市民警官 宗像脩
イノベーションはストレンジャーのお仕事
1-1 第一章 横領の潜入調査
宗像脩32歳。彼が職場を離れる時は任務が終わる時である。
残業分の支給金を不当に水増し請求し、その他備品の転売によって私服を肥やしていた自動車ディーラーの「ネクスモバイル」の営業所長並びに事務社員他5名が逮捕されたという事件は脩の手柄と言っても良いが決して表には出ない。
現職フリーター、というのは上辺だけの話。実は一般市民の体でアルバイト勤務をしながら世の中の悪事の取り締まり任務を専門に遂行する、警察庁直属の潜入捜査警官なのである
宗像脩は数カ月前に求職サイトで「ネクスモバイル」にアルバイトの応募をした。この店舗は知名度の割には定着率が何故か低めである。もし仕事内容や職場環境に問題がなければ定着率も高止まりしているはずだ。
応募先から面接の連絡が来た。1週間後の午後からという設定になっている。彼の経歴•職歴には警察学校に通っていたという事実はない事になっている。
「えーっと、むなかたしゅう?」
「おさむです」
面接官が言い切る前に自分の名前を伝えて遮った。
「ああ、おさむさんね。面接官の樋口です」
「よろしくお願いいたします。これ、履歴書と職務経歴書です」
そう言うと、樋口は宗像脩の履歴書に目を通す。
「現在32歳で独身。普通校を出て2年浪人後、都内M大学入学。へぇ~優秀なんだね」
「いえ、この歳でこういう生活していますから一概には言えません」
「そんなもんかね。いまそういう生活を望んでする人もいるみたいだし。で、大学卒業後U銀行に就職。今春で退職。ふーん、なんでやめちゃったの?銀行なんて言い働き口だと思うけど」
「日々の生活と仕事が単調になってしまいましたので辞めました」
「もったいない話だねぇ。優秀な人の考え方はわからん。で、その後今のようなフリーター的な感じになってるわけね」
「そうです」
銀行に8年勤務していたのは銀行内部で不正があるのではないかというタレコミがあり、宗像脩が調査したが結局は分からず終いだった。そこで脩の捜査対象は町場の企業に切り替えられた。それで現在に至る。
「で、その後の職歴はと。最近は物流のアルバイトを?」
「物流の仕事をしてみて、御社の車関係の仕事に就きたいと思い志望しました」
「なるほどね。運転免許は?」
「普通自動車ですが一応ゴールド免許です」
脩は樋口に運転免許証を提示した。脩は中型自動車運転免許も持っていた。
「物流のバイトでトラック等の運転はしました?」
「ええ、乗れる範囲で多少は」
「うちは車に乗れないと話になんないからね。で、うちは洗車や回送、あ、車を持っていく業務の事ね。その二つの部門の人材が欲しいわけよ。営業もあるんだけど」
「営業でなくても構いませんが」
「そうかい。じゃあ、その方向で話は進めておきますので。結果は今週中にでもお知らせします」
「よろしくお願いいたします」
3日後、「ネクスモバイル」から洗車部門でアルバイトの採用通知が来た。週明けの月曜日から早速勤務要請があった。
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