第8話 必然

 

 昨日、かの天才こと俺、シューツは素晴らしい発見をした。

 中級魔法以上の無詠唱化に成功したのだ。

「結局才能なんでしょう?」って思われるかもしれないが、俺はシアみたく初見で出来ないし、

 魔法単体じゃ相変わらず中級以上は無詠唱で出来ない。



 だから俺は創意工夫に努めた。

 ――剣身に魔法術式を付与する。

 詠唱で口から出してた呪文を、そのまま剣に貼り付けるイメージだ。

 あとはそこに魔力を流せばいい。

 剣を握って、魔力を込めて、振る。

 それだけで、剣筋に合わせて魔法が発動するって寸法だ。


 おまけに威力も四倍くらい。

 ――いや、四倍ってどんな計算だよって? 感覚だ、感覚。



 いやはや実に清々しい気持ちだ。

 ブラインのあの反応からして、俺はもしかしたらこの世界で初めてこれを発見した人物なのかもしれない。

 これでシアにドヤ顔かまして師匠ズラすることが出来るってもんだ。ふっ……。



 だがしかし! だ。問題はやはりたくさんあるのだよ。

 まず一つ目に、出が遅い。

 詠唱の時間を考慮したら、そりゃあ前よりも早くはなっているが、単純にあの工程を踏むのに多少なりとも時間が必要になってきてしまうのだ。


 これでは、俺が発見した意味も無くなってしまう。

 元々は無詠唱化することによって、出を早くするのが目的だったのだから。


 それだけは嫌だ。

 せっかく転生したのに並の魔術師と同じ出のスピードはさすがに許容したくない。


 そしてもう一つある。

 それは、最近森の魔物の数が急激に減っていたからだ。別に討伐隊が編成されたなんて話も聞いたことがない。


 そこから俺が導き出した結論。それは、”何か、それらの魔物を遥かに凌駕する実力の持ち主がいる“ということである。

 そして真の目的その二は、ずばり、そいつと戦いたいからだ。


 だから、今日からは繰り返し系の訓練をしよう。

 つまりはあの時書斎でやったことを反復するのだ。

 理想的なのは、術式のイメージ、転送、魔力精製、送り込みをほぼ同時にやってのけることだ。つまりは実際の無詠唱と同じということである。



 もちろん一朝一夕で身につくなんざ思っていないさ。

 だが! 男は夢があってこその生き甲斐なんでさぁ!

 なんて男っぽいことを言うつもりはないが、

 もしこれができたら絶対に強いことは間違いないだろう。


 そうと決まればすぐに行動に移す! 時間は有限だしな。



 まずは大草原で練習しよう。上手く出来るまでは一旦森の方に行くのは我慢だ。

 魔法も禁止だ。

 剣によって発動される魔法以外はとりあえず封じておこう。

 こうした方が、感覚として体に染み込みやすい。



 それにしても、もう季節も冬になってきたな。肌寒さを感じるようになってきた。

 冷たい風が頬をかすめる。

「うぅ……寒っ!」

 そもそも、この世界に季節という概念はあるのだろうか。いまさらのような質問だが、今まで聞いたこともなかったな。


 いや、あるのだろう。

 農作物を管理する時点で季節は外せない要素だしな。



「さてと、始めるか」

 練習方法は簡単だ。

 まずは術式を頭の中で描き、それを剣に移す。

 そしてそれにピッタリの魔力を送る。

 そして剣を振る。

 簡単なことだ。なんのことはない。一回は出来たのだ。

 ただこの工程をするのに数秒かかってしまう。

 たくさん撃って覚えるしかない。


 思えば昔、パス単でよくやったなぁ……結局飽きてしまったけど。

 とりあえずいくつか魔法を絞って、そいつらを反復するか。

 手始めに、火球ファイヤーボールから……。



 …………――――――…………



 ……せーのっ!

「……ふぅん!」

 剣を振る。


 三つの火球ファイヤーボールが剣筋から放たれる。


 魔力精製から放たれるまでの時間……。


 わずか0.5秒。


 目標達成だ!

「成功じゃおらぁぁぁ!……ふぅ」

 草原にゴロンと寝転がる。風が心地いい


 とりあえず一つはできた。今度は別のを練習してみよう。

 すでに一回できたのだから、それほど時間はかからないはずだ。

 感覚がまだ身に染み付いている間に固めておいた方がいい。

 休んでいる暇は……ない。



 一ヶ月後――



 あの時の最初の成功からしばらく経った。

 案の定、一度できればそのあとはそこまで時間はかからなかった。

 自分が使える魔法は全て再現することが出来た。

 もちろん、我が神リリィ師匠から授かった“神技”も使えなくはないが、ここら一帯の農作物がダメになってしまうから控えている。


 しかし……


 ………………何だろう。


「ふーむ……なんか足りないなぁ」

 少し物足りない。

 確かにこれで、全部無詠唱で使えるようになったはいいのだが……。

 これでは剣を媒体として選んだ意味がない。


 できれば……あれだ。剣筋に炎をまとわせたい。

 横なぎをしたときに、ついでにその通ったところに火属性の魔法を付与したりするイメージだ。

 カッコ良さそうじゃんか。某○退治系みたいな……



 だがこれには決定的な障壁がある。

 そう。

 無いのだ、そのような魔法が。

 当たり前だ。何せこの俺が、おそらく世界で初めて剣やその他の媒体で魔法を発動させたのだから。


 どうしたものか……いや、そうだな……。

 作ってしまえばいいのだ。その術式を。


 だってそうじゃんか。魔法のような複雑な術式にする必要なんてない。

 たぶん“魔法”というものを作った昔の古代人も、俺と同じように術式が見えていたに違いない。


 じゃなきゃ作れるわけがない。

 あんな複雑に絡み合いながら、ちゃんとその役割を果たすという奇跡のような術式を。

 ならば、それより簡単な術くらいなら、俺でも作れるはずだ。


 がんばれ俺! 君なら出来るさ! ロマンを追い求めようぜ!

