強気の妹と甘えん坊の妹
ゆきいろ
強気の妹は兄と喧嘩する
ある朝に目が覚めると柔らかい感触がした。
「ん……んん……?」
目を開けて、自分の手が横にいる人物の胸を揉んでいる事に気付く。
「ちょっ……なんで友香がこんな所で寝てるんだ!?」
「もーお兄ちゃん、うるさいな。朝からそんな大きな声出さないでよ」
「いや、一人で寝ていたベッドに、起きて横を見ていきなり妹が一緒に寝ていたら、驚いて大きな声くらいだすだろ」
「ふわぁぁぁ」
妹は俺の話も聞こうとせず大きな欠伸をする。
「あ、友香……!!。またコイツの部屋で寝てたの!?いい加減コイツの部屋で寝るのはやめなさいって言ってるでしょ」
「えー、なんでぇ。お兄ちゃんと一緒に寝るくらいいいじゃん」
「ダメよ。コイツと一緒に寝ていたら、友香にバイ菌が移るわ」
「おい、俺はバイ菌扱いかよ」
「男は皆そうに決まっているでしょ……!!それより早くその穢らわしい物を見せないでちょうだい///」
何故か頬を染めながら指を差され言われてから気付く、俺の息子が朝からテンション最高の朝を迎えていた。
「おぉ……これが例の……ゴクリ」
「見せ物じゃないぞ……!!」
友香が興味津々に俺の息子をマジマジと見つめてくるので近くの毛布で下を隠す。
「ほら、友香。こんな部屋から早く出るわよ」
「あっ、友里わかったからそんな強く引っ張らないでよ。お兄ちゃんまたあとでね〜」
友香は友里に手を強く引っ張られ一緒に部屋を出ていく。
「ご馳走様でした」
「友里、もういいの?朝練あるんだから、もう少し食べていった方がいいんじゃない」
「食べ過ぎもよくないし、コーチからも最近食生活に注意されたばかりだからいい。いってきます」
母さんが心配しているのに友里は朝食を半分以上残して朝練に行ってしまった。
「はぁぁぁ、最近あの子調子悪そうだし。何も言ってくれないから心配だわ」
「友香、野菜もちゃんと食べろ」
「えぇ……野菜なんて食べたくないぃぃ……」
野菜を残そうとしていた友香に注意をする。
「ねぇ、私の話聞いてるの?」
「いやぁ母さんの手料理はいつ食べても美味いよ、毎日感謝してる」
「あんたねぇ……それでも友香と友里のお兄ちゃんなの?」
「……」
母さんから言われた一言で胸が少し痛む。
「ねぇねぇお兄ちゃん、学校まで競争しようよ!!」
「さっき食べたばっかりだしいきなり走るのは体によくないし駄目だ」
通学路を友香と一緒に登校していると、友香は俺の話も聞かずにそのまま走り出そうとするので力づくで止める。
「あれって友香ちゃんだよね、本当可愛いね」
「ねー、声かけたいけど。私達じゃ相手にされないか」
同じ学校の女子生徒が俺達を見ながら呟いて、そのまま歩き出すのを見る。
数年前まで陸上部に所属していて、大会にも何度か出て賞も取る程の実力者だったのだが、飽きたから辞めると言った。だけど体を動かすのは好きみたいで、こうして縛られず自由に走るのが友香は好きなのだろう。
「コラァ、友里。またタイムが数秒遅れてるぞ……!!いつも言ってるだろうが走る時はもっと足を上げて」
「ハァ…ハァ…すみませんコーチ」
陸上部が朝練で使っているグラウンドで汗をかき、息切れを起こしながらコーチに謝る友里がいた。
「……っ!!」
俺と友香の存在に気付いた友里はその場からいなくなるように走り始める。
「うーん、やっぱりあいつが俺なんかに弱音なんか吐くわけないか」
友里は学校や家でもずっと気が強いせいで、弱音をはいた事をほとんど見た事がない。
昔はお兄ちゃんとよく甘えて抱きついてきたのに、今では俺をバイ菌扱いする程嫌われている。
「ねぇお兄ちゃん、ずっと友里の事を見て何考えてるの?」
