第3話 尊い犠牲

 服を脱ぎ、全裸になった俺達。此処が人のこない校舎裏でよかったよ・・・。


「それじゃ頼むアーサー。準備はいいなジョナデッッッッッッッ!!!サン」


「はいよ、いくぜ2人とも猫化光せ・・・デッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!ん!!!!!」


――――――こうして俺とモーリスはねこになった。にゃあ。


 俺はキジトラ柄の猫、モーリスは黒猫になっていた。まぁなんでもいいけど。


「うにゃうにゃうにゃお(キュラドは富裕層向けの宿舎を貸し切っているからそこに行ってみよう)」


「んなぁぁぁぁぁぁぁお(わかった。しかしねこになってもデカいなジョナサン)」


「にゃうにゃうにゃうにゃ(アホな事言ってないでいくぞ)」


 こうして俺達はしっぽをピンとたてながら2頭並んで宿舎へと向かって歩いて行く。


「やだ、ねこちゃんが並んで歩いてる!かわいー!」


「首輪してないけどどこの子だろう?毛並みもきれいだしかわいいなぁ、連れ帰ってうちの子にしたいな~」


 道中、俺達の行進に気づいた学園の生徒達が様々に声をかけてくるので捕まらないように注意しながら宿舎へと辿り着く。


「にゃうにゃん(ついたぞ。気を引き締めろ)」


 俺とモーリスは猫の姿ならではの小ささと敏捷さで、屋根裏に続く窓がすこしあいていたのをみつけて内部に侵入する。人の気配はしないけれど、中はじっとりと湿度が高い。


 屋根裏から2階へ、さらに一階へと降りていく。じっとりして薄暗い宿舎を歩いていくと、薄暗いホールから男女の声がした。あれ、人の気配はしなかったんだけどな?


「フフフ、計画は順調なようだね」


 そういってワインの入ったグラスを手にしながら上機嫌に笑うのはキュラドだった。線の細い美男子で、こうしていると学園の女子達が黄色い悲鳴を上げているのもわかる。美男子は滅びればいいのにね。


「ええ、ルーシーとミーナを引きはがすことが出来ました。あとはこのままルーシーを孤立させればよいのですよね」


「簡単ッ!簡単ッ!!」


「楽しみですわね、キュラド様!」


 キュラドに相槌を打っているのは、ルーシーと共にミーナを糾弾したという下級生たちか。あの下級生たちとキュラドは繋がっていた・・・いや、キュラドに先んじて学園に編入していたあの下級生たちは態度からキュラドの配下にみえる。


「あぁ、楽しみだ。あのミーナとかいうちんちくりんで貧相なゴミ女はこの私に利用されたことを光栄に思って退学になればよい。そうして独りぼっちになった傷心のルーシーの心に入り込み、じっくりといただいてやる、今から愉しみだ。あの美女のその血を啜る時が今から待ち遠しい・・・!」


 瞬間、美男子の顔が乱杭歯を生やしたおぞましい怪物のモノに変化する。

 モーリスがすかさず魔法で記録をするが、その瞬間にキュラドが怪物の顔から人の顔に戻ってこちらを見た。


「誰だッ?!?!」


 キュラドの声に遅れて少女たちも此方を見る。


「んなぁお」


「にゃーん」


「・・・なんだ、猫か。人間なら館を徘徊する死霊が見つけ次第殺すし人が入り込めるはずないか。

 そんな事よりお前達、今日はたっぷり可愛がってやるぞ」


「「「キャーッ♪流石“伯爵”さま~♪」」」


 可愛らしい少女たちに抱きつかれながら寝室へと消えていくキュラド。なんだよ死霊って怖いな、猫で良かった。あいつが人間ではないのは分かったし、急ぎ此処を脱出しよう。


「にゃうーん(急げ、こっちだ!)」


えっほ、えっほ、急いで此処から逃げ出さなきゃ!


