賞味期限1000年

糸川透

賞味期限1000年


2025.10.30


「あー、腹減ったな。なんか食べ物あるかなー」


 冷蔵庫を開けるが、空っぽだ。戸棚を見ると、レトルトカレーとうどんがあった。


「おっ、賞味期限今日じゃん、危ねー」


 今日はカレーにしよう。そう思って箱から取り出そうとする。

 その時、違和感を覚えた。もう一度賞味期限の欄をよく見る。


「あれ? これ、2025年じゃなくて3025年だ」


 そう、箱に書いてある賞味期限の記載は「3025.10.30」だった。

 誤表記だろうか。隣の説明文をよく読んでみる。


「いつも賞味期限を切らしてしまう皆様にご朗報。弊社の新技術を使って、賞味期限を約1000年まで延ばすことができました。この期間以内は味も落ちず、お腹を壊すこともございません。これで賞味期限を気にする日々とはもうオサラバ!」


 へえ、そんな技術が。それなら安心。今日はカレーじゃなくて、賞味期限が近いこっちのうどんにしよう。





2100.07.14


「おじいちゃん、これなにー?」


「おお、それは……! このカレー、結局食べることは無かったな。もう今更濃い味は食えんわい。お前さんにあげよう」


「やったー、ありがとう!」


「もー、また変なものを。何十年前からある食品なんて食べられるものですか。ほらシゲ君帰るよ。もー、どうしてもそれ持って帰るの? はいはい、分かったから」





2239.02.21


「ん、おい、倉庫に変なものがあるぞ」


「ちょっと先輩、遺品整理中に遊ばないでくださいよ。なんですかそれ。レトルトカレー? 一体いつの時代のやつですか」


「すっげー年季入ってるな、これ。ん? おい、このカレー、800年後が賞味期限だってよ! 面白いからもらっちゃお」


「いやいらないでしょ。今は自動調理ロボットがどんな料理でも作ってくれるんだから。こんなの化石みたいなものですよ」


「お前はロマンというものがわかってない」





2351.08.31


「よし、じゃあ皆思い思いの物をタイムカプセルに入れて地面に埋めよう! おっ、ハナちゃん、それは何だい?」


「レトルトカレーです。道で拾いました。未来のお腹を空かせた子に、これを食べてお腹いっぱいになってほしいんです」


「うん、良い心がけだ。まあ、全てが自動化された現代では、誰も飢えることはないだろうけど、こういうのは気持ちが大事だからね」





2792.12.22


「くそっ、凄い爆撃だ。ん、なんだあれ。……これは、レトルトカレー! 土に埋まってたのが今の爆撃で掘り起こされたんだな。よし、これは大事に取っておこう。サイバー攻撃でもうロボットは動かないからな。こういう食糧は大切だ」





2804.01.31


「やった、戦争が終わった……。安心したら腹減ってきた。そうだ、結局食べてないカレーがあったな。それでも食うか。ん? はい、もしもし。え、今夜は皆で終戦記念パーティだって? 

 ったく、しょうがないな。ああ、行くに決まってる!」





3023.04.03


「あんたが一人暮らしやっていけるか心配だわ。どうせすぐに自炊もしなくなるだろうし。そうだ、賞味期限が二年くらいのカレーがあったから、それも持っていきなさい」


「ありがとう、お母さん」





3025.09.15


「あー腹減ったな。おっ、カレーがあった。

んー、でも気分じゃないな。コンビニで弁当買ってこよ」





3025.10.30


「今日も外食しよーっと」





3025.11.02


「げっ、このカレー賞味期限三日過ぎちゃってんじゃん! まあ、いけるか。……うん、味は全然大丈夫」





3025.11.03


「くっそ、腹壊した……」







 








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賞味期限1000年 糸川透 @itokawatoru

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