第29話 祐vs麗花 2
「ありがとう望江。少しだけだが、分かった気がしたよ」
そう言うと望江は少しだけ笑った。少しでも何かに気づいた事がとても喜ばしかった。
「なら、さっさと戦うんだ! 麗花さんに勝ってもいいさ! 麗花さんが少しでも何か気づいてくれるなら、あたしの命くらい」
「命を無駄にするなよ。特に今は」
「あぁ!お前を信じるぞ!」
「任せなって」
望江を落ち着かせ、次に教頭へと告げる。
「教頭も変に意地を張るなよ。冷や汗出過ぎだぜ」
「こ、これは歳のせいだ!!焦っている訳ではないわ!」
「それならいいけど。とにかく二人とも落ち着いてくれよ。俺を信じろ!」
二人へと背を向けたその姿はとてもカッコよく見えた。頼り甲斐のある姉貴分のようにも見えた。
ゆっくりと近づながら真剣な表情になり、髪を振り払って戦う構えを取る。
麗花もニヤリと笑いながら、拳を構えた。
「そうだ、その顔だ。戦う為に生まれてきた野獣のような顔そのものだ! 来い!」
「喧嘩目的で拳を上げるんじゃねぇ。お前を正すためにこの拳を振るう!」
「そんな世迷言を!」
真っ先に動き出したのは麗花だった。勢いづけてまっすぐと拳を突くが、祐は身体を伏せて、攻撃を避けた。
更に素早く麗花の足を払った。麗花は体勢を崩して顔から地面に倒れそうになるが、手のひらを地面に付けて、華麗に受け身を取って地面に着地した。
「へっ、凄えな。だが──」
次に祐が近づき攻撃を仕掛けた。
拳を少し後ろに下げて勢いよく拳を放つ。
麗花は攻撃を腕で受け止めて、右足を蹴り上げて反撃を繰り出した。
さらにその攻撃を祐が腕で防御し、更に反撃を繰り出し、二人の一進一退の攻防が繰り広げられた。
お互いに攻撃を加えられる度に、激しい痛みと痺れが襲いかかってくる。
だがお互いにその痛みを諸共せずに攻撃を仕掛けている。
「凄い……これが祐の本気の戦いなのか」
望江も教頭はこの戦いに唖然としていた。
自分が戦った時は、全然相手にされなかったが、本気で戦ったらこんなにも強いのかと驚愕していた。
二人は拳を交えた後、足を上げて交差するように足をぶつけ合った。
お互いに一歩も引く様子を見せずに足と足の鍔迫り合いが起きた。鍔迫り合いに終わりが来る事はなく、お互いに足を弾いて一旦後退してにらみ合った。そして再び祐は髪を後ろに振り払った。祐と麗花は汗もかかず、息を切らす様子も見せずに笑っていた。
祐はうでを鳴らしながら言い放った。
「麗花だっけ? あんた強いじゃないか。お互いにウォーミングアップはここまでだな」
「そうだな、ここからが本番だ」
ウォーミングアップ。
つまりお互いにまだ本気を出してはおらず、軽く手加減をしながら戦っていた。
望江はそんな二人の戦いについていけなかった。
「祐も麗花さんも本気じゃなかったのか。なら、ここからはどんな戦いが繰り広げられると言うのだ……」
望江の威圧的な顔に少しばかり凹んでしまった。麗花は尻ポケットに手を突っ込み、とある物を取り出した。
「うちの戦い方を見せてやる」
「望江と同じ蝶峰鞭って奴かい」
「あぁ、あれを教えたのは私だからな。奴のとは桁が違うよ」
その物とは望江と同じ鞭だった。
動物を調教するように地面に何回も叩き、具合を確認していた。
一度祐の足元に向かって鞭を叩いた。そのスピードは望江とは桁違いの速度で、まだ捉えるのがやっとであった。
激しい音の後に地面がゴリッ!と何か割れるような音が聞こえた。
「おいおい、こりゃあヤベェぞ」
地面を見ると足元のコンクリートが抉られており、その威力の高さに驚きを隠さなかった。
「今度は当てる!」
再び鞭を振い、祐の顔へと攻撃を仕掛けた。
鞭の先端が眼前に届く時、一瞬だけ消えたようにも見えるほどに早かった。身体を動かして避けれる訳がない。
顔だけを傾けて、ギリギリでかわす事に成功した。だが、右の頬に薄い赤い線が浮き出て、少量の血が流れた。
手で捕えるのは不可能であり、鞭をギリギリ避けるのが精一杯であった。
「な、何て速度だ……」
「今度はどうだ!」
再び攻撃を加えて、鞭は腕に巻かれた。
そして尻ポケットから更に鞭を取り出して、もう片方の腕に鞭を巻いた。
その状態でゆっくりと祐を自分の元へと運ぼうとする。
「へっ、これでお前の両手は塞がったぜ」
「ちっ、想像以上だ……だが!」
祐は右腕に巻かれている鞭を噛み始めて、無理やり食い千切って、ニヤリと笑いながら千切った鞭を吐いた。
「こんな子供騙しな武器で俺は倒せないぜ」
「ほぉ、ならお前はこの子供騙しに倒される!」
麗花は噛みちぎられた鞭を祐の腕から解き、もう片方の鞭を地面叩きながら一気に迫った。
祐の足の方向に鞭を叩きつけた。
祐はその攻撃を避けて、ジャンプした。
麗花はそれを予測して追うようにジャンプして、飛び蹴りを繰り広げた。
「んなもん──」
避けれる攻撃だった。だが髪が目にかかり、視界が遮られた。
「か、髪が!」
その隙が攻撃をかわすタイミングを失い、攻撃はもろに直撃した。
攻撃は祐の腹にねじり込まれて、大ダメージを与えて倒れた。
麗花は上手く一回転して地面に着地した。腹を抱えて苦しんでいる祐を追撃、鞭を今度は足に巻いた。
そして持ち手を両手で持ち、一呼吸をして力強く、思いっきり祐の体ごと鞭を持ち上げた。
ふんわりと身体が宙に浮き、二メートル近く空に舞った。
「うわぁぁぁ!! な、何だ!?」
「オラぁぁぁ!!」
そのまま腕を振り下ろして、勢いよく地面に叩きつけられた。
砂煙が舞い、その付近一帯の地面にヒビが入り、床が崩れ去った。望江は祐に大声で叫んだ。
「大丈夫か!? 祐!」
崩れ去った地面の下を覗き込んだ。下の階は荒れ果てた教室で祐は山のように積み重なった机の下敷きになっていた。その中で祐は何かを考えていた。
「痛ててて……なんか調子でねぇな」
何か先ほどから調子に乗らない祐。
そこに麗花が教室の中にジャンプして降りてきた。
「……そうだ! あれが無かったんだ! リボンだ、廉姉から貰ったリボンが!」
先ほどから気になっていた事、それは廉からプレゼントで貰ったリボンだった。
目にさっきから髪がかかって戦いの邪魔になっていた。
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