異業種交流会のふたご座流星群
一閃
ひと第1話
『異業種交流会』なんて名ばかりの合コン。2時間前に頼まれて数合わせで参加している。
「ドタキャン出てさ…」
「気がすすまないな」
「そこをなんとか」
「他あたってくれ」
「他って言っても…穴を埋めるにはそれなりのクラスが必要なわけよ…」
「クラス?」
「一軍がいないとな…食いつきがさ…わかるだろ?」
「俺ら社会人何年だよ…まあだこんなやり方で…」
あきれた口調でぼやき出すと
「一軍のお前にはわからんよ」
「一軍?オレが?」
「そう!二軍、三軍のツラさはお前にはわからんよ」
「高校生かよ」
「仕事も恋も順調で」
「それなりに大変だし彼女もいねーし」
「いやいや、学生時代からお前は…」
『そんなことをグダグダ言ってるから…』なんて言えるはずもなく、イライラしてきて『わかった!行くよ』と言ってしまった。
「あーざっす」ツレの表情が明るくなった。
店までツレと歩いた街は、Xmasや年越しをひかえ、普段の週末よりネオンは眩しく、街灯もXmas飾りでデコられ、音楽が流れ、大袈裟な笑い声が響いている。
そんな街をコートのポケットに手を突っ込んで歩くオレ。
「なんだかな…」と何気なく呟いた。
「何が?」とツレが応える。
「何してんだか…と思ってさ」
「異業種交流会ですよ 楽しく呑みましょう!ってだけ」
「楽しくね…」
「もしかしたらXmasや年越しを一緒にすごす人が…なんてこともありえるし」
「フリーなんだろ?」
「別にオレは…それに一軍、二軍ってなんだよ…」
「そこ?そこに引っかかる?さすが一軍だよなあ」
なんて身も蓋もない話をしながら店に入った。
居酒屋の個室の扉をノックする。
「は~い」とかん高い女性の声。
「遅くなって申し訳ない!」とツレが部屋に入る。
扉の近く座ってる女性がペコリと頭を下げたのでオレも軽く会釈した。
どうやら自分たちが最後らしい。
「ごめんね~軽く呑んでますぅ」
かん高い声で語尾をのばす
どうやら、女性陣のリーダーはこの
「ここ空いてるので」と
自分の
「やっぱりそうか~」ツレが大袈裟に言う。
「そうすっよね~コイツが真ん中っすよね~」とオレを座らせた。
「何を呑まれますぅ?」
「…ハイボールかな…」
オレとツレが酒を決めると対面彼女は扉の近くの彼女に視線を送る。彼女は何もリアクションせず、オーダーを店に通す。
対面彼女はツレの言う「一軍」らしい。両隣りの女性たちは「一軍」と言うか…友だちと言うか…ただのとりまきにしか見えない。似た髪色、髪型、服も…そして対面彼女に忖度した相づち…。
テーブルの端の彼女は対面彼女とは真逆の印象だ。『友人?…ただの同僚?』
つまらない話を適当に聞き流しながらパワーバランスを観察した。
彼女は扉に近い席ということもあり、グラスをまとめたり、料理をテーブルの中央に出したり、店員とやり取りしたりしていた。『私 気がつく女なんです』感も出さずに淡々とやっている。
2杯目のグラスをオレに手渡してくれた時、酒が入った勢いもあり、訊いてみた。
「キミは数合わせかな?」
彼女は「はい」と少し笑いながら応えた。
「いやだ~何言ってるんですかぁ~」
「そうですよ~数合わせだなんて」
対面彼女たちが騒ぐ。
「いや…オレもそうだし…」
「ええっ!そうなんですかぁ?」
「いやいや…ドタキャンが出てさ…数がね、数がハンパなのもどうかな~」とツレが説明する。
「異業種交流会だろ?数なんて…」と言いかけると、ツレに足を踏まれた。
『名刺交換すらしてませんけど…』
「彼女はさっきまで仕事場にいましたって雰囲気だったから…」
「ごめんなさい~っ 彼女はいつもあんな感じなんですぅ」
「そうそう、おとなしいっていうか地味っていうか…」
「せっかくの交流会なんだから身だしなみとかもっと気を使っても…」
対面彼女たちの声が聞こえてるはずの彼女を見ると…どこ吹く風で鶏からを頬張っている。
そんな彼女を見て『そうそう、そういう感じ面白いねぇ』と
オレは少し楽しくなった。
さすがにつまらない話しにも飽きてきてもう帰ろうかと思い始めたとき、スマホに流れてきたニュースが話題に上がった。既婚者芸能人とファンとの不倫だった。
「最近多いですよねぇこのてのニュース」
「奥さんがかわいそう」
「わりと近くにもあるじゃないですか、友人とか社内とか」
「職場は怖いよな~バレた時のリスク考えたらさ」
「そこを越えるんだから、ホントに好きかバカなだけだよな」
「たまたま好きになった人に彼女や奥さんがいただけって言う女性いるじゃないですか」
「そんな女性、どう思います?」
「そうだな…」
男性陣が思いあぐねてるので、彼女に振ってみた。
「キミはどう思う?」
「ダメですよ~そんな意地悪な質問」と対面彼女。
「彼女にわかるわけないじゃないですかぁ」
「うんうん、彼氏いない歴どの位だっけ?」
『おいおい、なんのマウントだよ』
「大切な人を裏切るって…良くないですよね…」と彼女が口火を切った。
