AIに小説を評価させる前に知っておくべきこと

雪野 燦(ゆきのさん)

AIに小説を評価させる前に知っておくべきこと——実践的な指針

はじめに

AI評価ツールは、いまや誰でも簡単にアクセスできる便利な存在です。ChatGPT、Claude、Geminiなど、対話型AIに作品を読ませ、フィードバックを求めることができます。

しかし、その「便利さ」の裏に潜む落とし穴を理解しないまま使うと、かえって創作の軸を見失う危険があります。

本稿では、AIによる小説評価の限界と、それを有効活用するための実践的な方法論を提示します。


1. 点数評価の幻想を捨てる

避けるべき依頼

「100点満点で評価してください」

「文章力、構成、キャラクターをそれぞれ採点して」

なぜ避けるべきか

点数の本来の役割は「比較可能性」「再現性」「序列化」です。しかしAIが出す点数は、定性的判断を恣意的に数値化したものに過ぎません。同じ作品でも、質問の仕方や文脈によって異なる点数を返す可能性があります。

点数化の無意味さは、AIモデル間の評価を比較すると明確になります。

例えば、同じ小説を:

ChatGPTに評価させると「75点」

Claudeに評価させると「62点」

Geminiに評価させると「80点」

このように、モデルが違えば点数も大きく変動します。もし点数に本当に「比較可能性」や「再現性」があるなら、どのAIでも近い評価になるはずです。しかし実際には、各AIが異なる基準・異なる価値観で評価しているため、数字がバラバラになります。

「この小説は75点」という表現は正確ではありません。 正しくは「このAIモデルが、この文脈で、このタイミングで出した数字が75」です。

数字は「客観的」に見えますが、実態は印象論です。この偽りの客観性に依存すると、実質的な意味のない数値に振り回されることになります。


2. 定量評価への過信を避ける

対話型AIは、文字数や文の数といった基本的な計測でさえ不安定です。

Pythonコードを書いて正確に測るか

目分量で概算を答えるか

この判断はAI次第で、ユーザーが完全にコントロールできません。同じ条件で複数作品を比較することが困難なため、厳密な定量評価には向いていません。

必要であれば「Pythonで正確に計測して」と明示的に依頼するか、専用の分析ツールを使用することを推奨します。


3. 「辛口評価」という罠

避けるべき依頼

「辛口に評価してください」

「厳しく見てください」

なぜ避けるべきか

「辛口で評価してください」——この依頼の背景には、どんな心理があるでしょうか。

多くの場合、それは:

「欠点を知らなければ成長できない」

「甘い評価では意味がない」

「厳しく見てもらった方が信頼できる」

という思いから来ています。一見、真摯な姿勢に見えます。

しかし、AIに「辛口で」と指示しても、評価基準が変わるわけではありません。単に否定的な言い回しが増えるだけです。

結果として:

欠点を探すこと自体が目的化する

本来気にならない点まで「問題」として指摘される

建設的なフィードバックではなく、難癖のような指摘が増える

トーンだけを操作しても、評価の質は向上しません。

より深刻なのは、「辛口で」という依頼が、判断の主体性を手放してしまうことです。

AIが指摘した欠点を、そのまま「直すべき点」として受け入れる。「これは本当に欠点なのか?」「自分はどう判断するのか?」という思考を放棄してしまう。

創作において、何をどう表現するかの判断は、本来作者自身が下すべきものです(詳しくは後述します)。AIに「辛口」を求めることで、その判断をAIに委ねてしまう——これがこの依頼の最大の問題点です。


4. 推奨する依頼方法:良い点と悪い点の併記

効果的な依頼例

「この小説の良い点と悪い点を具体的に教えてください」

「効果的だと感じた表現と、気になった箇所を挙げてください」

「具体的な場面を引用しながら、長所と短所を分析してください」

なぜこの形式が有効か

偽の客観性(点数など)に頼らない

バランスの取れた視点が得られる

あなた自身が取捨選択できる「材料」となる


5. AI評価を「材料」として扱う姿勢

AIの評価は、絶対的な判断ではなく、あなたの意思決定を支援する材料です。


良い点について

「自分の狙い通りか」を確認する材料として使います。意図した効果が読者(この場合AI)に届いているかの検証です。

悪い点について

盲目的に受け入れないでください。

採用するか、無視するか——判断するのはあなたです

もし無視するなら、「なぜこれで良いのか」を自分で説明できるようにする

この「理論武装」ができるかどうかが、AI評価を有効活用できるかの分かれ目です。


6. すべての表現にはトレードオフがある

前述の「理論武装」——つまり「なぜこれで良いのか」を説明するためには、創作におけるトレードオフの理解が不可欠です。

あらゆる表現選択には、必ずメリットとデメリットが存在します。

冗長な描写を選ぶ場合:

デメリット:退屈になるリスク

メリット:世界観に深く浸れる豊かさ

説明を省く場合:

デメリット:読者を置いてけぼりにするリスク

メリット:読者を信頼した余白の美学

強烈なキャラクターを配置する場合:

デメリット:好き嫌いが分かれる

メリット:強い印象を残せる

AIが「悪い」と指摘した点は、あなたが別のメリットを得るために選んだトレードオフかもしれません。重要なのは、その選択を意識的に行っているかです。


7. AI評価を「対話相手」として活用する

AIは審判ではなく、あなたの思考を整理する対話相手です。

AIの指摘を受けて、自問してください:

「この表現は本当に意図的な選択だったか?」

「このデメリットを受け入れてでも得たいメリットは何か?」

「なぜこの選択が私の作品に必要なのか?」

この自問のプロセスこそが、AI評価の最大の価値です。

おわりに

AI評価の本質的な価値は、正確な点数や客観的な判断を得ることではありません。

それは、あなた自身が創作の選択を意識的に行い、それを言語化する力を養うことにあります。

AIの言葉に権威を持たせるのではなく、自分の判断を明確化するための鏡として使いましょう。

この指針が、AI評価ツールと向き合うあなたの一助となれば幸いです。


付記

本稿は、AI評価を全面否定するものではありません。その限界を理解した上で、創作者が主導権を保ちながら活用するための指針です。あなたの創作の軸を見失わないために、参考としてお役立てください。

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AIに小説を評価させる前に知っておくべきこと 雪野 燦(ゆきのさん) @yukinooooooosan

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