 モーリスに先導され、潜入した道を引き返して校庭をかけぬけているところで、魔法が解ける変な感覚が身体を襲ってきた。しまった、時間がかかりすぎたんだ!!ヤバいと思ったが間に合わず、次の瞬間には俺達は全裸の人の姿に戻ってしまった。


「キャアアアアアアアアアッ!!全裸の変態よデッッッッッ!!!!!!!」


 近くにいた女子が全裸の俺達に気づいて悲鳴を上げ、それにつられて周囲の生徒達皆が俺達の方を見ている。ヤバい。色々な意味でヤバい!!!!!!!!

 しまった、物陰に逃げればよかったけれど焦ってモーリスについてくついてくして人目のあるところを走ってしまった!!


「――――まずい、このままじゃ全裸の不審者だと思われるぞモ-リス!」


「焦って人目のあるところに出てしまった俺の不覚・・・こうなったら最後の手だ・・・ジョナサアアアアアアアアアアアアアアン!お前が、欲しいぃぃぃぃぃぃぃっ!!」


 そう言って全裸のまま抱きついてくるモーリス。


(お前何やってんのバカなの?!死ぬの!?社会的には今死にかけてるんだけど。)


(このままじゃ2人とも全裸で徘徊している不審者だ!ここは俺に任せろ!!)


 何を任せろっていうんだよ身体をか?!いやだよ!!!


「ずっとお前を見ていたんだッ!!もう辛抱貯まらん、我慢できん!!ハァハァ、咲かせよう、友情を越えた薔薇の華を!!!!!!!!!!!さぁ、一緒に全裸パンツレスリングしよう!!!全てはチャンス、ヨッコラァァァァ!!!!!!」


 そういいながら全裸で絡みついてくるモーリスを全力で引きはがしにかかる。

 お互いの汗で微妙にヌルつく身体が気持ち悪い!そして全裸パンツレスリングとは一体・・・?!?!


「おまっ、人のモノを!う、うああああああああああああああっ!やめろ離せ、俺にはミーナという心に決めた相手がいるんだ!!」


「アキラメロン!私は我慢弱く落ち着きのない男なんだ!」


「たす、助けてっ!誰か助けてーッ!!」」


「抱きしめたいなジョナサン!!この気持ち、まさしく愛だ!!!!!!!!!!!」


「ウ、ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!!」



結局、異変に気付いた周囲の生徒達にモーリスは取り押さえられて、俺も引きはがされた。


 捕まえられてドナドナと連行されて行くモーリスが、一部始終を見ていた生徒に全裸の変態だと後ろ指をさされていたけれど、振り返りながら静かに笑う。


「俺は変態じゃない。たとえ変態だとしても変態という名の戦士だよ」


 それは自分の誇りも尊厳もかなぐり捨てて、惚れた女のため友情の為に自分を犠牲に出来る男、いや漢の爽やかな笑みだったのかもしれない。

 けれど泣きながら膝を抱えて座っている俺と、手枷を着けられて連行されるモーリスの姿を見た人達からはただの変態にしか見えない。・・・悲しいね。


「お前は俺の希望。・・・託したぞ」


 最後にそう言い残してからモーリスは連れられて行ったけれど、俺の足元には透明の板のような物が数枚置かれていた。モーリスが魔法で記録した、さっきの光景が記録されている板だ。・・・ありがとう、モーリス。本当に・・・本当に・・・『ありがとう』・・・。それしか言う言葉がみつからない。


 ――――当然だけどモーリスは捕まえられた後に普通に停学にされた。


 俺の方はモーリスに公衆の面前で全裸に剥かれて絡みつかれた可哀想な男子としてなんか周囲に気を遣われるようになり、学園では『ジョナサンかわいそう』という言葉がトレンドになってしまった。

 クラスの男子達からは、しきりに尻は大丈夫だったか?とか、ぢの時に便利なリング型のクッションをプレゼントされたりとケツの心配をされるし、幼馴染の婚約者が悪役令嬢だった矢先に欲情した親友に襲われる可哀想な男子として俺の顔と名前を知らない生徒はいなくなった。多分今学園で一番有名な男子は俺、ごめん泣いていい???

 

 とはいえ、モーリスのお陰で俺達はキュラドが魔物である証拠を手に入れる事が出来た。


 モーリスは犠牲になったのだ・・・。

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