「あー、あいつも昔は可愛かったのになって。考えてたんだ」
「……?」
友香は俺の言葉に首をかしげる。まぁ友香は友里と違って、昔からずっと変わらず俺に甘えてくるからな。
「なぁ、友香から友里にそんなに気を強くせず過ごした方がいいって言ってくれないか……?」
「んー、私から言うよりもお兄ちゃんから言った方が友里もちゃんと話をきくと思うよ。それじゃお兄ちゃん私友達見つけたから先に行くね」
「あっ……おい、友香……!!あいつが俺の話なんて聞くわけないから頼んだのに」
昼休み、クラスメイト達と学食で会話をしながら食っていたら。友里が一人で座って食べているのを見つける。
「おーう、こんな所でぼっち飯とは気が合うじゃないか」
「……!!なに、学校ではいきなり話しかけてこないでって言ったでしょ……!!」
「そう言うなよ、こんなに席が空いているんだから。今日は俺も他の奴誘ったのに先約があるって断られてな」
友里の強気の言葉に負けず、空いていた隣の席に座る。
「ちょ……隣に座らないでよ」
「いいじゃないか、中学の頃は昼になると友香と三人で一緒に食べてたんだから」
「……っ、また!!」
「ん、おい食べないのか?」
まだ友里の昼ご飯は半分以上残っていて、席から立ち上がり離れようとするので声をかけた。
「お水のおかわりにいくだけ!!」
コップを持って立ち上がり歩いていく友里、離れろと言わないって事はここで食ってもいいのか。
「おかえり」
「……」
友香は俺の言葉なんて聞かず無視をして、食べるのを再開する。
「そういえば朝練結構キツそうだったな」
「……」
「でもあんまり無理はするなよ。お前今でも実力はあるんだから体を酷使しすぎて、怪我なんてしたら父さんと母さんと友香が心配するんだから」
「……」
「それとな、母さんがお前の事を心配して――」
「いい加減にして……!!」
「友里……?」
いきなり声を荒げる友里に驚いてしまう、学食にいて昼を食べていた生徒達も俺と同じように驚いているみたいで俺達に視線が集まってくる。
「そんなに私に気を使う暇があったら、友香の所に行けばいいじゃない」
「いや、俺は気なんて使ってないぞ。ただ母さんが友里の事を心配している話を、それに今は友香の事は関係ないだろ」
「……っ……バカ、バカ、バカ〜」
友里は泣きながら俺に向かって殴りかかってくるが、女の子にそんな力がないことがわかっているので。避けずに友香の怒りを受ける。
「友里、落ち着いたか……?」
「こんなので落ち着くわけない、もう行く……あと強く殴ってごめん」
ひとしきり俺を殴り終えた友里、立ち去る前に謝ってきて、そのまま行ってしまった。
「友里……お兄ちゃん……」
友香は学食で二人に気付かれない距離で一部始終を見ていた。だが二人に声はかけずにただずっと見ているだけだった。
友里が俺に殴りかかってきてか数日経って、あの日から友里とはまともに会話できずにいた。
なんで一緒に家で過ごしているのに数日も会話ができないのか、友里が俺と会ってもすぐに離れていくからだ。しかも帰ってきてからずっと部屋に引きこもっているから、完全に俺と話をする気がない態度をとっていた。
「はぁ、あんたに任せたあたしが馬鹿だったみたいね。とりあえず友里の事はもういいわ、それより友香があんたと遊びたいって聞かないから、お金あげるから今日は友香と一緒に遊んできてちょうだい。あんたが家にいたんじゃ友里と話もできないからね」
「なんだよ、俺は母さんのいう事を聞いただけなのに」
「あははは、お兄ちゃん苦労してるねぇ」
「友香は友里と同じ部屋で寝てるんだし、あいつから何か聞いてないのか……?」
