政略婚の向こう側
あずきかん
第1話 片目の王子、十歳の花嫁に宛てた手紙から始まる政略婚
アルフレード=グリモワール、十二歳。
机に額を押しつけて、手紙の文面とにらめっこしていた。
これ一通が、自分の人生を大きく変えてしまうなんて――まだ、夢にも思っていなかった。
相手は、十歳の未来の妻。
「俺が片目が見えないこと知って結婚しようと思ってるのかな?」
俺は爛れて化け物のような目を見て落ち込んだ。
この時代、剣を掲げて先陣を切る騎士こそが「男らしい」とされる。
片目は、戦の場では致命的な不利だ。
そんな奴が国を率いるなんて……聞いたこともない。
(それなのに、一国のしかも一人娘の姫と結婚なんて)
それに俺は、武将というより貴族特有のサラサラの金髪、女性のように整った顔立ち。
食事も抜かされることが多く、十二歳にしては痩せぎすだ。
「正直、強さで認められるのが正義なのに強そうじゃないんだよな」
ため息を一つついた。
理想の息子じゃなかったせいで、母の折檻も日常茶飯事。
ならば、せめて相手にがっかりされる前に先に知ってもらった方がいいと思った。
⸻
はじめまして。
このたびご縁をいただいた、アルフレードと申します。
本当はもっと立派なことを書きたいのですが、うまく言葉が出てきません。
堅苦しくならず、読んでいただければ幸いです。
普段は学びや訓練に励んでいます。
剣を握るのは好きですが、まだ十二歳です。大人と戦えば、あっという間に転ばされてしまいます。
それでも「片目なのに、よく動ける」と褒めてもらえることがあります……が、本気で褒めてくれているのか、気を遣ってくれているのかは、正直よく分かりません。
片目のこと、もしかしたらもうご存じかもしれません。
もし初めて知って驚かせてしまったなら、ごめんなさい。
隠しても仕方がないので、正直にお伝えしました。
きっとあなたは、突然決まった縁談に戸惑っているでしょう。
本当に嫌なら、遠慮せず親同士が決めた結婚を断って構いません。
でも、もし少しでも「知りたい」と思ってくださるなら――
僕も、あなたのことを知りたいです。
好きな花や本、甘いもののこと……小さなことでも、教えてもらえたら嬉しいです。
いつかお会いできる日を、楽しみにしています。
アルフレード
⸻
しかし、やっぱり目のことは知らせてなかったのだ。
この正直な手紙は婚姻相手の家を激怒させた。
「片目が見えないのを隠していたとは……使えない駒を押し付けられた!」
だが時は既に遅く。
アルフレード――本来なら大国グリモワールの嫡男――は、結婚には違いないが、嫁をもらうのではなく、十二歳にして北の小国、オリヴィアン国へ婿入りする運命を受け入れざるを得なくなるのだった
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