1-9
悲報:リザルトは翌日だった
初陣が終わった翌朝、目を覚ますとそこには俺がよく知るリザルト画面があった。
「すぐにくれよ」と言いたくなるがないよりはマシである。
つまり悲報ではなくこれは朗報。
早速確認してみたのだが、目ぼしい武器は何一つ解放されていない。
(Tier1の武器寄越せとは言わないけどさー……せめてもうちょっと何かあるだろ?)
アンロックされたものは武器が四つにビークル一つ。
武器は最低ランクが三つでその一つ上のTier8が一つである。
乗り物が解放されたは良いのだが、何の能力もないバイクでは移動くらいにしか使えない。
「いや、武器スロットが1あるなら両手に銃を持つこともできるか? それに今の俺なら運転しながら射撃は可能か? だったら引き撃ちができるようになればワンチャン……」
うんうんと呻りながら今回開放された武器での最適解を考える。
そしてすぐに決まる今後の装備。
せめて補助パーツでもあればもう少し考えようがあったのだが、最低ランクの装備ばかりでは選択肢などないに等しい。
というわけで俺が使うのはこちら、Tier8のスナイパーライフルとTier9のロケットランチャー。
状況に応じてこの二つを使い分けることになるだろう。
ビークルがただのバイクでなければここに追加武装としてないよりマシなTier9地雷を搭載するのだが、ないものねだりは悲しくなるのでこれ以上はやめておこう。
「何でもいいから強化服が欲しかったが……」
強化服がなければ武器スロットが1のままなので、バイクと合わせても二種同時使用が限界。
流石にこれでは満足に火力を出すこともできない。
それ以前の問題である部分の方が多い気もするが、戦闘さえあれば使える武装が増えていくとわかったのだから焦る必要はない。
ちなみに今回解放した最後の一つが最低ランクのライフルなのだが……「単発の威力を重視した」と説明欄にはあるはずなのに攻撃力180と連射力を犠牲にしているのに弱すぎる産廃扱いの武器となっている。
また、現状の俺の武器の攻撃力はこのようになっている。
1位:Tier9地雷 920
2位:Tier9ロケットランチャー 780
3位:Tier8スナイパーライフル 720
4位:Tier9ライフル 180
5位:Tier9アサルトライフル(初期武器) 120
もうほんと選択肢がない。
ロケランは高威力・広範囲の代名詞のような武器だが、基本的にマガジン数は1となっており、リロードに時間がかかることと味方を巻き込みやすいという欠点を持つ。
それらを差し引いても有用であることは間違いない。
スナイパーライフルは最高峰の有効射程と高火力・高弾速による高い命中率を誇る優秀な武装である。
マガジン数こそ少ないが、射程と命中精度を生かす場面など幾らでもある。
今後もメイン武器になる可能性が高いカテゴリなので、もう少し高いランクのものが早く欲しい。
高ランクのミサイルランチャーを早う寄越せ。
切り札となる重力砲とレーザースライサーもだ。
ライフルは武器カテゴリとしてそもそも不遇なので、これはもう敵次第としか言いようがない。
アサルトライフルもTier6くらいまでは実用的なのだが、それ以上となるとライフルと同じく敵次第である。
そして初期武器では話にならないというのは実証済みだ。
最後に地雷だが……「爆発物」というカテゴリの兵装は基本的に色物が多い。
癖が強すぎるあまり「使うべき時に使えば無類の強さを誇る」のだが、そうでない場合はほぼ産廃扱いされる。
ということで結論はどう考えても「選択肢がない」である。
本日の予定は昨日の戦闘の詳細を知るために作戦室に集まることになっている。
予定時刻にはまだ時間がある。
開放された武器を試しに訓練場で時間を潰そう。
爆風兵装の音が煩いと苦情が来た。
これは俺が悪いのか?
英霊用の訓練場ならバンバン爆発が起きたりするんじゃないのか?
解せぬ、という表情で管理人の男性と睨み合ったが、大きな音が鳴る場合や広範囲攻撃の訓練をする時は事前に申請して、専用の訓練場で行うらしい。
「何それ? 聞いてない」と思ったが、俺が最初に射撃訓練を行う時に説明しようとしたが、その時に説明してもらうと言っていたらしい。
どうやら延々と射撃訓練をしていて完全に頭から抜け落ちていたようだ。
これには頭を下げる外なく、本日は申請だけでしてスナイパーライフルを慣らす程度に撃つとしよう。
作戦室――ボリボリとコンソメ味のレーションを食べながら席に座っていると太い腕が視界に入る。
「またそれ食ってんのか……」
呆れたような声を出すのは昨日の軍人「ジェスタ・アーバイン」だ。
「ここの飯は少々、な……」
そう、俺がこれを食べるのはエデンの飯に不満があるからだ。
地球よりも進んだ文明なのは間違いないのだが、食文化は壊滅的だった。
所謂「ディストピア飯」と呼ばれる合成された食事を提供しており、見た目と触感はどれも同じで味に関してはノーコメント。
栄養バランスを重視しているとのことだが、食事に効率を求めるとこうも味気のないものになるのかとちょっと絶望した。
食えるだけマシ、という者もいれば「面白い」や「慣れている」と不満を持たない英霊が多数派だったことに驚愕を覚える。
そもそも限られた土地しかないので食材の調達が困難を極め、こうした生成食品に頼るしかないのがエデンの実情なのである。
俺も初日は「これアニメで見たわ」と面白がっていた。
だがそれが続けばどうなるか、など言うまでもない。
「ま、そこは戦果ポイントと相談してくれ」
俺の愚痴にジェスタがマニュアルのような返事をする。
戦果に応じて付与されるポイントを使えば、酒を始めとした様々な嗜好品が手に入る。
