おーるぼんの怖くない話 廃病院の足音

おーるぼん

廃病院の足音

これは七、八年程前のお話です。


現在では東京在住の私ですが、当時は故郷であるN県にて生活していました。


ですが、残念ながら近所には娯楽施設など無く。

暇を持て余した私は、一人の友人と共にI市にあるという、心霊スポットのとある廃病院へと行く事にしたのです。


私の運転で、その廃病院には二時間程で到着しました。


結構な距離を移動したのには違いありませんが、僕の家からだと何もかもが遠いのでこれくらいは誤差の範疇です、疲労は全くありませんでした。


真夜中という事もあって、付近には人気が全くありませんでしたので、私達二人は廃病院のすぐ脇に車を停め、懐中電灯を持ちその中へと向かいます。


ちなみに言っておくと、その時点では何も違和感等は無く、むしろどちらかと言えば心霊スポット好きな私は、『ザ・廃墟』のようなその廃病院への突撃にワクワクしていたくらいです。


(もう一つちなみに言っておくと、友人も私と大体同じような心境だったと思います。彼も心霊スポットによく行くタイプの人間でしたので)


その廃病院は破壊されたのか、それとも取り外されたのか、それは分かりませんが正面の扉が無かったので簡単に入る事が出来ました。


そうして、私達はまず一階を探索しました。


一階は当然と言えばそうですがロビーでして、患者達がそこで診察を待っていたのであろう様子が脳裏にありありと……あまり、浮かびませんでした。


何せそこは荒れ果てていて、落書きや破壊された物品ばかりだったのですから。恐らく、他者もここに入ったからなのでしょうね。


とにかく、私達は先駆者達の痕跡に辟易しながらも、何とか探索を続けていました。


(これもまた私達に共通する感情なのですが、私と友人はそのような行いがあまり好きでは無かったのです。


雰囲気が壊れるのもそうですし、特に落書きなぞは今の今までセンスの良いようなものなど一度たりとも見た事がありませんでしたから。


ただし、まずそもそもとして廃墟に入り込むというのがいけない行為だとは私達自身最もよく自覚しております……)


そんな時でした。


不意に、目の前にあった防火扉のすぐ奥から「こつり」と、リノリウムの床をブーツで叩くような物音がしたのです。


と言うか、それは間違いなく何者かの足音でした。

私は小児喘息を患っていたため幼い頃はよく病院に通っていましたので、その音を聞き違えるはずがありません。


それを聞いた瞬間、私は弾かれるように外へと駆け出しました。


友人にもそれは聞こえていたらしく、私の目の前には同じく走り出した彼の背が見えます。


そうして走り出した私達ですが。

実を言うと、背後からは何の追っ手も無い事には既に気が付いていました。


しかし一度覚えた恐怖心に駆り立てられ。そうせずにはいられなかったのです。




その後、何の問題も無く私達は廃病院から抜け出すと、すぐさま車に乗り込み、灯りを、もっと言えば近くにあるコンビニを目指して車を走らせました。


また、その際は終始無言でしたが。

無事、コンビニの駐車場へと車を停めると徐々に気持ちが落ち着いてきたためか、そこで漸く先程の一件について話し合いました。


その議題は『先程は怖かった』などの感想や『どちらがより怯えていたか』のような茶化し合いではなく。


『結局、あれは何だったのか』というものです。


話し合う中で、私達は三つの仮説を立てました。


一つは『私達よりも先に廃病院へと侵入していた者。つまり同好の士』です。


そのような人がふざけて、後から来た私達を驚かそうと潜伏していた……という可能性を考慮してですね。


二つ目は『路上生活者』です。


そう言った方々は廃墟にて生活している事もあるそうで、それで心霊スポットだとは知らずに、または知っていたとしても仕方なくか、そこにいたのかもしれませんから。


三つ目は『警備員』です。


ただ、これだけは友人が立てた仮説ですのでその真意は分かりませんが、恐らくは『何かしらの要請を受けた警備員の方が丁度あの場所に……』などとでも考えたのでしょう。


ちなみに『幽霊』という案も一応は出たのですが……まずそもそもとして、そんなものを仮説に組み込んでは説明が全く付かないような話しか出来なくなってしまうので除外しました。


とは言え、正直な所私はあれが『幽霊』だと思っています。今でも考えは変わりません。


ですが当然ながら、それ自体確信を持てるような存在ではなく。何より友人がすっかり怯えてしまったのか、三つ目の案が正解だとばかり壊れた機械のように繰り返していましたので、私達はひとまずあれを警備員だと結論付けました。


そうして、先程の話はこれ以上あまりしない方が良いと思った私は雑談へと話題を変え、友人を乗せて帰路に就いたのです。




これでこのお話しは以上となります。

その後特に『あの後霊障が……』などという話はありません。


つまりオチがないのです。それは申し訳ないとは感じておりますが、どうかご了承下さい。


ただし、先程も言いましたがあれが幽霊だと言う、私の考えは今でもそのままです。


だって……考えてもみて下さい。


それがもし、同好の士だったのだとしたら。


周囲に何も無い廃病院にはどうやって辿り着いたのでしょうか?車は何処に置いて来たのでしょうか?私は自分の物以外の車を、あの時一切として確認していません。


路上生活者なのなら、何故わざわざ防火扉の裏などで立ち尽くしていたのでしょうか?そんな場所で暮らしている程の度胸がある方ならば、患者用のベッドに寝転がってでもいた方が快適だとは思いませんか?


そして最後に、もし警備員なのだとして。


何を、どう警備していたのでしょうか?観光地でも何でも無いその場所で?確かに私達のような者の侵入はあるかもしれませんが、それは警察の役目ではないのでしょうか?


と、言いますか。まずそもそもとしてそれが警察だろうが警備員だろうが、疑問は尽きない事には変わりがありません……


先にも言いましたが車は?防火扉の裏などで待機していた理由は?直接声を掛ければ良いのでは?むしろ警察ならばすぐさま追いかけて来るのでは?


……まあ、このくらいにしておきますが。


とにかく、このような理由で私はまだ納得していません。出来ないのです。

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