灯る季節
旭
【春】
浜丘市。海沿いの小さな町に、春の風が戻ってきた。
駅前の桜は満開の一歩手前で、まだ硬い蕾をいくつか残している。潮の香りと、土の湿った匂いがまじり合う。
高村剛は、古びたトートバッグを片手に、ホームの階段をゆっくり降りていた。
東京で編集者をしていた頃は、時間が流れる音すら聞こえなかった。
今、この町では、時計の針がやっと「音」を取り戻しているようだった。
その午後、「灯り屋」という名のカフェで、数人が丸いテーブルを囲んでいた。
窓の外は、春の光がガラスの端で跳ね、木の床に柔らかい影を落としている。
店主の宮本美希が、湯気の立つコーヒーを一人ずつに配った。
「一年かけて、この町の物語を作りたいんです」
彼女の声は、まるで風のように静かだった。
そこには、銀行員の石原慎、音楽教師の早瀬理沙、写真家の村井悠。
後日、東京からクリエイティブディレクターの柴田奈緒と、舞台演出家の西村隆も加わる。
七人の大人たち。誰もが少しだけ、人生に疲れていた。
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