【ハロウィン記念】幼馴染みゾンビと、三つの恋心 ~ ロスト・アンド・ファウンド ~

月影 流詩亜

前編:未知子 視点「オペレーターは失敗しない」

​「はい、決定」


 ​私の声が、古びた社宅のリビングに響く。


 幼馴染み六人。いつものメンバーを見渡して、私は続けた。


「今年のハロウィン仮装は『ゾンビ』

 予算ゼロ、手間ゼロ。インパクト大。異議は認めない」


​「ええ~、ゾンビ? 地味じゃない?」


 飛鳥アスカほおを膨らませるが、知ったことか。


 ​ 私がこの「オペ」を計画したのは、他でもない。

 ソファの対角線上に座る二人、歩美あゆみ桂一けいいち


 ​……こいつら、お互い好きなくせに、いつまで「生けるゾンビ」みたいな顔してるんだか。

 仮装より先に、こいつらの関係性をどうにかする方が先決だ。


「で、歩美」


「ひゃいっ!?」


 突然、素っ頓狂な声を上げる歩美。


「あんたの今日のオペは『桂一への告白』。いい? 私、失敗しないので」


「む、む、無理だよ、未知子みちこちゃん!」


 案の定、歩美は顔を真っ赤にして両手を振る。

 一方、名指しされた桂一は「!?」と一瞬固まったくせに、すぐに冷静なフリを取り戻す。


​「……なるほど。ゾンビか。確かに、現状のリソースで最大の効果を狙うなら、それが合理的だ」


 ​クソつまらない論点のズラし方だ。

 ……ダメだこりゃ、両片想い末期症状。

 重症だ、即時オペ対象 !


 ​チリ、と背中に視線を感じる。

 見れば、案の定、銀次だ。

 あいつは、昔からそうだ !

 ガキ大将のくせに、私を真っ直ぐすぎる目で見つめてくる。


 ​(……人のこと、言えないか)


 ​私も、銀次のこの無神経なまでの「男気」に、惹かれている。

 私は、その視線から逃れるように、わざと強く指示を出す。


「銀次!」


「お、おう!」


「あんたは男子組まとめておけ。桂一は理屈っぽくて使えないから、あんたが『男気』ってやつを注入しとけよ!」


「おう! 任せとけ!」


 ​……単純で、助かる。だが、そこがいい。


 ​銀次が信次しんじと桂一を引き連れて部屋を出ていくのを横目に、私はスマホをタップする。


 ​【 宛先:銀次 】


 ついでに、露店でアクセサリーでも買っとけ。

 ムード作りもオペの一環だ。


 ​すぐに「?」と「OK!」が混ざったスタンプが返ってきた。よし !




 ​PM 2:00


 過疎化の町おこしとはいえ、ハロウィンの露店街はそれなりに活気があった。

 ゾンビメイク用の絵の具やら血糊やら、最低限の買い出しだ。


​「なんでゾンビなのよ。全然映えないじゃない」


「……別に、いいんじゃない。目立たなくて」


 飛鳥と信次がいつも通りのやり取りをしている。

 ​私は、先導する銀次を見る。


(よし、見てるな)


 あいつは、私の指示通り、アクセサリーの露店をチラチラと確認している。

 ​一方、問題の患者は……


​「この人流密度では、経済効果は限定的だ。

 そもそも仮装の統一性が……」


「桂一! うるさい!」


 ​イラッとして、私は桂一の背中を叩く。


「痛っ。なんだ、未知子」


「理屈はいいから、行動しろ。……ほら」


 ​私は、アクセサリーの露店で足を止めている歩美をあごでしゃくる。


 歩美は、ルナモチーフの、小さな銀のネックレスをじっと見つめている。


 ​桂一が「!」と固まる。


「……歩美、欲しいのか?」


「ううん! なんでもない!」


 ​ 歩美は、また真っ赤になって走り去ってしまう。

 桂一は、その場に立ち尽くしている。


 ​「あぁ~あっ……」


 私は盛大なため息をつく(前途多難)


 ​だが、ミッションは進んでいる。

 視界の端で、銀次がこっそりピアスを、そして桂一が少し迷った末に、あの月のネックレスを買ったのを、私は確かに確認した。


「さて、第一段階クリア。オペは、ここからだ !」


 ​ゾンビメイクで、その真っ赤な顔も、青ざめた顔も、全部隠してやる。


 今夜、この生ける屍たちを、全員「人間」に戻してやる !


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