聖剣使いの異世界勇者は現代ダンジョンでも最強な件 ~無双してたらいつの間にかバズってました!~

浮島悠里

第1話 かつて異世界で勇者をしていた

 高校一年生の夏。

 勇者として異世界を救って帰ってきたら、元の世界が様変わりしてた。

 

 * * * * *

 

 異世界で過ごしていた五年間は失踪扱いになっていたようで、両親や妹には大変心配をかけてしまった。


 帰還した際にも散々に問い詰められたものの、まさか「異世界で勇者してて……」だなんて説明するわけにはいかず、記憶喪失で押し通した。

 妹は終始疑わし気なジト目でこちらを睨んでいたものの、なんとかなったと思いたい。


「記憶喪失ですか、本当に?」

「実は異世界で勇者として大活躍してたって言ったらどうする?」

「頭がおかしくなったんですか、って返します」


 そんな会話があった。

 とはいえ、疑われてしまうのも無理はない。


 五年間失踪していたというだけでも大概だが、さらに、戻ってきた僕の姿が五年前と一切変わらないのだから、そりゃあ不審に思うのも無理はない。

 

 ――こちらの世界に帰還した際、僕の肉体は異世界で五年間を過ごす前のものに戻っていたのだ。


 僕を召喚した魔術師曰く、肉体と魂の整合性が云々とか小難しい話があったが、聞き流していたので覚えていない。

 それだけに、気味悪がらず歓迎してくれるだけでもありがたい話ではある。


 帰還したのは四月の頭。

 ちょうど桜が満開の時期で、色々な手続きが終わって現在は五月の下旬。


 入学したばかりだった学校は休学の扱いとなっていたようで、また一年生をやり直す羽目になってしまった。

 以前までは僕の四つ下の学年だった妹は、現在は同じ高校の二年生、つまりは僕の上級生となっている。少し悲しい。


「白玉君、学校にはもう慣れた?」

「ああ、うん。授業内容は半分以上忘れてたけどなんとか」


 半分どころか八割がた忘れていたが。

 異世界での戦いに次ぐ戦いの日々のせいで、受験勉強で詰め込んだ学力はボロボロになっていた。


「良かった。何か困ったことがあったら何でも言ってね?」


 僕の隣の席に座った女子生徒が、そう言って頬を緩めた。

 五年間も失踪した挙句にいきなり戻ってきた(しかも記憶喪失を自称する)怪しい僕に対しても優しい彼女は、同級生の月ヶ瀬美月つきがせみづきさんだ。


 月ヶ瀬さんは、テレビの中ですら早々見かけないような美少女でもあった。

 微笑みを浮かべるだけで華がある。


「月ヶ瀬さんのおかげでなんとか授業にもついていけてるから、助かってるよ」

「それなら良かった」


 異世界でパーティーを組んでいた聖女や魔女、僕を召喚した国の王女なんかも絶世という形容が相応しい面々であったが、それに負けず劣らずの美少女具合だ。

 さらには僕と違って社交性もあるので、クラス内外問わず人気があるらしい。


 そんな月ヶ瀬さんは左手に鞄を、右手に大きな鉄製の杖を握っていた。

 捻じ曲がった枝のような異様な見た目をした金属杖は、制服姿の少女が持つにしては随分と浮いている。


「月ヶ瀬さんは今日もダンジョンに?」

「うん、燐花ちゃんたちと放課後はダンジョンに行く予定なんだ」


 ダンジョン。

 僕が異世界に行ってから帰ってくるまでの間に、いつの間にか広まっていた存在。


「ダンジョンねぇ。放課後にダンジョンだなんて、まるでゲームの話みたいだ。ジェネレーションギャップってやつかな?」

「私と白玉君のジェネレーションにギャップはないけど……そういえば、白玉君って記憶喪失だったんだよね」

「そうだね、五年前からの記憶がなくて」


 一応、そういうことになっている。


「五年前……じゃあ、あの日のことは……」

「それがどうかしたの?」

「ううん、なんでもないよ」


 月ヶ瀬さんは、何かを言いかけて口を閉ざした。


 ――ダンジョンは世界のあらゆる場所に発生した異空間の総称だ。

 軽くネットで調べてみた感じでは、ゲームに出てくるようなダンジョンのイメージそのままの存在といっても良さそうだった。


 内部には魔物と呼ばれる怪物が蔓延っており、定期的に間引くかしないと、地上に魔物が溢れることもあるらしい。

 今は落ち着いているが、ダンジョンが現れてすぐの頃はそれなりに混乱もあったようだ。


「もしかして、白玉君もダンジョンに興味があったりする?」

「まあね。五年前にはなかったから興味はあるよ」

「そうなんだ!」


 月ヶ瀬さんが嬉しそうに言った。

 迷宮が生まれてから、彼女を初めとして若者を中心に流行しているのが、ダンジョン探索という文化だ。


 迷宮の発生と同時に、特に若者を中心に魔力と呼ばれる力を宿す者が現れるようになった。

 どういうわけか既存の兵器が効きにくい魔物への対抗手段として、魔力は今も徹底的に研究が成されている。


