アンドロイド遊女・杏城は本当の愛を知るのか?

国府春学

第1話

 夏になると、身体が熱い。


 四六時中クーラーでエアーコントロールしてもらわないと、肌の温度が上がってしまう。去年の真夏日には、頭がショートしたこともあって、二、三日意識が戻らなかった。


 普通に活動しているだけでも、熱が上がるような構造になっているので、それプラス気温が高かったりすると、熱射病みたいな状態になるのだ。


(年のせいかなー……)


 横になったまま金色の髪を一束つまんで、杏城はゆっくり目を閉じた。銀色に近い灰色の瞳が、白い瞼に隠されて、頬に長い睫毛が触れる。


 何もしなくていいから、寝顔をいつまでも見ていたいと、いつだったか客に言われたことを、ふいに思い出した。


(あのヒトも労咳で死んだっけ。優しかったな……)


 肺のない胸を撫でながら、杏城はゆっくりと眠りに落ちていく。白い椿が描かれた、真っ黒の贅沢な着物に身を包んだまま、まるまるは少しずつ動かなくなっていった。


 ヨシハラの夏の昼は、長くて気怠い。


 かつてこの地に存在していた、「吉原」という巨大な色街に関する文献が見つかったのは、五十年ほど前だった。


 その仕組みやそこにいた人々の生き様にえらく感動したらしい 都知事は、文献を参考に、遊郭や遊女を蘇らせる計画を立てた。そして、十年後に完成したのがこの、「ヨシハラ」だ。


 町並みや建物の外観こそ、文献や絵にあった姿を忠実に再現しているものの、中にはやはり、現代の技術を活かした最高の設備が整えられている。


 遊女のような装いをするにあたって、温暖化の進んだ現代はあまりに暑すぎるため、エアコンがなければ成り立たなかったせいもある。


   まさか、人類が三十世紀を迎えるまで地球が存続するとは誰も思っていなかったのだが、何とか首の皮一枚でつながって、人々は危うく生き続けていた。「日本」と呼ばれていたくにも、「新日本」と名を変えて歴史を重ねている。

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