独白

愉快なオハゲ

第1話

アムリア……貴方のことが好きでした。

貴方は、私のことなど知らないでしょう。

それでも、かまいません。

貴方が治める国が好きでした。


ここに流れ着いて、どれほどの年月が経ったでしょうか。

この世界では、×××の代わりに魔術が発達している。

私は、貴方が振るう魔術に、貴方という存在そのものに、心を突き抜かれた。

話をしてみたかった。

知識を披露し、驚かれ、敬われ、そして傍に仕えたかった。


出来なかった。

いや、出来なくてよかったのだろう。

指先一つで、ボタン一つで、何人もの命が――星すら滅ぼせる知識を、世に出すべきではない。

陰から見守る、それだけでよかったのだ。


人とは、どこへ行っても醜いものだ。

魔術があっても、呪術があっても、カガクがあっても……人は、人を。星を。

いつかまた滅ぼすのだ。


私は愚かな人間だ。

貴方の身体を蝕むものを、この世界から消そうとした。

だが、それを為せば世界そのものが崩れる。

だから私は止めた。

そして――人を辞めた。

フネとともに、散布が終わるその時まで。


手記には、数字のようなものと文字のようなものが組み合わされた、文章のような絵が描かれていた。

最後に、一言だけが残されている。


火も魔法も、燃料がなければ燃えない。


暮らしは変わるだろう。

争いは起きるだろう。

私はその責任を負わない。

私は汚い人間だ。醜い人だ。

異界から来た流れ人、それが私。


この世界には、魔科学が存在している。

だが、魔法も呪術も、もはや存在しない。

はるか昔の古代魔術――それを“魔法”や“呪術”と、私は学んだ。


私は、この手記を燃やした。

歴史的に重要なものであることは、言うまでもない。

だが、出すべきではない。この手記も、この場所も。


歴史学者フラクタル・ジョルダーナは、自身の飛空艇に乗り込み、静かに立ち去った。

山頂には、焦げ跡だけが残り、風が淡く吹き抜けていた。


――それが、最初の“散布者”の記録である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

独白 愉快なオハゲ @hanyomi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