 相変わらず草原の草花が自分を鼓舞しようとする。

 っていうのは俺の妄想の話だがね。



 家にて――



 机に図面を広げる。

 今まで使ってきた、数々の魔法の術式が載っている。

 我ながら上手く描けているな……ふふふ。


 その中から、まずは火属性のものを厳選する。主に流動性のあるものがいい。

 そして、共通点を見出す。図形の問題も、左のものと右のものを見比べて、類似点と相違点を見つけ出すだろ?

 それに似ている。俺の高校の時の得意科目は図形だったから、一応簡単なことなのだ。


 ふーむ。どうやらこれが『火』を意味するらしい。

 そして……火球ファイヤーボール炎槍ファイヤーランスには共通しているところがある。

 すると、これは『固形化』を意味しているのだろうか。

 くぅ! 十一歳の研究者か。いいね、かっちょいい。


 さて、こっちが『固形化』ということは、炎旋風ファイヤーサイクロン炎壁ファイヤーウォール

 に書かれてるこの符号が……『軟化』だ。


 よしっ! 俺の仮説に狂いはなかった!

 やはり”術式“というだけあって、しっかり構造にも規則性があるのだ。


 これを基本の型にして、周りを魔法陣で固めればいいだけだ。それでちゃんとした魔法術式となるはず……。


 その晩、俺は休むことなく手を動かした。



 …………――――――…………




「さぁ……お披露目の時間だぜ! マイベイビー!」

 第三十二回目、「制術実験」……スタート!

 今回は自信作だ。今までは周りの囲いを誤魔化してやっていたが、今回ばかりは真面目にやった。

 大丈夫だ……タブン。


 第一段階、剣身に術式移転……成功!


 第二段階、魔力の流入からの術式の反応……成功!!


 順調だ。このまま……!


 第三段階…………発動!

「うぉぉぉりゃっ!」

(ボォォォォォォ!)


 目の前が赤い光で埋め尽くされる。

 かつての死に様を彷彿とさせる程の……まばゆい光だった。

 そして、今回はどこも熱くない。

 ただ心の中に、言いようもない叫び達成感が渦巻く。


「で……で……! できたぞぉぉぉぉ!」


 家に響き渡る俺の叫び声。しかもめっちゃ真夜中。

 親が飛んでこないわけがない。

「シュゥゥゥゥゥウ!! 何があったぁぁぁぁぁ!」

「あなた! 落ち着いて! 落ちついてったら!」


 2人とも寝ぼけてる。だが俺はそんなことはお構いなしにベラベラ喋る。


「聞いてください父さま、母さま! 僕ついに! 作っちゃったよ!」

 二人が首を傾げる。

「何をだ?」

 そして俺は、興奮する気持ちを抑えながら告げる。

「新しい魔法ですよ!」


 その瞬間、両親の目が丸くなる。

「……お前それ……マジ……?」

「おおマジです」

「…………はぁぁぁぁ」

 激しい安堵の息を漏らすブライン。それに続いて、激しい奇声が響き渡る。


「な……ななな……何ですってぇぇぇぇぇぇぇ!?」

 母シーラからだ。

「ちょ……ちょっと待ってくださるかしら……あなた一体何者なのですか?」


 失礼な。

 美人とイケメンの間に生まれた至って普通って感じのあなたたちの息子ですよ!

「あなたの可愛い息子です」

「……シュュゥゥウゥゥ!」

 シーラが感極まって俺に抱きついてきた。ちょっとお母さん! 当たってますよ! コンプラ的によくないですよ……ちょっと堪能しておこ。


 ――


 その日は三人で朝が明けるまで語った。

 俺がどのように術式を作ったか、どのようなものか。

 披露もした。両親は終始ポカン顔だった。

 自分でも誇らしくなってくる。

 やはり異世界に転生すると、何かしらの偉業を成し遂げるのはもはや定石であり必然なのかもしれない。



 今日は、俺にとって、この人生でいちばんの偉業を成し遂げた日になるかもしれない。


 そして、この時俺はまだ知らなかった。

 このことがめちゃくちゃ役にたつ日が、もうすぐそこまで迫ってきていたことに。



 …………――――――…………


 母日記

「息子ちゃんに神様が降臨してしまいました。私たちの息子は、どうやら古代の偉い方々が転生してきた魂を持っているみたいです。

 まあそんなことはないでしょうけど、さすがのちょっと腰を抜かしてしまいましたわ。






 さすがうちの息子ね!


(グッジョブの絵)          シーラ

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