はばたけ!ペンギンとダチョウのそら

霜月あかり

はばたけ!ペンギンとダチョウのそら

南の果ての氷の大地に、ペンギンのピピが住んでいました。

ピピは泳ぐのが得意。でも――心のどこかで、ずっと思っていました。


「ぼくも、空をとんでみたいなぁ……」


ある日、海をわたってやってきた観光船から、一羽のダチョウが逃げ出しました。

名前はダッチョ。

広い草原で暮らしていたのに、船の事故で南の大地にたどり着いてしまったのです。


「ひゃー、さむいさむい! ここはどこだ!?」

「えっ!? きみ、ダチョウ? 本で見たことあるよ!」

「そうさ! ダチョウは地上最速の鳥!……でも、寒さにはめっぽう弱いんだ」


ピピとダッチョは、おたがいの違いにびっくりしながらも、すぐに仲良くなりました。



---


次の日。

ピピが氷の丘で空を見上げていると、ダッチョが走ってきました。


「ピピ! また空を見てるのか?」

「うん。ぼく、いつか空をとびたいんだ」


ダッチョはちょっと笑って言いました。

「ぼくも飛べないけどな! でも、走ってると風が翼みたいに感じるんだ。

 空をとぶのと同じくらい気持ちいいぞ!」


ピピは目をまるくしました。

「風を感じる……? 泳ぐときの波みたいなものかな」


ふたりは考えました。

「じゃあさ、いっしょに“風”を探しに行こう!」



---


氷の海と雪の原っぱをこえて、ふたりは歩き続けました。

途中で吹雪にあったり、氷が割れそうになったり。

それでもダッチョの長い足と、ピピの泳ぎのうまさで、力を合わせて進みます。


やがて、夕焼けに染まる断崖にたどり着きました。

下には広い海。風がごうごうと吹いています。


「ここなら、とべるかも!」

ピピの目が輝きました。


ダッチョはうなずくと、ピピを背中に乗せました。

「さぁ、行くぞ!」


タッ、タッ、タッ――!

ダッチョは全力で走り出し、断崖の先で思いきりジャンプ!


ふたりの体が風にのり、空へと浮かび上がりました。

ほんの数秒。だけど確かに、空をとんでいました。


「すごい! 風って、こんなに気持ちいいんだ!」

「だろ? これが“とぶ気持ち”さ!」


着地すると、ふたりは顔を見合わせて笑いました。

空には、北極のオーロラがゆらめいています。


「ダッチョ、ありがとう。ぼく、やっとわかったよ。

 とぶって、ただ空に浮かぶことじゃないんだね」


「そうさ。心が軽くなるとき、人は“とんでる”んだ」



---


春。

暖かくなり、ダッチョはまた旅立つ日を迎えました。

ピピは氷の丘で手をふります。


「また風の中で会おうね!」

「おう! そのときは、風に負けないくらいのダッシュで行くさ!」


ダッチョが駆け出すと、雪が舞い、風がふたりの間を抜けていきました。


ピピは空を見上げます。

オーロラのむこう、きっとダッチョも同じ空を見ている――。


その胸の奥に、あたたかい“風”が通り抜けました。

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はばたけ!ペンギンとダチョウのそら 霜月あかり @shimozuki_akari1121

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