第14話:恋堕の天使は……


「スマホ見せろ」


「えー。乙女のプライバシーは常に特秘事項ですよー?」


「見せなかったら俺はアキラと恋仲になる」


「むー。酷い先輩ですね。私はこんなに先輩を思っているのに」


 想っている、じゃなくて、思っている。叙述トリックだ。


「ス・マ・ホ・を・見・せ・ろ」


「せめて何するか聞いていいですか?」


「さっきの脳破壊されて逃げ出した男子との会話履歴を見る」


「面白いものじゃないですよ?」


「せめて責任の所在くらい把握したい」


「まぁいいですけど」


 そうしてスマホ渡してくる須藤氏。まだアカウントは消していなかったのか。履歴はあっさり見れた。


『先輩。月影の女神と付き合いだしたんですね。複雑です……』


『あーあ。常闇先輩に先を越されたなー』


『先輩の彼女がいなければ私がワンチャン』


『意外と常闇先輩ってソクバッキーですよ?』


『もしも、もしも私が……ううん、これってズルいですよね(汗)』


 などなど。思ったより反吐が出るコメントがさっきの男子のアカウントへ向かって吐き出されていた。コレを見て恋堕の天使が自分に惚れていると錯覚しない男子はいないだろう。そもそもここまで思わせぶりなコメントをしていて、相手から責められないと思っているコイツの脳内を見てみたい。いや、理解しているから俺を護衛に選んだのか。


「…………」


 屋上でのこと。俺が須藤氏のスマホを見て、ジト目を向けていると、冷や汗を流しながら須藤氏は弁明する。


「ちょっといいかなーとか思ったんですけど。案外そうでもなかったっていうか」


「ここまであからさまに相手を誘ってフるとか鬼畜の所行だぞ」


「そこは勘違いしたあの男子が悪くないですか?」


「今のところ、お前を擁護する言葉が出てこんのだが」


 もちろんその背景にあるものを俺は知っているのだが。


「でも先輩にはいいなって思ってますから。これは本当ですよ?」


 もちろん虚偽と言うか。正確には叙述トリックなのだが。


「じゃ俺が好きだって言えば付き合うか?」


「ちょっと考えさせてもらっていいですかー?」


「ああ、いくらでも待つよ。どうせフォローもあるしな」


 俺がそう言うと、まるで下水処理場でも見るような目を須藤氏は俺に向けた。俺がその目を勘違いするはずも無く。


「じゃあ、先輩、今日もデートしましょうね」


「アキラも一緒でいいか?」


「えー。私的にはー。二人きりがいいんですけどー」


「そうするとアキラが不機嫌になるんだよ」


「ひどーい。先輩は私より常闇先輩の機嫌が大事なんですかー?」


「まったくもってその通り」


 で、俺があっさり言うと、俺にたいして憎しみの感情を表わす須藤氏。だがそれも一瞬。


「でーもー。私はパイセンと二人がいいなー、みたいな?」


 俺がちょっと気になっている女子生徒の振りをして、俺にコナをかけてくる。


「パイセンを私と二人きりって嬉しいですよね?」


「別に」


「恋堕の天使ですよー? 光栄ですよねー?」


「別に」


「ノリ悪いですよー。パイセン、月影の女神に本気だったり?」


「いや、そもそもアイツは何とも思ってない」


「好きの反対の無関心って奴ですか?」


「好きの反対は嫌いだよ。プラスの反対はマイナスだろ。ゼロじゃない」


「二進数でも同じこと言えますかー?」


「無論」


 二進数にもマイナスはある。


「じゃあ二人きりでデートするってことで。約束ですよ? パ・イ・セ・ン」


「アキラに何と申したものか」


 入部試験の小説は順調なので、一日くらいのデートは問題ないのだが。そもそも俺って学内で月影の女神と恋堕の天使を同時に相手取ってる鬼畜なんだよな。転校生という立場でなんでこんなことになった。


「じゃ、昇降口で待ってますんで。遅れた秒数かける一円奢ってもらいますからね?」


 五分遅れたら三百円か。妥当なところだな。


「ダメ」


 で、教室に戻って授業を受けて、教室で帰り支度をすると、当然同じ階の特進クラスからアキラが現れて。俺の隣でケラケラ笑っている砂漠谷エリは今日は燕尾服を着ていた。


「須藤さんとのデートなんて認められません」


「お前の承諾は聞いてないんだよなー」


「デートなら私がしてあげます。それでいいでしょう?」


「今日は須藤さんとだ」


「こうなったら殺すしか……」


 恐ろしいことを言うな。


「今度デートしてやるから」


「それで説得できると思われているのが不本意なんですけど」


「じゃあ、却下だな」


「それは嫌です」


 どっちだよ。そんなわけであーだこーだ議論して、俺は須藤氏とのデートを納得してもらった。あくまでアキラに限って言えば。そして俺は砂漠谷エリと腕組みしてラブラブの状態で須藤氏と合流する。


「デート日和ですね。パイセン」


「本当にするのか?」


「ラーメン屋とか行きません? 豚骨デート」


「俺はいいが。須藤さんはそれでいいのか?」


「豚骨好きですよ?」


「エリは?」


「大好きだよ。ボク的には結構あり」


 じゃあそうするか。


「あのー。パイセン」


 で、俺の隣に並んでいる須藤氏が言う。


「なんか今のパイセン見ているとイライラするんですけど……なんでですかね?」


 無意識の内に無視しているエリのせいだな。エリの黒子迷彩は透明になっているわけじゃ無く意識的に認識しても認知できないだけだ。つまり俺とエリがラブラブしているのを意識の底の底では感知していないわけではないのだ。


「じゃあ豚骨ラーメンを食べに行きましょう」


「だなー」


「ボクも楽しみ」


 実際に白い髪に赤い瞳のアルビノ美少女エリは、恋堕の天使より可愛いんだよなぁ。胸も大きいし。俺の腕に押し付けられているおっぱいの感触が素敵。須藤氏もロリ巨乳だが、そもそもコイツは俺を憎んでいるし。


「ところで、なんでこんなにモヤモヤするんだろう。不思議だなー」


 まぁ実際にエリとイチャラブしていればデート相手としては不満だろう。表層意識でソレを認知できないので、エリとのイチャラブを根本的な意味で須藤氏が認識することはできないのだが。


「ちなみに麺の硬さの好みは?」


「もちろん。その店のベストだ」


 たまに思う。ラーメン屋で「麺の硬さは?」って聞かれたら「ベストで」が正解じゃね?

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