第19話 2人と二人 〜血の絆と魂の絆〜

闘技場の中心へ足を踏み入れた瞬間、由香里と紅音は息を呑んだ。


そこに立っていたのは——

二人の水本玲奈。


いや、片方は玲奈ではない。

玲奈と瓜二つの少女──水本杏奈。


「双子……だったのね」


紅音が低く呟くと、二人は同時に微笑んだ。


「正確には――一卵性双生児。

姉の私は《動》」

「妹の私は《静》」


まるで一つの声が二つに分かれて響くようだった。


「思ってることは全部わかるから。

呼吸一つだってね」


玲奈が動き、杏奈が受ける。

杏奈が仕掛け、玲奈が繋ぐ。


その連携は「戦闘」ではなく「芸術」だった。


「行くよ、二人とも」


玲奈が消えた。


次の瞬間、由香里の腹に強烈な膝蹴り。

後ろへ吹き飛んだところに、杏奈の掌底が迎え撃つ。


「ぐっ……!」


紅音が横からカバーしようと踏み込むが——

玲奈が割り込んで軌道を潰す。


「速すぎ……!」


「違う、読まれてるのよ。

私たちの“意図”も、次の“動き”も……」


紅音の声が震えた。


杏奈は静かに言う。


「私は《静》。

動かないことで、あなた達のすべてが見える」


玲奈はにやりと笑う。


「だから私は動ける。

彼女が“見た未来”に、私は合わせればいいだけ」


二人の足音が、一つの流れになった。

呼吸が揃い、まるで一体化しているかのよう。


正に“双魂連撃”だった。


「紅音、危ない!」


由香里が叫ぶが遅かった。

杏奈の掌が紅音の胸元に突き刺さり、呼吸が止まる。


「かはっ……!」


紅音が膝をつき、由香里も追撃で地面へ叩きつけられた。


二人は完全に追い詰められていた。


「はぁ……っ、由香里……ごめん……」


「謝らないでっ……!」


呼吸が荒い。

視界はぶれる。

いつも冷静な紅音が、初めて“恐怖”で震えていた。


その時——

胸の奥に、あの声が蘇る。


『紅音。お前は“視て”いるのに、まだ目を閉じている。恐れるな。

本当の自分を見限るな。』


「……たっくん……?」


『静の極みにある者は、“未来の気配”すら見通す。はだがそれを超えるのは、

“自分自身を疑わない者”だけだ。』


紅音は息を呑んだ。


「そうか……私、怖かったんだ……

自分が認められないのが……!」


その瞬間、紅音の瞳に光が灯る。


「——開け、私の《真眼》」


世界がスローモーションになった。

玲奈の動きの“前兆”が見える。

杏奈が読む“次の流れ”が見える。


「……見える……全部」


玲奈が驚愕の目を見開く。


「は……?まさか……!?」


紅音はふらつきながら立ち上がる。


「動と静……その連携は強い。

でも、私は——“今のあなた達の未来”すら見える」


玲奈と杏奈が同時に青ざめた。


紅音の覚醒に呼応するように、

由香里の胸にも熱が灯っていた。


父、達也の声。

家族の温もり。

久美、紅音、瑠璃……

全ての友人の顔が一気に脳裏に浮かぶ。


『由香里。力の源は、怒りや恐怖じゃない。"守りたい”と願う心だ。

その想いは、誰も止められない。』


「守りたい……私は……」


涙すら混じった声で叫ぶ。


「みんなを守りたいんだぁあああああ!!!」


由香里の身体から眩い光が溢れた。


英雄の波動が、

娘である由香里の感情と重なり、

新たな領域へと踏み込んでゆく。


「これが……私の“答え”!」


玲奈と杏奈が同時に叫ぶ。


「やば……!?」

「押し切られる……!」


紅音の《真眼》が玲奈の動きを読み切る。


「右上段、跳び膝!」


「ちっ……!」


由香里がその先を潰す。


「そこ!!」


二人の攻撃が完全にシンクロした。


「《幻日流双撃——魂ノ連打》!!!」


轟音が闘技場を震わせる。

玲奈と杏奈は吹き飛び、壁面に激突した。


立ち上がろうとするが、膝が震え、もう一歩も踏み出せない。


杏奈が苦笑しながら言う。


「……参ったわ。

連携で負けたの、初めて……」


玲奈も悔しそうに笑った。


「加山由香里、新堂紅音……

アンタら、本物だよ」


二人は静かに倒れ込んだ。


由香里と紅音は息を切らしながらも、

互いに手を取り合って立っていた。


「勝った……?」

「ええ……勝ったわ。二人で」


天井から光が差し込み、

二人の勝利を祝福するかのように輝いていた。

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