4-7
結果的にリオレスは剣を納めてくれたわけだが……どうやら怪しんでいるのは俺だけではないようだ。
何せ時系列で語ることができない問題なのだ。
魂だけとは言え、世界を渡る手段があるこの場所でなら悲願を達成することができるのではないか?
それだけを支えにして戦ってきた彼にとって、師の仇である異界渡りの出現は正に待ち望んでいたものである。
しかしそこに辿り着く、或いは呼び寄せるまでの道があまりに見えない。
手探りで始めるどころか、手を伸ばす方向すらわかっていない状態とわかり、リオレスは今がむしゃらに手がかりを求めている。
「ジャミトスの残留思念から『異物』というキーワードを引き出した時は前進したと思ったが……」
上手くいかないものだ、と溜息を吐くリオレスにかける言葉が見つからず、俺はただ黙って考える素振りを見せる。
これに関しては俺が手伝えることは何もない。
無い知恵をいくら絞ったところで、無いものは無いのだ。
そんなわけで俺は今できることをする。
そう、デペス誘引の検証である。
空気を読んで何かしらの協力くらいはしてやりたいが、案すら出せないのだから仕方がない。
襲撃からデペスがどの方角からやってきているかは判明しているので、そちらに向かって色々と撃ち込むことから始めるよう。
リオレスにも検証を開始する旨を伝え、俺はまずはスナイパーライフルから試すことにする。
最初に長射程武器を選択したのはちゃんとした理由があり、単純に一定範囲を超えた場合に反応するかどうかを見るためである。
ということでまずは地上で一発発射。
それからジェットパックに換装して上空へと移動し、もう一射してからしばらく滞空して様子を見る。
結果、反応がなかったので地上へと降りる。
リオレスがこちらを見ていたので「何もなかった」と肩をすくめる。
続いては爆風兵装――ロケットランチャーの出番である。
爆発というわかりやすい音や熱量の変化ではどうなるか?
限界距離に到達すると弾が消えるので、ギリギリで地面に着弾するように調整しなくてはならない。
「何気に結構難しくね?」と思いながらも微調整の末、一発でクリアしたのだから自分を褒めてもいいだろう。
続いて上空へと移動し、今度は同じ条件で空から撃ち下ろす。
二度の爆発でも見える範囲に変化はなし。
ならば、とグレネードランチャーに切り替え、ポンポンと地上に向けて連射する。
リロードを何度か挟み、しばし地上を爆撃してみたが……やはり何も起こらない。
地上に降りた俺が次に何を出すか考えていたところ、ちょっとした閃きのようなものが頭を過る。
(デペスを打倒するための基準、規定外領域……つまり攻撃力の高さか?)
これはもしかしてアタリなのではないか?
つまり次に出すべきはプラズマキャノン。
リロード可能武器の中では最高火力のこいつならばデペスが反応する可能性がある。
念のためにバイクを出して、そちらのスロットから呼び出してから検証を行う。
地上と上空の二発を撃つ予定なので、メインスロットを使う関係上片方はビークルのものを使う。
成功した場合、戦闘にならないとは限らないので念のためにというやつだ。
俺の行動に可能性を感じたのか、リオレスの方も警戒を強めているのがわかる。
「いくぞ」
ただ一言、それだけ言って俺はプラズマキャノンを発射する。
それからジェットパックへと換装し、上空へと飛び立ち地上を見下ろす。
真下では換装に伴いビークルは強制解除で消えており、一人残されたリオレスが剣をいつでも抜けるように手を添えているのが見える。
地平線には変化はなし。
俺は上空でプラズマキャノンを構え、射程距離限界を狙って地上へと撃ち下ろす。
着弾の爆発と熱量が地表を焦がし、俺はさらに高度を上げて様子を見る。
スナイパーライフルへと切り替え、スコープを覗きながら向こうの動きを探った。
大体三分くらいはそうしていただろう。
驚くほどに何も起こらない。
(んー……これはダメっぽい?)
結構自信あり気にやってこれはちょっと恥ずかしい。
しかしいつまでもここで粘っていても仕方がないので、俺はゆっくりと地上へと降りる。
「違ったようだ」
がっくりと肩を落とす俺にリオレスも「そうか」とだけ言って剣から手を離す。
こうなると戦ってみるしかないのか?
そう思っていたところでリオレスが一人でいる間に考えたことを伝えてくる。
「思ったのだが、あの女は攻勢に参加していたのだろう? ならば、それが原因ということは有り得るか?」
リオレスの思いつきを精査してみる。
連中に指揮系統はなく、情報の共有も行われているようには見えない。
だが、連中の拠点はどうだろう?
攻めてきた相手を記録、或いは警戒対象としてマーキングくらいはしているのではなかろうか?