「うーん、何も言ってなかったよ。それよりも、今日は私と一緒に遊ぶんだから、他の女の子の話はなしだよお兄ちゃん」
頬を膨らませて恋人のように腕を組んでくる友香を引っ剥がす。
「もう……何するのお兄ちゃん……!!」
「俺は母さんに言われて友香に付いてきただけだ。それよりも遊ぶって、いったいどこに行くつもりだったんだ?」
「え……あー、服。そろそろ暑くなってくるから服が欲しくなってきて」
「あー確かにもう六月だし、だんだん暑くなってきたな。てか友香って服に興味とかあったんだな」
「お兄ちゃん、女の子は皆服が大好きなんだから。そんな事言っちゃ失礼だよ」
「悪い、悪い。ほら手を組むのは無理だけど、繋ぐくらいならいいぞ」
友香に手を差し出す。
「……本当なんでこんなに優しいのよ」
「友香、何か言ったか……?」
「……!?ううん、お兄ちゃんは本当に優しいね」
友香と手を繋ぐ、女の子の手って本当細いよな〜と思いながら。俺と友香は近くの商業施設までやってきた。
「うわぁぁぁ、すっごい!!。この新作のシューズとっても足にフィットする」
服が欲しいと言っていた友香は、スポーツ用品店に並べられたシューズを見て、目が輝きながら呟く。
「おーい友香、ここはこの前一緒に来ただろ。それにそのシューズはこの前あんまりデザインが好みじゃないって言ってなかったか?」
「え……あ、いや。よくよくみたら好みのデザインだな〜って、それにこんなに軽くてフィットするし、走るのも楽になるかなと思っちゃった」
「なんだそれ、この前と言っていることと、全然違うじゃないか」
友香の言葉に思わず笑みがこぼれた。
「お買い上げありがとうござました」
「あのお兄ちゃん、本当によかったの……?あれ、お母さんからもらったお金じゃなくて、お兄ちゃんのお金だったんじゃ……」
「気にするな、この前友香と友里の誕生日に誕生日プレゼント渡すの忘れてたからな。そのシューズは俺から友香の誕生日プレゼントだ」
スポーツ用品店で友香が気に入ったシューズを買ってやった。出費としては凄く痛かったが友香の嬉しそうに笑う姿をみたら悪くないと思ってしまった。
「ぁ、ありがとうお兄ちゃん///」
気を取り直して目的だった服を見に、アパレル店が並ぶエリアにやってきたのだが。
「もうお兄ちゃん休み過ぎだよ……!!」
「おいおい、一時間も店に入らず。ウィンドウを眺めるだけで何店舗も歩かされたんだ、少しくらい休ませてくれ」
アパレル店が並ぶエリアなだけあって、ほとんどが服やアクセサリー、バッグや小物を置いている店が多い。だけど友香は店に一歩も入ろうとせず、店の前のガラスのショーケースに並べられているマネキンの服などを見て、次の店舗に行き、同じ事を何度も繰り返していつの間にか店を回っているだけで一時間が経っていた。
「だから私は昔からお兄ちゃんは体力をつけた方がいいって何度も――は……!!なんでもない」
「……?なぁ友香、今日少しおかしくないか?」
「な、私のどこがおかしいって言うの……!?」
「……そうか、髪だ!!」
「……は?髪……?」
「そうだよ。友香、お前いつもポニーテールなのに今日はストレートだろ。だからか、なんかずっと引っかかってたんだよな」
「こ、この……んん」
「どうかしたか?」
「ううん、そうなんだ。今日はポニーテールじゃなくて、ストレートにしようかなと思って、お兄ちゃんよく気付いたね……!!」
「そうだろ、俺は友香の事をよく理解しているからな」
「うん、さすがお兄ちゃん。だから、もう少し私に付き合ってね」
「え、付き合うって……?」
「もう休めたよね、これから何店舗か回って気になったお店の服を試着していくから。私の事を理解してくれてるお兄ちゃんなら、付き合ってくれるよね」