「いいか悪いかで言えば悪いと思います…でも…」
「でも?」
オレは後に続く言葉をワクワクしながら待った。
「でも…いいとか悪いかじゃなく…そういう恋愛をしたってだけのことだと思います」
言葉は悪いが、地味めな雰囲気の彼女には合わない口上だと思った。
思わぬ展開にみんな少なからず驚いてる。
「そんな恋愛でも…私は好きな人の体温を感じたいと思います…きっと」
『おぉ、言いきりましたね』と心の中で拍手喝采した。
「だよな、その欲に1度でも正直になったか、色々考えてブレーキをかけたかの差だよな」とオレ。
「えっ、ええっ~2人はそういう恋愛肯定派?」と対面彼女。
「言いませんよ…誰にも…誰にも言わないけど…終わった時、大切にしてる親友には言うかな…」
「どうして?」とオレ。
「ん~なぐさめてほしいし、怒ってほしいし…終わらせたことを褒めてもらいたいかな?」
「そっか、なるほどね」
「…もしかして、そんな恋愛の経験者?キャラにないも~ん」と
対面彼女たちがざわつく。
彼女は時計に目をやり
「ごめんなさい、お先に失礼しますね」と
キッパリと言い放ち帰り支度を始めた。
「もしかして…そんな彼氏と待ち合わせとか?」
対面彼女が皮肉っぽく言う。
「そんなって…どんなですか?」
そのやり取りに男性陣からも笑いがこぼれ、対面彼女の顔が赤くなった。
赤いコートを羽織り
「すいません お先に失礼します」と
一礼して部屋を出た。
「はいはいお疲れ様ですぅ~」
「ごめんなさいねぇ最後まで空気が読めなくて」
「悪い…オレもお先にだ」とオレも立ち上がる。
「ええっ~マジですかぁ」
「おい、それはないよ…これからだろ」
ツレも対面彼女もオレを引き留めようとした。
でも、今、彼女を引き留めないと後悔すると直感したから…。
店を出て彼女を探した。ほどなく赤いコートを見つけ、追いつき「ねえ」と肩を叩いた。
「ビックリした~、どうしたんですか?」
「帰るの?」
「はい」
「本当に帰るの?」
「本当に帰りますよ」と
笑った。
「だって…」
「なんかあるの?」
「質問が多いですね」
「あ、あぁ悪い」
「ふたご座流星群が見たいんです」
「ふたご座…流星群?」
「はい!」
「今夜、明け方までが極大…ピークなんです」
「運良く、明日は休日なんで気がすむまで星をみようかと」
「ピーク…そんなにすごいの?」
「条件がそろえばビュンビュンですよ」
「ビュンビュン…」おもわず笑った。
「空は人間の思い通りにはなりません。気温や雲や風や…だから運が良ければビュンビュンなんです」と彼女の表情もやわらかい。
「ポットに温かい飲み物と…お気に入りの音楽と…暖かく着こんで…灯りを消して窓を開けて…」
「準備万端なんだね」
「はい、何気に楽しいんです」
「駅まで送るよ」
「あっ…もう近いですし大丈夫ですよ」
「店出ちゃったし、流星群も気になるし…オレも駅使うしね」
「そうですか… ありがとうございます」
並んであるくと、改めて彼女が小柄なことに驚いた。
「オレも見てみようかな…流星群」
「ビュンビュンだったら願い事も言えそうだし」
「感動して願い事も忘れちゃいますよ」
「そんな!?」
「そんな!ですよ」
「そっか、そこまで言われると、見なきゃだな」
「寝ちゃいません?お酒入ってるし」
「だよな…あるな、それ」
「起こしてくれる?」
「え!?」
彼女が初めてオレの顔を見上げた。さっきより茶目っ気のある表情で
「どうやって起こせばいいんですか?」と
応えたから、
「LINEする?」と提案した。
「LINEですか?」
「そうLINEです」
「そっか…LINEかあ…」
「LINEだね」
不毛なやり取りに2人で笑った。
「どうしようかなって迷ってます」
「嫌なら断っていいんだよ」
「…部屋の灯り消したら5回コールします」
「え?」
「5回コールして出なかったら…」
「どうする?」
「…データ消去しますからね」と
笑ってくれた。
「OK ありがとう」
彼女の言葉にホッとした。
「オレ…あっちの改札だから…気をつけて!」と
彼女を見送った。
彼女は改札を通って振り向いた。
オレは胸の前で小さく手を振った。
彼女も…真似るように小さく手を振った。
一礼ではなく、手を振ってくれたのが嬉しかった。
オレは動けず、背中が見えなくなるまでそこに立っていた。
帰宅して、とりあえず温かい飲み物を用意した。
音楽も選んだ。
ダウンも壁にかけた。
後は…寝落ちしてもコールに気づくようにスマホの音量をあげておくか…。
明け方まで星を見る…小さなことかもしれないけど、楽しめてる自分がいる。こんな気分は久しぶりだ。
異業種交流会という合コンの数合わせ同士だったけど、ワンランクアップした関係が築けたら…。
流星群に祈ってみるか。
そして
ちゃんと流星群の感想を伝えたい。
異業種交流会のふたご座流星群 一閃 @tdngai1
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