ただでさえ目立つ変態だ。
考えれば考えるほど可能性が高く思えてくる。
「あり得るな」
俺がそう呟くとリオレスが頷いた。
とは言え、ここまで来たのだから軽く模擬戦はやっておこう。
エデンへと帰還した俺たちは真っすぐに司令部へと向かった。
待っていたのは「やはり余でなければならなかったようだな」というウザイ顔をしたフィオラ。
よって、俺たちの出した結論を口頭で伝える。
試してみる価値はあるだろうからあの変態を一人で荒野に叩き出してくれ――と期待したのだが、足として俺が指名された。
成功した時のことを考えても、移動手段としても俺が最適なのかわかっていたことである。
「転移剣使えよ」と言いたいのだが、こちらに置くと移動が大変だからという理由で拒否された。
同行すれば否応なしに戦闘になりそうなので拒否したいのだが……断れるはずもなく、俺はバイクを出すことになった。
しかしエデンも俺からの心象を悪くしたくないと思ったのだろう。
フィオラに転移剣をこちらに置いておくことを提案した。
何かあれば転移で戻ってすぐに報告ができる上、六宝剣の中でも最も厄介なものの一つを封印できる。
この状態ならばフィオラも全力が出せず、俺との戦闘を無理強いする理由も薄れる。
それならばと俺も承諾。
フィオラは露骨に不満そうにしていたが、やはり俺とのバトルを企んでいたようだ。
模擬戦ですらしたくない相手なので、俺は心の中でホッと胸を撫で下ろす。
ちなみにリオレスとの模擬戦だが、近接戦闘主体でやり合ったところ相手にもならなかった。
後半は「銃弾を切れるのはどこまでか?」を検証していたりしており、十メートルも離れればスナイパーライフルの弾丸すら斬り飛ばすのだから、異世界の英雄クラスはやべぇ奴しかいないのかと戦慄したほどだ。
そんなわけで再びゲート前。
露骨に機嫌を悪さをアピールするフィオラとそれを宥める職員の姿を横目にバイクを出す。
リオレスは役目は終わったとばかりに立ち去っており、恐らくはまた異界渡りに繋がる手がかりを探しているのだろう。
「さっさと出せ、スコール1」
バイクに腰かけるフィオラが俺を急かす。
エネルギーの残量をチェックしていたらいつの間にか後ろに乗っていた。
少々油断が過ぎたのかもしれない。
気を取り直し、バイクを発進させるとゲート潜った辺りで加速を始める。
エネルギー節約のために音速は超えないように速度を調整しつつ、先ほどのポイントへと向かって再び荒野を駆け抜ける。
道中何事もなく目的地に辿り着きますように、と願っていたのだが……予想通りその願いは叶わなかった。
「諦めて余のものとなれ、スコール1」
「お前が諦めろ」
即答で拒否するとフィオラが立ち上がり――風の抵抗をまともに受ける。
音速こそ出ていないがそれに近い速度で走っているのである。
風を受けている俺の体からはみ出ればそうなるのは当然だ。
髪が流されるのが気に入らないのか、何か魔法を使って風の抵抗を消し去ると俺に抱き着くように密着してくるフィオラ。
「この戦いを終わらせるには、それが最も手っ取り早い」
それがわからぬほど愚かではあるまい、とフィオラは耳の傍で囁くが、生憎とこちらはヘルメット着用。
残念ながらその手の手段は通用しない。
そもそも「戦いを終わらせる」とは言っているが、それが俺には信用できないのだ。
「本当に、その気があるのかは疑問だな」
「言いたいことはわかる。だがな、ここは余が治める土地ではなく、余が治めるべき世界でもない」
苦笑するフィオラだが、自分を客観的に見ることができていたとは驚きである。
だが、それで意見を変える俺ではない。
「戦いを終わらせる、その目的は何だ?」
こいつが平和など考えているわけがない。
ならばデペスとの戦いを終わらせるには何か理由があるはずである。
そう思っての質問だったのだが、予想以上に返事が遅い。
「目的か……一人の男を帰してやりたい。お前も知っているはずだ。眠り続ける一人の男を……」
すぐにそれがエデンの切り札である最強――カリツ・コールマンのことだとわかった。
記憶に間違いがなければ、このフィオラをしてまともに挑むことすらできないほどの強者である。
強者を好むが故にフィオラは彼に対しても何か思うところがあるのだろう――そう思っていたのだが、話は思いがけない方向へと曲がった。
「余は王である。だが、一人の女でもある。惚れた男のために何かしてやろうという程度には、情もある」
そのセリフを理解するのに数秒の間が空き、理解した直後に「え?」という声が漏れるとハンドル操作を誤った。
運転が乱れたことでフィオラから叱責されるが、そんな話をここでする方にも問題があると俺は思う。
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