友香はくったくのない笑顔を浮かべているが、俺は恐怖して動けずにいた。
「お買い上げありがとうござました〜」
あれから何時間経ったのだろうか、試着をしてはすぐにお店を変えての繰り返し。結局友香は一番初めに入ったお店で気になった服を買ったようだ。
「お待たせお兄ちゃん」
お店の前のソファで休んでいたら、服を買って友香が戻ってくる。
「よし、それじゃ行くか」
「行くってどこに……?」
「そんなの決まってるだろ、お昼食べにだよ。まぁ昼は何時間も前に過ぎてるから、もう夕飯になるのか」
「あっ……ごめんなさい、私が何時間も」
「気にするなよ、それより友香は何か食べたいのあるか。せっかくだし友香の食べたいの食べに行こうぜ」
「えっと、それじゃあ」
「なぁ友香、本当にここでよかったのか?」
商業施設の外に出て近くにあった駄菓子屋でアイスを買って、近くのベンチに座り友香と一緒に食べる。
「うん、私にとって大事だったから」
俺はそろそろ聞こうか迷っていた、だが本当に聞いてもいいのか迷っている俺もいる。
「お兄ちゃん、本当は気付いているんでしょ。私が友香じゃなくて、友里だってこと」
「あぁ……まぁな」
「いったい、いつから気付いてたの……?」
「出かける前、友香はスニーカーしか履かないのに今日はブーツを履いていた。しかもそのブーツ、一昨年の誕生日に俺が友里にプレゼントしたやつだろ」
「本当よく覚えてるな。それに最初から私が友香じゃないことに気付いていて、私に付き合ってくれたんだ」
「なんで、友香と入れ替わりなんて。まどろっこしい事をしたんだ友里?」
「友香から提案してきたの、お兄ちゃんと仲直りするいい方法があるって。最初は乗り気じゃなかったけど、友香が本気で私とお兄ちゃんに仲直りしてほしそうだったから、付き合ってあげる事にしたの。お母さんとお父さんは騙せたのに、お兄ちゃんは騙されなかったみたいだけどね」
「何年お前らと一緒にいると思っているんだ。友香と友里の事くらい見分けられて当然だろ」
「お兄ちゃん……」
「友里、お前はなんでも一人で抱え込むな。もし何かあったら俺に相談しろ」
「ありがとう、それとこの前はごめんなさい。私、ただお兄ちゃんには心配かけたくないと思って。昔みたいに子供じゃないから甘えるのも恥ずかしくなって、それで最近は誰に対しても強気になって」
泣きながら伝えてくる友里、俺は友里に駆け寄って抱きしめながら友里の頭を優しく撫でてやる。
「わかってるよ、友里が少し不器用なことくらい」
「むぅぅぅ、ずるい」
「友香!?なんでここに」
一部始終を木陰に隠れて見ていた友香が突然声を上げて現れた。俺は驚かなかったが友里は凄く驚いた声を上げた。
「私はお兄ちゃんに誕生日プレゼントなんてもらってないのに、友里はプレゼントどころか抱きしめながらなでなでしてもらうなんて。凄くずるい」
「これはちが――」
結局友香が突然現れたことによって、友里の顔は真っ赤になるくらい染まって、恥ずかしくなったのか俺の頭を撫でる俺の腕を握り、走り出した。
「ちょ……友里。腕が千切れるから、そんなに強く引っ張らないでくれ……!!」
街に夕陽が昇り始め、友里に腕を引っ張られながら、友香が追いかけて俺達三人は家に帰るのだった。
最後までお読みくださりありがとうございます。昔は甘えん坊だったけど今は強気になってしまった妹と昔から変わらず甘えん坊の妹。もし続きが読みたいと思っていただけたら嬉しいです!!
強気の妹と甘えん坊の妹 ゆきいろ @nineyuki
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