四天王

 旅を始めてから何年か経った頃、俺もメディも割と強くなっていた。俺の方は、旅をするうちに、幸運が発動する時としない時があることに気づいて、幸運がなかった戦闘を重ねるうちに、強くなった。ある意味、成長が右肩上がりに曲線を描いているのかもしれない。これも幸運なのか?


 メディの方も一緒に強くなっていた。回復の異能は力を増し、取れてすぐの欠損部位ならくっつけられるくらい。元々は再生力の増幅程度だったことを考えるとすごい進化だ。


 この数年間も、魔王城をめざしながら、色んなところに行った。

 大きな町での悪徳領主の罪を暴いたり、遠い国のお姫様の家出騒動に巻き込まれたり、閉ざされた里の陰謀を暴いてみたり……とにかく色々あった。


 メディはどこへ行っても神官の鏡のような振る舞いが一貫していた。神の教えを広めながら、彼女自身の人柄にみんなが惹かれていくのはなんとなく嬉しい反面、少し嫉妬したりもしたが、彼女だけが旅について来てくれる事に優越感があった。


 そんな時、ついに魔王の率いる魔王軍の幹部と出会った。


『我は魔王様の忠実な下僕、四天王が一人、ドローグである!』


 最初に出会ったのは土の四天王ドローグだった。ある村の村人が行方不明になっているとの事で、村の裏山に捜索に出ていたところ、まさにドローグによって連れ去られる子供を見つけた。


 ドローグは人間を触媒に土人形を作り魔王軍としようとしていた。メディはそれに激怒、俺も許せなかった。そのまますぐに戦闘に入った。


 大地を操る魔法、泥により攻撃が通らない体に苦戦していると、突如山の上の方から声がした。

 声の主は前に訪れた町の水路を直した時に知り合った男だった。


 そいつが岩を切り崩すと岩の隙間から水が吹き出した。そしてドローグの土でできた肉体を固め、動きを封じた。

 そのタイミングで、そいつの核となる部位を破壊して勝った。


 次に出会ったのは、水の四天王だった。


『俺様は魔王様の頼れる右腕、四天王の一人、ハイドンだ!』


 こいつは、大陸から大陸へと渡る船が難破した時、偶然辿り着いた無人島に現れた。人型だが、体の一部が水となっている化け物だった。


 船の貿易ルートを破壊するため、無人島に兵備を整えていたらしく、水によって無人島に閉じ込められ、サバイバルを強いられた。

 一般人もいる中、性格の悪いハイドンがこちらの衰弱を待つのに痺れを切らした俺は、メディと一緒にハイドンを倒すことに決めた。


 しかし、水を操るハイドンは、島の中の川や地下水など、あらゆるものを駆使するため、外では勝ち目が薄い。だが、話が分かる魔物がいたことで、ハイドンの作り上げていた施設に侵入し、直接対決に持ち込めた。


 ハイドンは施設内にも水の導線を引いていたが、外に比べればまだマシだった。メディが覚えた強化魔法でなんとか渡り合い、なんとか追い詰めると、ハイドンは施設を破壊し外へと逃亡した。


 終わったかと思ったが、ハイドンが山の頂点で高笑いしていると、山が轟音と共に動き出した。火山だったらしい。確かに、滞在中は時々地面がゆれていた。溶岩に巻き込まれ、ハイドンは死んだ。


 三人目は過去の勇者が遺した伝説の防具を求めて行った遺跡の先で出会った。


『おいらは風、風の四天王! 魔王様のためにここは壊す!』


 名前はフーファンというらしい。風の四天王のこいつは、遺跡を強風によって破壊し、そのまま逃げようとした。そして、風を使って近くの村人の風の噂を伝えてきやがった。


『……結局さ、勇者様っていうけど、どうなんだろうね? もてはやされてるだけじゃない?』

『あんなやつがなれるなら、俺がやってやるのにな!』


 みんながそういうやつじゃない。分かっていても傷ついた。確かに俺はパッとしないし、メディに比べて影も薄い。でも、選ばれたから、頑張っている。それに、旅をするうちにみんなを救いたいと思っていたんだ。


 だから辛かった。


 でも、メディが寄り添ってくれた。


『あなたは大丈夫、きっと全てを成し遂げる。私はそれを信じてる』


 この言葉で救われた。その時、崩れたはずの遺跡から光るものが見えた。

 伝説の防具を封印した結晶だった。俺がそれに触れると、結晶が砕けて中から防具が現れた。


 こうして伝説の防具を手に入れた俺は、ひとつの町を支配していたフーファンのもとへと乗り込んだ。


 フーファンは風を操る鳥型の魔物、強風で吹き飛びそうになるも、鎧が光の壁を作り出し、風を防いだ。その代償として削れる体力をメディが回復し続けて、ゆっくりとフーファンに近づいた。


 なぜフーファンがまた逃げなかったのか。それはフーファンの翼を貫いてくれた奴がいたからだ。奴隷にされていた男が勇気を振り絞って投げた槍が翼の付け根に突き刺さり、上手く動かせなかったんだ。


 そのまま俺はフーファンも倒した。


『俺は四天王、フレイ、魔王様の命を受け、お前を倒す。四天王最後の一人だ』


 最後の四天王は堂々と勝負を求めてきた。


 魔王城の手前、大きな城門で出会った。炎をメラメラと纏った体の中心には細い人型が見えた。


 でも、戦いは実にシンプルだった。互いに剣をぶつけあった。


 魔王城に到達する以前、千年間生きていると自称する奇妙な老人の難題を解いたことで手に入れた聖剣があり、かなり強くなっていたのだが、苦戦した。

 フレイ自身も武人であり、俺が前に旅先で出会った剣の師匠と同じかそれ以上の実力だった。


 俺は左腕を切り落とされることを覚悟で突撃して、代わりにフレイを右肩から斜めに叩き斬ることに成功した。メディの回復が強化されてなかったら死んでた。

 色んなところを巡るうちにメディの回復はかなり強くなっていた。人々に感謝され、聖女とも呼ばれるくらいだ。


 俺の幸運がどうなっているのかは結局全貌が見えなかった。異能が成長して他人にも作用するようになってきていることが分かったのはでかかったけどな。


 そして、四天王を全員倒して、魔王城の門をくぐる。本当に俺はたどり着いたんだ。

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