【11話】時を超えて-2

 どれほどの時が経ったろうか。時間遡行はなかなか終わらない。タイムトラベルなんて、一瞬で終わるものだと思っていたけど、もうかれこれ30分は時の宇宙を彷徨っている。

「その表現は適切やないな。今は時間を遡ってるねんで。30分経過してるわけないやん。」

 とキャノが言うので、30分と言うのは体感時間ということにしておいてほしい。

「ま、ほんまは一瞬で跳躍し終えることもできるんやけどな。」

 ニコルをちらと一瞥し、キャノは言う。

「私が好きなんですよ。この時を跳んでいる瞬間が。」

 任務で嫌なことがあったとき。大きな失敗をしてしまったとき。気持ちが先走って空回りしてしまったとき。そんな何か平常心でいられないことがあったときに、たっぷり時間をとって(という表現は適切ではないが)、この時の欠片を見ながら時間遡行することにしているそうだ。そうすれば、不思議なことに心が静かになるんだと。時間自体は経過しないので、どれだけ長くいても誰にも迷惑にならない。絶好のサボr…気分転換スポットというわけだ。

「自分なんてちっぽけな存在だなって思えるんです。もちろん、ネガティブな意味じゃないですよ。膨大な時の流れのなかでは、私の失敗や悩みなんて取るに足りないことだって思えるんです。それに、もし失敗してしまったとしても、その失敗を次に活かして、自分にの引き出しを増やすことができたら結果オーライです。そうすれば、ただの失敗も意味のある失敗として自分の糧になってくれますから。」

「ニコちんは真面目すぎるんよ。もっと肩の力抜いてもええねんで。」

「昔、同じようなことを言われた気がする。任務でミスしてしまったとき、たまたま出会ったその時代の子供に、「おねえちゃん、サンタなんでしょ。サンタはこどもにプレゼントあげて笑顔にするのがお仕事なのに、そんな顔してちゃ僕たち笑えないよ。リラックス、リラックス。」って。あの子のおかげで、今の私があるのかも。」

「なんだか偉そうな子供だけどな。」

「でも、あの子のおかげで、私は人と向き合うことの大切さを学ぶことができました。『縁』を紡ぐサンタとして、目の前の人に真摯に向き合う。私が笑顔じゃないと、子供たちが笑ってくれないように、まずは私がその人と向き合おう。そう思えるようになったんです。」

 シャボン玉の結界から遠く向こうを見つめながら、ニコルは続ける。

「ぶっちゃけますと、このサンタの仕事はもっと楽にできるんですよ。過去のデータや映像なんかをかき集めて分析して、最適解を出した後に最小限のアシストで任務を完了する、なんて効率重視の同僚もいます。でも、私はそうはしません。過去の事実は調べればわかりますが、そこにあった心は同じ時を過ごさないとわからないですから。」

「ところで、ニコちん。今回の跳躍もまあまあ長いけど、とどのつまり何かを反省してるわけやんな。あれか、素直に正体バラして、語くんたちに信じてもらえん状況になったことについて反省してんのか?」

「…キャノ。悪いけど今回はもう少し時間もらうね。」

 どうやら図星だったらしく、ニコルの心が鎮まるまで時間遡行は延長された。

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