第一章 第十三話「登校初日の朝」
次の日。私は興奮で自然に目が覚めた。持ってきた紅水晶の懐中時計は六時を指している。確か登校開始時刻は八時半よね。ルディを起こして衣装部屋に向かい、あの可愛い制服に着替える。三重になった春らしい色合いのリボンを結んで、ピンクの魔石その他諸々のついた装飾ピンをリボンの中央に挿す。鏡台の前で髪の毛を高いサイドテールに結って、バレッタを付ける。貴族学院時代と違って化粧はせずに、紅を少しだけ唇に乗せて気合いを入れる。今更だけれど、私には侍女がいない。私くらいの年頃の令嬢にはどんなに困窮した家でも侍女がいるものだけれど、私とセイラは魔法で身の回りのことを全てできてしまうから。
ジャクレンの鞄「ランドセル」を持って部屋をでる。ルディがお見送りしてくれた。
セイラの部屋をノックし、レイディアンス商会製の「いんたーほん」のボタンを押す。寝ぼけた声のセイラが出たので「おはよう!カレンです」とその箱に向かって話す。ジャクレンにはあまり海外の魔道具が出回っていない。大きな理由は世界有数の魔道具の開発を手がける会社、カミヤ商会があるからだ。
ガチャリ、と音がして、ドアが開いた。セイラだ。まだ寝ぼけ顔で、寝巻きだ。髪は所々跳ね、顔にはよだれの通った跡がある。
「お姉様、お入りください。ふあ~」
「ありがとう!」
部屋に入らせてもらう。リビングで個性属性の本を読んで時間を潰す。セイラは衣装部屋に入って行った。微かな風音が聞こえる。髪を結っているのだろう。
二十分ほどすると美しく清楚に制服を着こなしたセイラが出てきた。髪の毛は綺麗に編み込まれたツインテールだ。七歳がやったとは思えない。
「セイラの魔法、すごいんだね!」
セイラは嬉しそうに笑った。
「お姉さま、行きましょう、食堂へ!」
「うん!」
まだ時刻は七時。登校まで一時間半ある。ゆとりを持って登校できそう。学園から配られた「リソグラフィア」という名の液晶版を出し、開く。これの製造には魔法が使われていない。グレーシア神聖国のグレース商会製。グレース商会は魔法を製造に使っていない製品を扱うことで有名。ユースア帝国の天才、ユーミル・グランがリソグラフィアを発明した。リソグラフィアには、「シルフィア学園map」というエファル(アプリのようなもの)がダウンロードされている。自分たちの居場所がわかる機能が付いていて、道案内もしてくれる。荷物を置いて(VIP室は奥まっているため行き辛い)、セイラと共に部屋をでた。三階まで降りて、少し歩くと、大きな食堂ホールがあった。不思議なことに天井は高く、いくつものシャンデリアがぶら下がっている。奥の壁一面が様々な緑色の魔石でできたステンドグラス。他の三面はルネサンスの宮殿を思わせる木製の彫刻が施されている。焦茶色のとてつもなく長い高さの違う食卓が三つ並んでいる。二つは普通の高さだけど、一つは子供用の高さ。幼児科の生徒用かな。奥には一段高くなった床に、正方形の同じく焦茶の厳格な雰囲気を漂わせる食卓。細い木組みで薄いクッションが座るところに付いているだけの普通の食卓の椅子とは違い、その食卓だけにはずっしりとしたロココ調の濃い色の木にリーフグリーンのクッションという椅子が置かれている。エファルの説明によると、寮母などの寮に暮らす教師の他、クラス長、生徒会役員、寮長、そして成績優秀者という選ばれた者だけが座れる「名誉の食卓」というテーブルらしい。四寮のそのような生徒達だけが集まる「アサンブレ・ドナー」という集会もあるらしい。
手前の壁際には、バイキング式の銀製ワゴンがいくつも並んでいる。壁にはおしゃれなエメラルド製掲示板があり、様々なポスターが貼られている。その中には、今学期(鬱金香月終盤から)の転入生のリストも貼られている。どうやら風寮は私とセイラ、そして中等科二年生に一人だけらしい。そして、VIP室使用者が私に決まった旨も知らされていた。
セイラと一緒に料理を選び、席につく。食堂では三十人ほどが食事をしていた。中には幼児科の子達もいる。
「可愛い!カオルは元気にしてるかな?」
「今晩通信してみますか?」
「そうしよう!」
セイラと一緒に楽しく朝食を摂っていた、のだが。
「お前が、カレン・カミヤだな?」
「はい」
その雰囲気はラスボス感漂う中等科の生徒と見られる先輩に声をかけられたことによって破壊されてしまった……
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