【22話】まっとうな
稽古場を後にし家に帰ると、先に帰宅していたキャノが昨日にもましてニヤニヤしていた。
「おかえり、語くん。にゃにゃにゃにゃにゃー。」
…どうした。猫の姿で過ごしすぎて、脳まで猫に支配されてきたか。このまま本当の猫になってしまったりしないだろうな。
「そんなわけあらへんやろ。」
だったら、それはそれで気持ち悪い。何をにゃーにゃ―言ってるんだ。猫カフェの面接でも行ってきたんだろか。猫として雇われたところで、カリカリは出ても給料出ないだろうけど。
「自分、ここんとこイジりかた雑やで。減点や。」
キャノだってツッコミが減点のワンパターンしかないじゃないか。未来人っても大したことないよな。
「ほお、これを見てもそんなこと言えるか?」
とキャノは見慣れない大きなカバンを示す。まだ新しそうに見え、商品タグまで付いている。お前、盗ってきたのか。流石に犯罪はダメだろう。
「んなわけないやろ!ええから、中見てみ。」
恐る恐る中身を検める。これは…札束じゃないか!やっぱりお前…!
「やからちゃうって!まっとうに稼いだお金や!」
「こんな大金、半日そこらで稼げるわけないだろ。お前、捕まっても未来に逃げれるとか考えて銀行強盗でもしたんじゃないだろうな!」
そもそも、この強盗犯を捜査したところで警察は100%犯人を捕まえることはできないだろう。なぜなら、キャノは姿かたちを変えられる。おまけによくわからない空間にアイテムボックスみたく物を出し入れできる。完璧に証拠を隠ぺいできるので、捕まるはずがない。
「流石にそんなことはせえへん!半分は間違ってない気もするけど!」
泥棒猫はにゃーにゃー主張する。半分は犯罪なんだったらどっちみちアウトだよ!こんなことに俺を巻き込んでくれるな!時の流れに影響しないとしても、俺は自分の人生が大事なんだよ!共犯なんかになりたくない!
「キャノ、流石に犯罪はダメだよ。ちゃんと返してきなさい。」
「ニコちんまで言う?自分、これどうやって稼いだか知ってるやんか。」
なんとニコルまで共謀していたらしい。こいつ、この時代に来てカレー食べる以外何もしてないと思ったら、裏で暗躍していたなんて。もうこいつら信じられない。もしかして、実はサンタクロースなんて嘘で、こいつらの実態は時代を跳びながら盗みを繰り返すタイムトラベラー型の海賊か何かなんだろうか。ありったけの金をかき集め、未来まで運んでゆくのさ。大金。
「流石に飛躍しすぎですよ。只埜さん。仮にそうだったとしたら、私たちが只埜さんに接触する意味も、一緒に時を跳ぶ意味もありませんよ。そもそも、この時代の通貨を持って行ったところで、私たちの時代では何の価値もありません。」
「だったら、この金はなんなんだよ。」
「うちが語くんから借りたお金を元手に増やしてん。」
「どうやって。」
「お馬さん見て。」
つまりそれは…もしかしなくても十数頭の馬がいっぺんに走るやつか?ということは?
「お、理解が早いやん。そう、未来のデータ取り寄せて百発百中よ。時間は跳べへんけど、通信はできるからな。まあ、反則感は否めへんけど、こっちだって緊急事態や。これくらいは許されるやろ。言っとくけど、こんなキワドイことしたんはうちかて初めてやで?」
キャノ曰く、それっぽいおじさんに変化し、途中何度か姿変えながら怪しまれないように勝ち続けたらしい。確かに未来には今日のレースの結果が残っているかもしれないし、それを使えば簡単に資金を増やすことができる。ピョイっと時間を跳んだ先からフィードバックもらうだけで勝てるなんてウマい話だ。馬だけに。略して、ウマピョイとでも呼ぶか。…アウトか?
ともかく、合法…と言っていいかは怪しいが、明らかな犯罪を犯したわけではないことはわかった。疑って悪かった。…いや、でもカテゴライズ的には不正なのは否めないか…。
細かいことは気にしたらあかんで、とは言うもの既にグレーゾーンの反則技で大金を手にしてしまったことは事実だ。返してこいと言ったところで、なんと説明して返したらいいかもわからない。実は未来のデータを使ってーなんて言ったら、それこそ警察ではない何かへたちどころに連行されてしまいそうな気もする。どこかに寄付しても目立ってしまうし、実際俺たちは金がなくて困っている。倫理観と正義感が邪魔をするが、これは甘んじて当面の資金源として運用させてもらうのが一番良いと毛荒れスミスも言っている気がする。
「ちょっと思うところはあるけど、キャノなりにいろいろ考えてくれたんだよな。ありがとう。ありがたく使わせてもらうとするよ。」
「すまんな。ほんまは全うな資金を用意してあげたかったんやけど、今のうちらにはこれくらいしか方法がなかってん。」
「語さんを巻き込んでおきながらずっと働かすだけというのも失礼な話ですし。そもそも私たちがもう少ししっかりしていれば、こんなに語さんに頼りっきりにならずに済んだんです。だから、お金くらいは何とかしようってキャノと話して…。」
こいつらはこいつらで思うところがあったようだ。別に自分の生きている時代じゃないのだから、わかる人に任せるのは変な話じゃないと俺は思うんだけど。しかし、頼ってくれていたのか。それを知って少し嬉しい。
「というわけで、語くん。悪いけどこのお金でニコちんの服とか必要なもん買い出しに行ってほしいねん。よろしく。」
結局このパターンかよ!ていうか、女の子の服なんて俺に買わせるな!
「しゃあないな。うちがついて行ったる。お買い物デートや!」
必需品の買い出しを終え、再び灯の家へ帰宅する。ニコルや俺の服や肌着の他、この時代での連絡ツールも必要と格安スマホを3つ契約した。俺、ニコル、キャノの分だ。
諸々の準備品を購入しても、資金は全く減った気がしない。半年くらいは何の心配もなく充分に暮らせるだろう。となると…。
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