる。

鳥のさえずりも、風の音も、遠くに霞んでいく。


数秒の沈黙。

そして、ようやく言葉が漏れた。


(あのクソジジイがぁ――!!)

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