屑勇者に村を滅ぼされたので、スキル《盗む》で勇者から姫も肩書きも、ついでにハーレムも全部奪わせていただきます

仲村アオ

プロローグ/山奥の村『ダリル』

第1話 村人アレンと憧れの勇者

 あの凶暴で残虐だった魔王が討伐されてから、もう五年の月日が流れていた。人々は今日も平和という名のぬるま湯にどっぷり浸かっていた。


 ……あ、ちなみに俺はアレン。職業は、村人。

 え、肩書き? ないない。ステータスを見ても「村人Lv7」と表示されている状態だ。


 戦う力なんて、せいぜい山中に現れた猪やスライムを追い払う程度だ。だが、そんな俺でも畑と酒と笑い話があれば十分幸せだった。


 その日までは……な。



 その日は朝から騒がしかった。

 家の前でパンを焼いていたら、村の北の山の方で地鳴りみたいな音がした。


「おーい! アレン! 出たぞ! 出た出たっ! ハイクラスだってよ!!」


 走ってきたのは隣の家に住む幼馴染グラント。息を切らしながら、やたら興奮してる。



「ハイクラス? ……って、レアじゃなくて?」


「そうそう、ハイクラス・モンスター! すっげぇやつ! ハイトロール様だよ!」


 おいおい、厄災に様をつけるなよ。


 でも確かに、遠くの山肌に見える黒い巨影は、ただの魔物じゃなかった。


 でっかい棍棒、異様に分厚い皮膚、口からは白煙みたいな息。

 ……って、煙じゃねぇ。あれ瘴気だ。まるで風呂上がりの湯気のように瘴気を纏っているって、ありえねぇ。



「なぁ……あれ、危険とかないよな?」


「大丈夫だろ! 俺らには王都の勇者様がいるじゃねぇか!」


 そうだ。魔王が倒されてからも、世界各地に現れる強敵を討伐している――勇者ローディン一行。

 彼らはいつも華やかで頼もしくて、王都では子どもたちの憧れだ。


「討伐依頼、もう出したってよ。すぐ来てくれるらしいぜ!」


 村はその話でもちきりだった。

 露店を開く者、旗を立てる者、なぜか酒樽を転がして乾杯しようとする者まで。

 そして例外もなく、俺も浮かれてたんだ。まさか、あんな地獄が来るなんて思わずに。



 そして翌日——ついに、その時はきた。


「見ろよアレン! 空だ! 空!」


 グラントが空を指差す。

 青空を切り裂くように巨大な影が二つ、ぐんぐんと村に近づいてくる。


 ドラゴンだ。しかも背に乗ってるのは四人の美男美女。金色の髪が風を切り、マントがはためく。


 ……すげぇ。

 これが本物の勇者たちか。


 だが、憧れの勇者が地に降り立った瞬間、俺たちの期待は粉々に砕け散った。



「我こそは勇者ローディン! この村の者よ、頭を垂れよ!」


 固まる村人達。

 ——え? この傲慢な言葉……勇者が言ったのか?


「お、おおお……! 勇者様ぁぁぁ!」


 村長が慌てて頭を下げ、周りもそれに続く。

 でもローディンは眉をひそめて、鼻で笑った。



「遅い。もっと心を込めて敬え。俺は勇者だぞ?」


 なんだこいつ。

 声も態度も、王都の噂とはまるで違う。

 後ろに立つ女性たち――賢者風の少女が困ったように眉を下げ、赤髪の魔法使いがローディンの腕に絡みつき、もう一人の女剣士が無言で周囲を睨んでいる。


 ……あれが、勇者パーティー。

 俺たちの憧れだった存在。



「ふ、ふおおおっ、勇者様ぁぁぁ! あのハイトロールを、ぜひお討ちくだされ!」


 村長が膝をついて頼み込むと、ローディンはあくびをしながら頷いた。



「まぁ、いいだろう。だがその前に――宴の支度をしておけ。勇者様は腹が減っている」


 ……討伐より先に飯かよ。


 村人たちは萎縮して、俺も笑うしかなかった。

 でも、胸の奥ではどこか冷たい違和感が、じわじわと広がっていた。


 ――勇者。

 彼が本当に、俺たちが思ってた正義の象徴なのだろうか?


 だが、瘴気をばら撒き、山中の草木を腐りまわしているハイトロールに立ち向かえるのは勇者一行しかいないのだ。

 こんな奴でも頼らざる得ないのが俺たちの現状だ。



「……ねぇ、アレン。私たち、大丈夫かな?」


 俺の背中の裾を掴んできたのは、幼馴染のレイラだった。村一番の美少女で、病気がちな幸薄の女の子だ。


「あぁ、きっと大丈夫だよ。性格や態度は残念だけど、実力は本物だろう。だからこそあんな傲慢な性格になったに違いない」



 自分で言ってて毒舌が過ぎるとも思ったが、そう言わないとやっていられないくらい、勇者一行は酷かった。


 勇者は村中の若い女達をはべらかせ、魔法使いは若い衆を連れて高い酒を飲み食いしている。賢者も無心に御馳走を平らげているし、聖騎士に至っては姿すら見せない。


 コイツら……本当に大丈夫なんだろうか?



「あの、勇者様。ハイトロールの討伐に行かなくても大丈夫なのでしょうか?」


 ご機嫌を損ねないように低姿勢で伺う村長を足蹴にして、勇者は怪訝な顔で言い放った。


「あぁ? 勇者の俺に楯突くなんて生意気なジジィだな。俺がいいって言ってるから大丈夫なんだよ。テメェらは俺の機嫌だけをとってりゃいいんだ。それよりも女だ。宿屋に村一番の美少女を連れてこい。一人じゃ足りないからな? 最低でも五人は用意しろ」


 その言葉に村中の人間が嫌悪感を抱いた。


 あぁ、魔王が討伐されて早五年——……その後遺症は、過去の栄光を振り翳した救いようもない屑勇者誤算を生み出したようだった。



 ————


 仲村アオです。たくさんの小説の中からお読みいただき、ありがとうございます。

 もし先が気になる、面白そうと思っていただけたら、フォローや応援、★やレビューをいただけたら嬉しいです。よろしくお願いします✨

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