マレディクティオ
キナカカ
プロローグ
祭囃子が聞こえた。私には不愉快でしか無かった。祈舞が始まる。自分達であれを殺しておいて、その上蘇生させようなどと考える奴等に反吐が出る。私は汚い牢で力無く横たわっていた。腱を切られ、皮膚を削がれ、ただぼんやりと心の奥底を揺蕩うことしか私にはできなかった。過去の貢献も、名誉も、何もかも無駄だったらしい。こうも世が歪んだのは、今にしてあの一件のせいだと感じていた。昔、この地に神が舞い降りた。外から来た神は超常の力を有していた。人々はようやく目に映った神を崇め奉った。神は己を信奉する者達に力を与えた。願いに共鳴する力だった。それよりも前にも人には力があった。しかし、外の神の力は桁違いだった。人々は簡易的な想像ならば思うものを形作れるように進化した。かような力をもたらす神を中心に国が築かれる事は必然だった。降臨した神の国は全てが順調だった。全てが神を中心に集まった。一神教は楽だった。神も満足げだった。しかし、それも束の間だった。人が思い描く空想には拍車がかかり、誇大妄想ももはや実現可能な世界へと変貌してしまっていた。とある宴の夜、神の側近たる高僧達が神を殺害した。神の死はこの世界を大きく歪めた。人々は、それぞれがそれぞれの思想を掲げ、神の血肉を求め、争い始めた。この聖戦に私は英雄として名を刻んだ。像まで立つ程だった。神速の剣として人を導いた行く末が祭事の贄だった。もうすぐ始まる。気づけば青白い男達が牢の前に立っていた。仰々しい儀式服は香の残滓を纏っていた。私の腕を乱雑に掴む彼らを振り解く力はもう込められなかった。冷たい牢の通路には私以外の虜囚も見られた。力無く横たわる姿に神性は見受けられなかった。ああ、この世に救いは無いのだな。目を背けたくなるものは無くなるばかりか、増え続ける。しかし何故なのだ。それでも私の中の生への燻りは消えない。まるで、この世界に呼ばれているようだ。
マレディクティオ キナカカ @kinakaka
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