トリックマン
平中なごん
I 欧米系都市伝説
トリック・オア・トリート──日本語に意訳すれば「お菓子をくれなきゃ悪戯するぞ」。
言わずと知れたハロウィンの日、お菓子をねだって家々を廻るこども達が口にする台詞だ。
だが、そんなこどものフリをして、その言葉を投げかけてくる殺人鬼がいるのだという。
そいつは、ハロウィンの夜にやって来る……。
こども同様、玄関先で「トリック・オア・トリート?」と尋ねてくるのだが、親切にお菓子をあげようとしても、そいつはそれを受け取ろうとはしない。
代わりに「やっぱり、お菓子はいらないから悪戯させろ」と答えると、刃物を手に家へと押し入り、一家全員を惨殺するのだ……。
そこから付いた仇名が「トリックマン」。
なんだがアメコミヒーローのような、何の捻りもない陳腐な名前であるが、もとはアメリカのネットミーム(※ネット上で生まれたウワサ)発祥の都市伝説らしいので、そう聞くとそのネームセンスにも納得する。
また、こんな荒唐無稽な怪人の話、日本人からすれば到底信じられるような代物ではないが、発祥地アメリカは日本と比べものにならないくらいに治安が悪い。この殺人鬼も怪異というよりは、シアルキラー的な猟奇犯罪者としてもっとリアルに捉えられているのかもしれない……いずれにしろ、その生活文化や社会情勢に根差した、いかにもなアメリカらしい都市伝説といえるだろう。
だから、もし仮に〝トリックマン〟が実在するのだとしても、ハロウィン自体、つい最近になってから市民権を得たこの日本においては、まさに対岸の火事的なまったく関係のない都市伝説だとわたしは思っていた……あの日までは──。
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