第7話 夢のできたあの日
昨日、父ブラインに急なことを言われた。
「そろそろお前も10歳だ。剣術の稽古も本格化していかねばならない。よって今日からは父さんが稽古をつけることにする」
とのことだ。つまり剣術を本格的に習うらしい。
体づくりの方はもう十分だからだそうだ。もちろんトレーニングは怠るなと言われたがな。
剣術にはどうやら、主に2種類の流派があって、その両方に2種類ずつ術が存在するらしい。
大きな枠組みでは人神流と魔神流の2種類がある。名前の通り、人間族に適しているのが人神流で魔族に適しているのが魔神流ということだ。
そしてそれぞれの流派なんだが、人神流には主に帝都や王都の住民、貴族が習う帝王術、一般市民や冒険者などが会得する真奏術の2つがある。
別に身分の高い奴らが習うから帝王術の方が上とは
限らない。有名なフレーズとして、
“攻めの帝王、適応の真奏”なんてものがある。
俺にはこの二つのうち、どちらかを会得してもらおうということになっている。
魔神流の方はあまり知られていないみたいだ。
やはり人間界では人間の、魔界では魔族の剣技しか極めないのだろうか。
両方できたりする猛者はいないのかな?
まあ今はとりあえず置いておこう。もしかしたらいつか見ることになるかもしれないし……。
「それで父様。どのように稽古をするつもりで?」
「……? 何を言っているんだ。打ち込みに決まっているだろう」
だろうなぁ、うん知ってた。ほんとにうちの父は血気盛んだこと。まあ職業が職業だから仕方がないけどな。
生やさしい授業は受けさせてもらえないさ。
あぁ、リリィ師匠が恋しいぜ!
「こらシュウ! 隙だらけじゃないか!」
「シュウ! もっと踏み込むんだ!」
「違うって! 何度言ったら分かるんだ!」
へいへい、俺なんかせいぜい無才能の凡人ですよーだ。
しかしこうやって教えている父もまたすごい。
近衛騎士団の参謀だけあって、彼は帝王術、真奏術ともに会得している。
ほとんどの人は、4,50年鍛錬を積む必要があるのに対し、ブラインは前世の俺より20歳も若いのに、この域に達している。つまり才能の塊だ。
そしてこういう天才系の奴ら特有の苦手部門。
皆も知っているだろう。
教え方音痴だ。
つまりは感覚論で毎回説明をしやがる。
そして、結局俺は何も分からない。
「ちょっと父さま! そんな風に教えられてもさっぱりですよ!」
そう言ったら、父が「嘘だろ」って言っているかのような表情になった。
「え!? そ…そうなのか……うーん…」
そんなに分かりにくいかなぁっていう顔をしている。
そりゃそうだ。
第一な? 俺はそもそも剣なんか初めて握らされたわけだし、その挙句いきなり打ち込みとか抜かしやがって……。
できるわけないねぇ。
だけどなぁ。俺も剣術は習いたい。魔法と剣術、両方兼ね備えているような万能になりたい!
「その…何ですけど、せめて最初は本とか教科書みたいなのをくれたりしませんか? 僕の方で一旦学んでから、父さまに姿勢や打ち方などを教えてもらえれば……みたいな?」
そうだ。それがいい! だが問題は教科書だ。
売っていたりするのか?
「教科書……か。そうだ、うちの書庫に確かそんなのがあったな」
さすがブライン父様である。あのでっかい書斎にないわけがない。心配無用だったな。
そんなこんなで、ブラインは俺に、この本をくれた。「人神流剣術〜皆伝書〜」と書いてある。
ブラインによると、これはまだ彼が見習いだった頃に与えられた王都の学院の剣術書らしい。
うちの父は魔法が出来ないので、剣術一本でここまで強くなった。しかも身体強化魔法すら使わずにだ。
くぅ! かっこええなぁ。
開いてみよう。どれどれ……おぉ……。
こいつはすげぇや。それぞれの流派の成り立ち、由来、基本の型、動作が挿絵付きで載っておるぞ!
これを真似てやってみれば、そこそこまでくるんじゃないか? どっちか一つをまずはやってみよう。
なに、両方できるだなんて思ってちゃいないさ。天才じゃないし……。うん。
――数日後
今日はシアと遊ぶ予定だ。剣術の稽古もないし。
あの日教科書をもらってから、俺はとりあえず先に真奏術の方から勉強を始めた。
こっちの方が動きが読んでて分かりやすかったからだ。そして今となってはだいたいわかってきた。
ブラインとも打ち合いの稽古をしているが、真奏術はとにかく使い勝手がいい。攻めと守り、攻防一体っていう感じだ。
しかしその反面、器用貧乏というか、そうだな。決定打がない。
敵をこの一撃でしずめてやらぁ! みたいな技が少ないどころじゃない。ないのだ。
だから学んで損はないが、はっきり言ってつまらない。必殺! 何ちゃらかんちゃら! みたいなのを言いたいのだよ私はね!
