第2話 用済みの追放宣告
ゴゴゴゴ……と、地響きのような音を立てて、目の前の巨大な石扉がゆっくりと開いていく。扉の隙間から漏れ出すのは、淀んだ魔力と、死の匂い。この先に、俺たちの長旅の終着点がある。
「ついに来たな……!第50層、奈落の祭壇!」
レオ様が、欲望にギラつく目で扉の奥を睨みつけた。リナ様も、ゴードン様も、緊張と興奮が入り混じった表情で武器を構えている。
(終わるんだ……本当に、終わるんだ……!)
痛む腹を押さえながら、俺は込み上げる感情を必死に抑えていた。この地獄のような日々が終わる。莫大な報酬を手に入れれば、俺だってパーティの一員として……いや、せめて人間として扱ってもらえるかもしれない。それだけの働きはしてきたはずだ。
俺が皆の分の最終装備チェック用のアイテムを取り出そうと【無限収納】に意識を向けた、その時だった。
「アイン」
背後から、氷のように冷たいレオ様の声が響いた。
「はい、レオ様!ただいま最終確認用のアイテムを――」
「いや、いい。お前はここまでだ」
「……え?」
一瞬、何を言われたのか理解できなかった。俺は間抜けな声を出して、レオ様の方を振り返る。そこには、俺が今まで見たこともないほど冷酷な、ゴミでも見るかのような蔑みの目が浮かんでいた。
「聞こえなかったのか?お前の役目は終わりだと言ったんだ。ここから先は、俺たちだけで行く」
「な、何を言っているんですか!?ボス戦では、回復薬や予備の武具がいつ必要になるか……!俺がいなければ!」
俺の必死の訴えを、リナ様が鼻で笑った。
「本当に愚かね。あなたの仕事は、ただの『荷物持ち』。戦闘能力ゼロのあなたを、命がけのボス戦に連れていくメリットがどこにあるの?分け前を無駄にくれてやるだけじゃない」
「そ、そんな……!俺は、このパーティのために……!」
「うるせぇんだよ、役立たずが!」
ゴードン様が俺の胸ぐらを掴み上げ、壁に叩きつける。背中を強打し、息が詰まった。
「ぐっ…!がはっ…!」
「てめぇみてぇなゴミスキル持ちに、分け前なんざくれてやるかよ。さっさと【収納】の中身を全部ここにぶちまけろ。それがてめぇの最後の仕事だ」
ゴードン様の唾が顔にかかる。俺は信じられない思いで、パーティの面々を見渡した。誰もが、俺を嘲笑っていた。同情する者など一人もいない。
最後に視線を向けた僧侶のセラ様は、慈愛に満ちた笑みを浮かべて、静かに首を横に振った。
「アインさん、これも聖なる試練です。強者だけが富を得る。それが世界の理なのです。あなたの魂が、この試練を乗り越えて救われることを祈っていますわ」
ふざけるな。
ふざけるな、ふざけるな、ふざけるなッ!
俺がどれだけこのパーティのために尽くしてきたと思ってるんだ!夜も眠らずに装備をメンテナンスし、いついかなる要求にも応えられるよう、数千を超えるアイテムを完璧に管理してきた!あんたたちが何度も死にかけて、そのたびに俺が差し出したポーションや装備で命拾いしてきたことを忘れたのか!
「俺がいなければ……!あんたたちだけじゃ、ここまで来ることすらできなかったはずだ!」
俺の魂からの叫びは、しかし、レオ様の一言で虚しくかき消された。
「勘違いするなよ、荷物持ち。お前の代わりなど、いくらでもいる」
その言葉が、俺の心を砕く最後のハンマーだった。
ああ、そうか。俺は、ずっと、ただの便利な道具でしかなかったんだ。用が済めば、捨てられるだけの。
「さあ、どうした?早く荷物を出せ」
レオ様が、まるでゴミを処分するかのように、顎で俺をしゃくった。目の前が真っ暗になる。希望も、未来も、何もかもが、この暗いダンジョンの底へと溶けていくようだった。
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