本物の肉

ふわりねむ

本物の肉

「おじいちゃーん、おじいちゃんは人間が作ったアニメとかみたことあるんだっけ?」

「そうだなぁ……若い頃はまだ、人間が作ったアニメや漫画がのこっていたなぁ」


 技術の発展、宇宙進出、激動の時代だった過去。

 今では『人間が作った創作物』というものは貴重で、一部の人間にしか見ることは出来なくなってきている。


「アニメの話してよー、生成AIが配布してるアニメじゃ、おじいちゃんの話聞くとなんでかわかんないんだけど……満足できなくなっちゃった」


 俺が若い頃もすでに生成AIが主流だった。

 技術の進歩に、人類は勝てなかったとも言えるかもしれない。


 その結果起こってしまったのが、若者の『創作離れ』。


 自ら作品を生み出したところで反響などもらえない。

 どんなに才能があっても現状を憂い、その道を閉ざして行く。


 そうして、世界から自分だけで創造ができる人間が極めて少なくなり、

 今では、作家、ひいては創作者の不足が問題となっている。


 数少ない作家は国に囲われ、一部の人間だけがその作品を閲覧できる。

 庶民はもちろんそんなものに手は届かず、過去のデータも学習済み。

 生成AIで生成したものを学習したデータによるアニメ、漫画、小説を……ただ、だけの時代。


 そうして生み出された劣化品の劣化は世を汚染し……

 やがて世界を停滞に追い込んだ。


 でも、これでよかったんだろう。


 人類が生み出せる創作の数なんてものは元々不足気味で、問題も多かった。

 本当の創作を知らないのなら、誰も文句なんて言わない。


 時代は変わったんだ。

 停滞はしているが、平和で安定している。

 テンプレから生み出される最低限の質を保った作品が無料で誰でも見られる。


 仕事なんて特に必要もない。


 戦争なんておこらず、これで満足できるからこれ以上の欲もない。

 過去を知っているものも今じゃ少ないしな。


 ──知らないって、平和だ。


 そうして世界は回って行く。


 でも、ほんの少しだけ、人にしか出来ない『あの何か』。

 もう忘れてしまった『何か』が懐かしい。

 

「おじいちゃーん?」


「話はするけど、いつも言う通り……」


「わかってるよ、誰にも言わない!」

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