その中には当然ちゃんとした食事も存在しており、基本的に何か不満がある場合は大体「ポイントで何とかして」というのがお決まりになっている。
数多の世界の危機を救うため、人類種の天敵を滅ぼすために戦う英霊の待遇がこれか、と思わなくもないが、そんなものに頼らなければならないほどに追い詰められている状況を鑑みれば、恐らくこれが精一杯なのだろう。
(理解はできても納得するかどうかは別の話だよなぁ)
そう思いながら人がほとんどいない作戦室を見渡しながらボリボリとレーションを齧る。
前回は緊急招集だったが、今回はそうではないので参加しない英霊もいるかもしれない。
しかし三分前でこの集まり具合は文化の違いを感じる。
というか見知った顔が一人もいない。
いや、間違いなく見たことはあるはずだが、記憶に残っている人物が一人もいない。
「ちょっと聞きたいんだが、それは何処で手に入れたんだ?」
二本目を取り出したところでジェスタが俺が手に持つレーションを指差し尋ねる。
「ポイントで交換する物にそんなものあったか?」
そもそも交換する場所は知っているが、昨日の時点でポイント自体持っているはずがない。
ようやくそこに思い至ったのか、ジェスタは意味がわからず混乱している。
「え、食料の持ち込み? どうやって? というかそれどうなってんだ?」
ジェスタの困惑に英霊たちが何事かと興味を示し始めるが、俺は無言でボリボリとコンソメ味を堪能している。
どうせならポテトチップスで食べたい味だが、これはこれで悪くないから止められない止まらない。
「スコール1。エデンの職員として質問だ。それをどこで手に入れた?」
真剣な表情のジェスタを見て「不正でも疑われているのか?」と考える。
そこで真っ先に思いついたのが、既に召喚されている英霊たちとの秘密裏の接触。
初日の説明で先輩方との接触は禁止されている。
理由は同じ世界の英霊であった場合、時代によって認識が異なるケースがあり、偏った知識や歪められた歴史が原因で戦闘に発展したことがあるらしい。
エデン内部での突発的な戦闘であったため、とても軽視できるような被害ではなかったとアリスが言っていたことを覚えている。
面倒な疑いがかかっている可能性があるので、俺は正直に答えることにする。
「これは戦闘糧食としてここに入っていたものだ」
そう言って胸ポケットを指で指す。
「……前回も食っていたよな?」
レイメルに上げた時に箱が空になったことを覚えているのか、ジェスタはさらに疑いの目を向けてくる。
「原理はわからんが、弾薬同様に新しいものを取り出せる」
そう言って新しいレーションを取り出して実演してみせる。
さらば、コンソメ味。
中身もちゃんとあることを見せるために封を切る。
くたばれ、出汁塩味。
「……手品か?」
疑いが晴れないので箱を振って一本取り出しやすくしてジェスタに向けてやる。
それを受け取り恐る恐る口に入れるジェスタ。
「んン!?」と何とも言えない声を出して顔を歪める。
全ニ十種類まで増えたコラボ元の栄養補助食品の中でもワースト3の座から一度も落ちなかった精鋭の味だ。
小麦粉を練った塊に出来損ないの和風出汁と塩をぶち込んで固めただけ、とまで言われたのがこいつだ。
不味くて塩辛いだけのハズレが何故七種のフレーバーの一つに選ばれたのか?
答えは投票での悪ふざけ、である。
俺の推しの抹茶味を返してほしい。
「お前……よくこんなものが食えるな?」
うちの飯の方がマシだぞ、と信じられないものを見るような目で言われた。
だから新しい箱を取り出す。
「さっきも言ったが、原理はわからんがこうやって何度も取り出せる」
自分の手にあったものが消えたジェスタの視線が俺の手にあるものとを行き来した。
「フレーバーも複数あってな、こうやって……」
中身を見ないで齧ったら出汁塩だった。
無言で新しい箱を取り出し、今度は色を確認してから口に運ぶ。
「ちゃんと食えるものもある」
フルーツ味で一安心。
そちらも食べたジェスタが「おお」と感心したかのような声を出す。
ジェスタはそれから少し考えるような素振りを見せると確認を取る。
「これが弾薬同様に無制限に取り出せる、と?」
「無制限かどうかは不明だが、今のところ幾つ取り出しても何も起こってはいない」
俺の返事に「ちょっと待て」とジェスタは何処かに連絡を取り始める。
「明らかにおかしいもんな、これ」と納得する俺とざわめき出した周囲。
目の前で誰かと会話しているのにその内容が全く聞き取れない、という不思議な現象を眺めていると、興味が出たのか英霊たちがレーションを食べに集まってきた。
ケチるものでもないので何も言わずに黙って差し出すとそれを口にした者たちが「こういう感じか」と咀嚼しながら頷いたりしている。
「甘味はこっちだと戦果ポイント使う必要あるみたいだし、戦えなくなったらこれ売りにだしたらどう?」
何処からか聞こえてきた声に同意する奴がチラホラ見受けられたが、その場で食ってもらう必要があることを忘れてないか?
それに武器の解放手段がわかったのだから戦力外通知は受け取り拒否だ。
あと昨日の戦闘の詳細は何時になるんだ?
既に時間になってるが、話が何も進んでないぞ?
この意見に同意する連中の方が少数派とか、ここのディストピア飯をどうにかすることを考えろ。
今全種食いたいと言った奴がいたな?
出汁塩味を出してやるからちょっと待て。
騒ぐ英霊とやってきたアリスが状況を把握できずにしばし呆然としていた。
この騒動が収まるためにアリスが大声を出し、悪ふざけをしていた英霊に説明を求めたところ揃って俺を指差し責任転嫁。
顔は覚えたからな、二度とこのレーションを食えると思うなよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます