GYT-010 リオラクーン

【 ギルド管理番号 】 GYT-010


【 通称 】リオラクーン / 森の王フォレスト・キング


【 脅威レベル 】 黄 (Yellow)

 Bランク(銀級相当)冒険者パーティでは対処不能、あるいは全滅のリスクが極めて高い。討伐には鱗を貫通可能な火力と、その猛攻を凌駕する速度、あるいは圧倒的な防御力を備えた熟練パーティ(銀級以上)が必須と判断されるため。


【 概要 】

 七大大陸のうち、特にフィルモサーナ大陸やゴンドワルナ大陸の深き森に生息する大型の獣型魔物。熊に匹敵する巨躯と、恐竜を彷彿とさせる強靭な鱗を全身にまとっている。性質は極めて獰猛かつ縄張り意識が強く、侵入者を即座に脅威とみなし排除行動に移る。その討伐難易度とは裏腹に、その肉は「絹のように滑らか」「舌の上でとろける」と評され、一度口にすれば忘れられない比類なき美味として知られる。特に「銀帯肉」と呼ばれる腹部内側の部位は、王侯貴族や大富豪、美食家の間でステータスシンボルとして扱われ、その希少価値から常に需要が供給を上回っている。ギルドでは素材(食材)確保のため、常時高額の討伐クエストが掲示されている。


 なお「森の王」の通称は、単にその強さだけでなく、リオラクーンの縄張内では他の大型魔物の目撃例が、リオラクーンを恐れて著しく減少する傾向が確認されているためでもある。ギルドは、この魔物を危険な討伐対象であると同時に、特定の森林生態系の均衡バランサーを担う存在の可能性もあると見て、調査を継続している。


【 識別特徴 】

  成獣は熊を凌駕する体躯を誇る。最大の特徴は全身を覆う硬質の鱗であり、日光や魔力の光を鈍く反射する。 縄張りを示すマーキングとして、獣臭とは異なる、麝香じゃこうにも似た独特の香りを放つことがある。この匂いがする場所では、良質な脂が乗っている個体が存在すると言われる。


 その全身の鱗は並の鋼鉄製武器を容易に弾き返す。下位・中位の攻撃魔法に対しても高い耐性を持ち、Bランク(銀級相当)パーティの標準的な火力では有効打を与え難い。巨体に見合わぬ敏捷性を持ち、獲物を認識すると即座に突進攻撃を敢行する。熟練の前衛であっても盾ごと粉砕ふんさいされる危険性がある。強靭な爪による引き裂き、あるいは強大な顎による噛みつきは、いずれも致命傷となり得る。一度敵と認識した対象は、執拗に追跡する。


 仮説ではあるが、 リオラクーンの肉、特に『銀帯肉』の比類なき美味さは、その特異な食性にあると推測されている。彼らは特定の魔力鉱脈の周辺にのみ生息し、微量の魔鉱石まこうせきや魔力を帯びた植物の根を意図的に摂取する。体内で分解・蓄積された魔力は、極上の旨味を持つ特殊な脂質へと変換される。この脂質こそが、美食家たちを虜にする味の根源だと考えられている。


【 遭遇時対応プロトコル 】

❖ 銀級未満のパーティ

 即時撤退。いかなる理由があっても交戦は許可されない。遭遇=死と心得よ。


❖ 銀級以上のパーティ

 討伐を試みる場合、鱗を貫通しうる手段(ミスリル銀以上の武器、徹甲矢、高位の属性魔法など)を持つメンバーが必須。防御役は一体の猛攻を一時的にでも引き受けられる重装鎧と技術を要する。推奨戦術として、対象の防御力を凌駕する、短時間での集中攻撃。長期戦は消耗と負傷者を増やすだけである。


※腹部(銀帯肉)に大きな損傷を受けた素材の買い取り価格は、無傷のものの3割以下に急落する。致命傷を与えうる鱗の隙間と、最高額の金貨を生む腹部は紙一重である。諸君が『黄』レベルのリスクを冒す理由を、今一度冷静に判断せよ。


【 過去のインシデント記録 】

❖ 記録 GYT-010-A(銀級パーティ「鉄の顎」討伐報告より抜粋)


> ……ダメだ、隊長のミスリル戦斧が弾かれた! 鱗が硬すぎる! 魔法(ファイア・アロー)も効かん! ……(悲鳴)……撤退だ! 後衛を、後衛を守れ! ぐあっ!

> (結果:パーティ半壊。生存者2名)


❖ 記録 GYT-010-B(王都貴族・紛争調停記録より)


> 発端は、辺境伯へんきょうはくによる『リオラクーン保護(と称した独占)のための禁猟区設定』の布告である。これに対し、同等の美味を求める他の複数の貴族(主に美食家で知られる公爵家)が、『ギルドの自由な活動を阻害し、市場価格を不当に吊り上げる行為である』として王家へ提訴。あわや派閥抗争に発展しかけたため、ギルドが調停に入り、当該森林におけるリオラクーンの狩猟権を『ギルド管理によるオークション制』とすることで両者を手打てうちさせた。


❖ 記録 GYT-010-C(王都衛兵隊・押収品目録より)


> 押収品: リオラクーン「銀帯肉」 約3kg(鮮度良好)

> 経緯: 銀級パーティ「疾風の刃」が、ギルドへの正規納品(クエスト達成物)を横領し、闇市にて貴族の仲介人と取引しようとした現場を拘束。

> パーティリーダーの供述: 「我々が命を懸けて手に入れたものだ。ギルドの買い取り額(金貨十枚)では割に合わん。仲介人は金貨五十枚を提示した。何が悪い」


【 ギルド調査員からの注記 】

 この獣の脅威レベルは『黄』だが、その素材(肉)の市場価格は『赤』級の魔物の素材に匹敵、あるいはそれを凌駕する。ギルドが掲示する討伐報酬も高騰を続けているが、闇市での価格はそれを遥かに上回る。この歪な需要と供給のバランスが、多くの銀級冒険者を、その実力に見合わない過剰なリスクに晒していることを忘れてはならない。


 諸君は「肉」を狩りに行くのか、それとも「金貨」を狩りに行くのか。その判断を誤れば、森の王の(腹ではなく)鱗の錆となるだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る