 その成果の一つが、魔力を持つ者に依頼して魔物の討伐、ダンジョンの探索をさせるという冒険者制度……らしい。

 ダンジョンについて気になって調べた際の知識である。


「それじゃあ、今度時間があったら一緒に行こうね! 私が先輩として色々と教えてあげるから!」

「ああ、うん……」


 別に自分がダンジョンに潜る気はなかったのだが、そう言われてしまうと断りづらく、曖昧に頷いてしまった。


 月ヶ瀬さんが嬉しそうに笑う。

 腰の辺りにまで流れる、澄んだ水色の長髪が揺れた。


 綺麗な髪色。

 五年前で感覚が止まっている僕としては初見は驚いたが、聞くところによると、魔力が現れてから自然と変化していったという話だ。それまでは黒髪だったらしい。

 月ヶ瀬さんのこの髪色のように、魔力は人体にも影響を与えている。


 そして、今の僕の身体にもその魔力とやらは宿っていた。

 先日の身体測定の際に、魔力検査の項目でそう判定されている。


 国としては、迷宮に対処できる冒険者の頭数を少しでも増やしたいらしい。

 そのため、わざわざ身体測定に魔力測定を追加したり、ご丁寧に魔力がある生徒に対しては、冒険者登録の案内パンフレットまで渡してくるほどに。


 戦いは異世界で一生分の経験をしたので、わざわざこちらの世界で冒険者になるつもりはなかったのだが……。


「ダンジョン探索ってやっぱり体力は必要だよね」

「そうだね。私は後衛だから多少ましだけど、やっぱり探索で長時間歩くから……」


 それに加えて。

 折角異世界の戦いを経て鍛えられた肉体は、召喚前の姿に戻ると同時に元の貧弱な高校生のものに戻ってしまっている。


 しかし、改めて鍛えるのも正直……面倒だ。

 この一般男子高校生(運動部には入っていなかった)を改めて鍛えなおすと考えると、想像するだけで気が重くなる。


 とはいえ、ダンジョンという存在に関心があるのも事実。

 登録して試しに潜ってみるくらいなら良いかもしれない。


 月ヶ瀬さんの笑みに絆されて、僕は呑気にそんなことを思っていた。

 

「おい美月、行くぞ」

 

 教室の端から、男子生徒が月ヶ瀬さんに声を掛けた。

 同級生の石動大地だ。

 石動も同じく冒険者で、また、月ヶ瀬さんと同じパーティのリーダーでもあるらしい。


 石動は月ヶ瀬さんに声を掛けつつも、苛立たしげに僕を睨んできていた。


 理由はまあ、察しがつく。


 そのアイドル顔負けの容姿と、優しく温和な性格も相まって、月ヶ瀬さんは男女問わず人気がある。

 同学年の男子のみならず、他学年の、果ては他校の男子に告白されている場面も度々見かけるほどだ。どういうわけかそのすべてを断っているらしいが。


 そんな人気者の月ヶ瀬さんと仲良く話しているように見える僕のことが、石動はとにかく気に入らないらしい。

 

「ちょっと美月ー! 放課後はすぐダンジョンに行く約束でしょ! 他の学生組が来る前に早く行くわよ!」

 

 石動の横の小柄な少女に呼ばれて、月ヶ瀬さんが慌ただしく立ち上がり、荷物を纏めた。

 黒髪をツインテールにした、幼い印象の美少女。

 確か彼女も同級生で、月ヶ瀬さんと同じ冒険者だったはずだ。名前は……覚えていない。

 

「ごめんなさい! すぐに行くから! それじゃあ、また明日ね、白玉君」

「また明日、月ヶ瀬さん」

 

 小さく手を振って慌ただしく去っていく月ヶ瀬さんを尻目に、折角だから僕も冒険者登録をしてみようか、と思い立った。

 話しているうちに、ダンジョンへの興味が出てきていた。


 いや、興味が出てきたというよりも、正しくは興味があったというべきか。

 なにせ、この世界に戻ってくる前から、僕はダンジョンという異空間の存在を知っていたのだから。


 ――僕が勇者として召喚された異世界にも、ダンジョンは存在していた。


 それが、単純に似て非なるものであるならばそれで良いのだが。

 あるいは――異世界の魔王軍、あるいはその残党が関わっているとするのなら、話は変わってくる。


 今でも鮮明と思い返すことができる、異世界での魔王との死闘を。

 魔王軍によって滅ぼされた街の跡を。


 魔王軍――勇者である、僕の敵。


 実際にダンジョンと魔王軍に何らかの関わりがあるのか、あるいは、全くの無関係なのか。

 ――それを知るためには、実際にダンジョンを探索してみるのが確実だ。


 * * * * *


 この判断によって、勇者――白玉悠はダンジョン配信を通じ、世界中にその実力を示すこととなる。

 それによって、再び勇者としての道を歩み始めることとなるのだが。


 今の白玉悠にとっては、到底想像もつかないことであった。

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