【19話】サンタの社会-2

「なるほど。只埜くんと言う子を連れて行ったのか。」

「やはり、間違った判断だったでしょうか。」

「その只埜くん、どういう子なんだい?信用に値するのか?ハニーは惚れたりしないか?」

「仮長、今は真面目な話をしているんです!」

「真面目な話だよ。自分は気づいていないかもしれないど、ハニーだって立派な女の子なんだ。人を好きになることもある。ましてや、好きになられることも。」

 正直、恋愛はよくわからない。縁を紡ぐなかで、人同士の想いに触れることは度々あった。けど、自分自身が人を好きになるという感覚は未だよくわからないのだ。

「ハニーにとっても、只埜くんにとっても。今回の件は相当なイレギュラーな状況だ。ましてや共に暮らすとなると、それ相応に互いの存在が大きくなる。吊り橋効果、単純接触効果で互いを意識する可能性はごまんとあるんだ。」

 不安な状況を共に過ごすことで恋愛対象として意識しやすくなる吊り橋効果。何度も接触することで抵抗感を下げ良い印象へ転じさせる単純接触効果。このふたつが今回の状況に当てはまることくらいは、私でもわかる。

「だけど、僕たちはサンタクロースだ。プレゼントを贈られる当事者になってはならない。たとえ相手が出会った女性すべてに自動的にフラれていく残念男だったとしても、油断してはいけないよ。」

 わかっている。つもり。私はサンタなのだから。そして、これは任務なのだから。

「流石、経験者が言うと説得力が違うな。井安桐十(いやす きりと)ちゃん?」

「それは言わないでくれよ~。せっかく、上司らしく恰好ついたと思ったのに。」

「あのとき、自分の恋心を諦めさせて連れて帰ったの誰やったと思ってるん?めちゃくちゃ大変やってんからな?駄々こねる自分、相当恰好悪かったで。なんならその時の映像記録、ニコちんに見せたろか?」

「それはご勘弁を!キャノ様!」

 赤いスーツ男はビシッとジャンピング土下座する。その衝撃でサンタの帽子がホログラム外に飛んでいった。

「減点やで、キリちゃん。ニコちんを案じる気持ちはええことやけど、同時にもうちょっと信じたって。ニコちん、真面目なええ子やで。」

「知ってるよ。なんたってこの僕の一番の部下だからね。」

 何か進捗があればお互い連絡しよう、と仮長は通信を終えた。やっぱり、どっと疲れた。気持ちはいろいろとありがたいのだけどね。

「それにしても、うちいつになったら跳べるようになるんやろなあ。リモートの修正だけは時間止めたままできへんのがしんどいな。」

 そう、最初に止めた時間の中で修理が終わるまで待っておけば良かったと思うかもしれないが、リモートで同期させるのは両時間軸の時間が流れた状態でないとできないのだ。時間を操るとはいえ、まだまだ私たちも完璧ではない。

「その通り、完璧やない。やから、キリちゃんがああやって言うたことも決して過剰やない。ニコちんも完璧やないから、一応心に留めておきや。」

 ま、ニコちんなら大丈夫やと思うけどな。と付け加え、キャノは言う。私だって、いつかは人を好きになったりしてみたいよ。でも、それは今じゃない。私の紡ぐ縁を待ってくれている人がいる。幸せになってほしい人がいる。私にはまだまだ恋愛なんてする暇はないのだ。だから。


「まずは今回の任務を頑張らないとね!」


 この時代に来て、タイムトラベルが使えなくなってから。やっぱり、心のどこかでは不安に思う気持ちが漂っていて、じわじわと心に染み付いていた。だけど、今は少しだけスッキリしている気がする。前を向けている気がする。あんなデタラメな上司でも、やっぱり話すとホッとするのかもしれない。それに、私の傍にはキャノだっている。


「ニコちん、はよせんと語くん帰ってくるで。」


 キャノの呼ぶ声に意識を戻す。私は、私にできることをする。それだけだ。

 窓の外は夕焼けが広く染まっている。時間が流れていることを実感する。跳んだ先の時代で自然の時間経過に従って過ごすのは、案外初めてかもしれない。こういうのもたまには悪くないな。私は夕焼けの彼方を見つめながら、そう思った。



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