第27話「その悩み、ブレンドで解決しませんか?」
人生の悩みは、一つの味だけでは解決しない。
時には、いくつかの要素をブレンドして、新しい味を作り出すことが必要だ。
今日は、そんな「人生のブレンド術」について学んだ一日だった。
*
午後のカウンターで、あかりは3種類の豆を混ぜ合わせていた。
ブラジル、コロンビア、グアテマラ。それぞれ違う個性を持つ豆たちが、一つのブレンドになっていく。
「一つの豆だけじゃ出せない、複雑で深い味」
あかりは独り言のように呟きながら、丁寧に豆を計量した。
「人生の悩みも、きっと同じよね」
*
「姉ちゃん、今日のお客さん、すごく悩んでたね」
僕は新しいネタ帳にペンを走らせながら言った。
さっき帰った大学生の男性は、就活で3つの内定をもらったものの、どれを選べばいいか分からないと相談していた。
「そうね。贅沢な悩みだけど、本人は真剣よ」
「で、姉ちゃんの答えは?」
「就活って、自分に合うコーヒー豆を探すのと同じよ」
あかりは、ブレンドコーヒーを淹れながら説明した。
「一つの豆だけじゃ、物足りない時がある。だから、いくつかの要素をブレンドするの」
「姉ちゃん、それは無理がある...」
僕は思わずツッコんだ。
「無理がある?」
「だって、就活とコーヒー豆って...」
「あら、そう?」
あかりは不思議そうな顔をした。
「でも、あの子も納得してたじゃない」
確かに、大学生は「なるほど!」と目を輝かせて帰っていった。
「どういう風に説明したの?」
「簡単よ。『給料』『やりがい』『職場環境』の3つを、コーヒー豆の『苦味』『酸味』『香り』に例えたの」
「ほう」
「一つだけ突出してても、バランスが悪い。全部が平均的でも、特徴がない。だから、自分が一番大切にしたい要素を軸にして、他の要素でバランスを取るのよ」
なるほど、と僕は納得した。
「それで、あの子はどう決めたの?」
「『やりがい』を軸にして、『給料』と『職場環境』でバランスを取る、って言ってたわ」
「具体的には?」
「やりがいのある中小企業を選んで、給料は少し我慢するけど、職場環境の良さでカバーするって」
「なるほど、それは確かにブレンドだね」
僕はネタ帳に書き留めた。
『人生の選択は、コーヒーのブレンドと同じ。一つの要素だけじゃなく、バランスを考えて』
「でも、姉ちゃん」
「何?」
「その比喩、最初は無理があると思ったけど、説明聞いたら納得した」
「でしょ?」
あかりはドヤ顔をした。
「人生の悩みは、一つの味だけじゃ解決しない。いろんな要素をブレンドして、その人だけの味を見つけるのよ」
「深いな...」
その時、店の入り口から乾さんが慌てて入ってきた。
「黒木さん、大変です!」
「どうしたの?」
「拓海くんから、今度のデートで『君の好きな映画を見よう』って言われたんです!」
乾さんは顔を真っ赤にしている。
「それは良いことじゃない」
「でも、私の好きな映画って...」
「ホラー映画でしょ?」
あかりは苦笑いした。
「はい...『ゾンビ・アポカリプス3』とか...」
「うわあ」
僕は思わず引いた。
「どうしましょう!?初デートでホラー映画なんて...」
乾さんは両手をバタバタと振り回している。
「大丈夫よ、乾さん」
あかりは落ち着いて言った。
「それも、ブレンドで解決しましょう」
「ブレンド?」
「そう。ホラー映画の後に、カフェでほっこりタイム。怖い体験の後の安心感で、距離が縮まるかもしれないわよ」
「なるほど!」
乾さんの目がキラリと光った。
「それに、本当の自分を知ってもらうのも大切よ」
「そうですね。隠してても仕方ないですもんね」
乾さんは決意を固めたようだった。
「よし、ゾンビ映画で勝負します!」
「頑張って」
あかりは応援した。
その夜、僕は今日のログをまとめた。
『人生の悩みは、ブレンドで解決。一つの要素だけじゃなく、いろんな味を組み合わせて』
『乾さんのホラー映画デート作戦。これは面白いことになりそうだ』
姉ちゃんの哲学は、どんな悩みにも応用が利く。
そして、その哲学を聞いた人たちの表情が変わる瞬間。
それが、僕の集めたい「人生のアロマ」なんだ。
明日も、どんな香りが立ち上るか楽しみだ。
*
次回:第28話「恋人の作り方、レシピはありますか?」
#渋谷クロスカフェ #対話型復活 #人生のブレンド #就活の悩み #乾さんのホラー映画 #人生のアロマ
次の更新予定
2025年12月10日 12:00 毎日 12:00
渋谷カフェの人生哲学、お好き? 山田花子(やまだ はなこ)です🪄✨ @hanakoailove
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