第17話 王都到着
「ここが王都ですか。ずいぶんと綺麗な都市ですね」
ようやく王都へ到着した一行。
馬車は王都正面に壁門を抜けて、賑やかな市街地に入っていく。
「ここからは馬車を降りて、観光がてら馬で行こう」
ヴィトーの提案で、ミスティアを馬の前に乗せる。
「大人しく馬車で入城ください」と当然のようにサムは良い顔をしない。
「ミスティアに王都を見せたいんだ。心配ならおまえたちもついてくればいい」
結局ヴィトーに押し切られる形で数名の部下が護衛についていく。
「今宵は王子の帰還を祝う晩餐会が開かれます。主役が欠席しないように、くれぐれも日暮れまでにはお戻りください。私は今回の遠征について急ぎ報告をまとめます」
「サム」
「なんでしょうか?」
「いつも助かっている」
「これが私のお役目です。城でお待ちしております」
ヴィトーとミスティア、お付きの者と共に王都の大動脈たる目抜き通りを行く。
多種多様な商店が軒を連ね、そこを利用する大勢の人々が行き交って活気に溢れていた。
ヴィトーを見つけた子どもたちは「あー王子様だ。おかえりなさい」と駆け寄ってくる。
「よい街です。とても笑顔が多い」
フードを被りながらミスティアは平和な日常を、しみじみと眺める。
「コルレア王国の王都は湖水都市だ。巨大な湖を面して発展してきた。ほら、あそこだ」
「立派な湖ですね、まるで海みたい。ここからでも大きさがわかります」
通りと通りの間からチラリと覗かせた湖面はその全容が視界に収まらないほどだった。
「城から見下ろすとまた別格だ。夜の静かな湖面はまるで鏡のように夜空を写す」
「ロマンチックですね」
「あぁ、俺の一番好きな光景だ。おまえも城のベランダから見るといい」
「私も入城できるのですか?」
「婚約者なのだから当たり前だろう」
「まだその設定を続けるんですか?」
長旅で自分の役目はすでに終えたとミスティアは思っていた。
「俺がアンヴェイルを完璧に使いこなすまでな」
「……魔女狩り大好きな王様に見つかりません?」
「……王は長らく原因不明の病を患われていてな、政務も他の大臣に基本的には任せきりだ。だから滅多なことでは顔を合わせない」
ヴィトーはここまで伏せてきた事実を伝える。
「お父上のお加減が優れないのに、あなたが長期に渡って王都を離れて大丈夫なのですか? 万が一のことがあれば……」
「魔女狩りを命じたのは他ならぬ父だ。その命令を俺は積極的に実践しているんだ」
「孝行息子なことで」
「おかげで本物の魔女に出会えた」
ミスティアの皮肉に、ヴィトーは厚かましく答える。
「とにかく王宮では魔法を使うな。美味い食事に清潔なベッドで眠りたいだろう。広い風呂にも入れるぞ」
「お風呂⁉ なんて魅力的な提案なんでしょう。あぁ、やっと羽が伸ばせます」
魔女は心から喜ぶ。
旅の身空では風呂に浸かる機会が滅多にない。
「ミスティア。この王都なら国内外のありとあらゆるヒト・モノ・カネが集められ、買いたい物はなんでも買えるぞ。好きに望みを言え」
ヴィトーもまた久しぶりの帰郷に上機嫌だった。
「太っ腹なことを仰いますね。もしかして、そのために馬車を降りたのですか?」
「アンヴェイルの扱いを学べたことには感謝している。だからきちんと礼をとらせたい。そろそろおまえの探し物とやらを教えてくれ」
魔女が旅をする理由。
彼女は探し物をしていると言った。
ミスティアと接していると、あまり物欲があるようには見えない。旅の途中で市場に寄っても興味を示す様子もなかった。社交界に出る貴族の令嬢たちのようにドレスや宝飾品など豪奢なものを好む風でもない。
事前に把握できればサプライズで用意しておくところだったが、魔女の望むものはヴィトーには見当がつかなかった。
「私が探しているのは、ヲウスの魔女が創った三大厄災具」
声を細めて、ヴィトーにだけ聞こえるように囁く。
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