百合の独占欲
凪
第1話:出会いと予感
春の陽光が教室の窓から差し込み、桜の花びらが舞い散る中、私、佐藤あかりはいつものように席に座っていた。高校2年生の春。クラス替えで新しい顔ぶれが増えたけど、私の隣の席は空いたまま。朝のホームルームが始まる直前、ドアが開いて一人の女の子が入ってきた。
「遅れてすみません! 転校生の白石ゆかりです。よろしくお願いします!」
明るい声が教室に響く。黒髪のロングヘアをポニーテールにまとめ、制服のスカートが少し短めで、笑顔がまぶしい。先生が「じゃあ、空いてる席にどうぞ」と指差したのは、私の隣。ゆかりは軽やかに歩いてきて、隣に座った。
「こんにちは! あかりちゃん、だよね? 席順表見て覚えちゃった。よろしくね!」
いきなり名前を呼ばれてびっくりしたけど、彼女の笑顔に引き込まれる。ゆかりはすぐに周りの子たちとも話し始めた。休み時間になると、男子たちがわらわら集まってきて、転校生の話題で盛り上がる。
「ゆかりちゃん、前の学校どこだったの?」「趣味は何?」「彼氏いるの?」
質問攻め。ゆかりは笑いながら答えていくけど、私はなんとなくモヤモヤした。なんでそんなにみんな寄ってくるの? 私だって隣の席なのに、話しかけられるの遅いじゃん。
昼休み。ゆかりが弁当を広げて、私に声をかけてきた。
「あかりちゃん、一緒に食べよ! 私、転校して友達少ないからさ。頼むよ~」
可愛い上目遣い。断れるわけない。二人で机をくっつけてお弁当タイム。ゆかりのお弁当は豪華で、手作りらしい。
「わあ、ゆかりのお弁当可愛い! ハート型の卵焼き?」
「えへへ、母さんが張り切っちゃって。でも、あかりちゃんの唐揚げも美味しそう! 一つちょうだい?」
「あ、うん。どうぞ」
交換しながら話す。ゆかりは前の学校の話をしてくれた。部活はテニス部で、友達たくさんいたけど、親の仕事で引っ越してきたんだって。明るくて、話してて楽しい。なんか、ドキドキする。
放課後。ゆかりが急に私の手を掴んだ。
「あかりちゃん、今日は一緒に帰ろ! 道分からないし、案内してよ」
「え、いいけど……」
外に出ると、校門で男子のグループが待ってる。さっきの質問攻め組だ。
「ゆかりちゃん、一緒に駅まで行かない?」「俺んちの近くのケーキ屋、美味しいよ!」
ゆかりは少し困った顔をしたけど、笑って断る。
「ごめん、今日はあかりちゃんと約束しちゃった! また今度ね」
男子たちはガッカリした顔で去っていった。私は内心、ちょっとホッとした。なんで? ゆかりが他の子と仲良くするの、嫌だなって思っちゃう。
帰り道。桜並木を歩きながら、ゆかりが私の腕に絡みついてくる。
「あかりちゃん、優しいね。転校初日なのに、こんなに話せて嬉しいよ。明日も一緒に食べよ? 約束!」
「う、うん。約束」
ゆかりの笑顔が近い。心臓がバクバクする。女の子なのに、なんでこんなに意識しちゃうの?
次の日。朝からゆかりが隣に座って、すぐに話しかけてくる。休み時間も、昼も、放課後も。二人でいる時間がどんどん増える。ゆかりは人気者で、クラス中の子が声をかけてくるけど、いつも私を優先してくれる。
「ゆかり、今日の部活見学来ない?」「サッカー部、面白いよ!」
男子の誘い。ゆかりは首を振る。
「ごめん、あかりちゃんと約束あるんだよね~」
私との約束って、何? って思ったけど、嬉しい。ゆかりは私の手を引いて、屋上へ連れてく。
「ここ、秘密基地にしよ! 二人きりで話せるじゃん」
屋上でお弁当。風が気持ちいい。ゆかりが突然、真剣な顔で言った。
「あかりちゃん、私のこと、好き?」
「え? ど、どういう意味?」
「友達として、だよ! 私、あかりちゃんのこと大好き! 他の子より、ずっと一緒にいたい」
ドキッとした。友達として、か。でも、ゆかりの目が真っ直ぐで、熱い。独占欲? いや、まさか。
その週末。ゆかりからLINEが来た。「明日、遊びに行こ! 映画とかどう?」
デートみたい。でも、女の子同士だよ? 私は了承した。
映画館。ラブコメ映画。隣でゆかりが笑ったり、泣いたり。暗闇で手が触れる。ビクッとしたけど、ゆかりは自然に握ってきた。
「怖いシーンだよ、一緒にいてくれてよかった」
映画じゃないよ、ゆかり。私の心臓が怖いんだよ。
映画の後、カフェ。ゆかりが急にスマホを覗き込んで、眉を寄せる。
「どうしたの?」
「クラスの子から、グループLINE招待された。みんなで遊ぼうって」
「へえ、行けば? 楽しそうじゃん」
ゆかりの顔が曇る。
「いや、行かない。あかりちゃんがいないのに、楽しくないもん」
「え、私も誘えばいいじゃん」
「ううん。二人でいいの。私、あかりちゃんだけがいい」
その言葉に、胸が熱くなる。ゆかりの独占欲? いや、ただの友達愛だよね。でも、私もゆかりが他の子と仲良くするの、見たくないかも。
夕方、別れ際。ゆかりが抱きついてきた。
「今日、超楽しかった! またすぐ会おうね。あかりちゃんは、私の特別だよ」
特別。百合の花みたいに、綺麗で、儚い関係。まだ始まったばかりだけど、予感がする。この気持ち、友達以上かも。
家に帰って、ベッドで考える。ゆかりの笑顔、声、手の温もり。ドキドキが止まらない。明日、学校でまた会える。楽しみだ。
でも、クラスでゆかりに群がる子たちを見ると、モヤモヤする。私も、ゆかりを独占したいのかな?
そんな予感を抱きながら、夜が更けていく。
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