そうこう言っているうちに、丘の方まで来た。
あそこにポツンと立っている、細くて華奢な姿。
「おーい! シアーー!」
こっちに気づいたみたいだ。手を振ってくれてる。
いやぁまるで天使みたいだ。白髪だけに。
「お待たせー、待たせちゃった?」
首を横に振る彼女。
「そっか。それはよかった」
「……その…何して遊ぶ?」
懐かしいな。俺にも昔、女子の幼馴染みがいた。
そいつは結局引っ越してそれっきりだが、小さい頃はよく遊んだものだ。
もし今まだ生きているなら、いい大人の美人になっているのかな。
「僕は何でもいいよ」
「あの……その……」
何かを言いたげそうにしている。
何かな? 何でも付き合ってやるゾ。
「あの時……ボクに使ってくれたやつ、教えたりしてくれないかな」
「あの時って……ああ、魔法のこと?」
コクリと頷く。
「まあ、別にいいけど……」
彼女が急に微笑みだす。嬉しそうでなによりだ。
…………――――――…………
「……おいおいマジかよ……!」
これって…大発見じゃないか!?
おれは今、大興奮している……!
時は遡ること2日前。
シアが魔法を教えてほしいと言った日からだ。
俺は朝から昼は父と稽古、昼から夕暮れまではシアの魔法教師になった。
そして昨日、俺はめちゃくちゃ驚いた。
シアはかなり魔法の才能に長けている。
なぜなら彼女はいとも簡単に無詠唱をこなして見せたからだ。
詠唱を教えて、最初の2回は言いながら魔法を繰り出していたが、3回目からは無言で魔法を発動した。
しかも魔法の出も早い。
恐ろしい才能……俺があの域に達したのは7歳の頃……おっと、いかんいかんこれは○スケの格言だ。
その時俺も思ったわけである。
「師匠が弟子に越されるなんて……
く! や! し! い!」
なるほど、あの時リリィ師匠はこんな風に思っていたのか。申し訳なかったです! 師匠!
そんなことを言っている場合じゃない。
俺も何か特技を持ち合わせなければ……きっといつか、
「シュウ、ボクより弱いジャーン! プププー」
なんてことを言われかねん!
それだけは絶対に嫌なんだぁぁぁ!
俺には今、2つの課題がある。
一つ目は魔法の上達である。
師匠がうちを出てから、魔法はこれっぽっちも上達していない。いやまあ前よりもエイムは良くなったし、魔法も小さくできるようになったし、その上威力も落ちないようにしたし?
あぁそうだった。まだ一つ報告してないことがあった。
実はちょっと前に新たな魔法を開発したんだ。
名は「
化学の授業でよく、赤い炎よりも上の温度が青い炎とかって習わなかったか?
それはどうやら魔法でも同じことが起きるらしい。
俺が作った超巨大
それを窓から向こうの丘の方に放ってみたら、スピードはいつもの十倍ぐらい出た。
そして落下地点での爆発も確認したが普通のやつと変わらないぐらいの威力があった。
目算で1kmといった距離だっただろうか。
それほど遠いところで着弾したのに、その衝撃波で両親が俺の部屋に来て何事かと聞きに来たほどだこの
少し話が逸れた。
セルリアンはまだ無詠唱でできる。だが問題は、中級以上だ。
それはまだ詠唱が必要なのだ。
それなのにシアは難なくやり遂げた。決定的な才能の違いだろう。
そして俺はまだそれの解決法を知らない。
そしてもう一つの問題。それは剣術との併用だ。
俺は別に器用じゃない。
かりに敵と交戦しているとしよう。俺は最初は剣術で対応する。しかし、敵の方が一枚上手だ。
その時、俺は魔法を行使する。しかしここで問題が起きる。俺はこの転換が上手くできないのだ。
さて、どうしたものか……
この二つの課題の解決策を模索していた俺は、とあることを閃く。
同時に行えないだろうか?
そのーあれだ。魔剣士みたいなやつだよ。
とある日にブラインに聞いたことがある。
「その〜魔剣士っているんですかね」
「うん? 普通にいるが? どうしたんだ一体」
「ちょっと興味本意ですが、ちなみにそれってどんな感じですか?」
「どんな感じって言われてもなぁ……剣を主として戦い、ところどころ魔法を差し込む感じかな」
「魔法と剣術を同時に行ったりは?」
「そんなことしないし、そもそも不可能だろう?」
「へえ〜そんな感じなんですね。ありがとうございます」
「……? ああ」
終始ハテナマークが頭の上に出てきているような感じの表情だったが、やはりこの世にそんなことができるやつはいないのか。ふふふ……
そこで天才シューツ君は考えた。剣に術式を付与できないかと。
実は俺、魔法を
前にも言ったが、この体の目は異常にいい。
そして俺は魔法を習った時にそれを確信した。
魔法が放たれる時、その魔法の魔法陣、すなわち術式が見えるのだ。
その見えたものをノートにまとめ上げ、暗記したのだ。
この素晴らしい頭脳を使わずに放っておくわけないだろう?
そして、その術式を付与する方法を探せばいいのだ。それが俺の課題を解決する最高の方法だろう。
さーて無駄な時間は過ごさずに、今すぐに取り掛かろう。
どうすれば、剣に術式を付与できるか……。
術式…付与……。
剣で魔法を放つイメージ……。
頭の中に、使いたい魔法の術式を思い浮かべる。
そしてその魔法専用の魔力を練る。
そしてそれを手から剣に流す……これだ。
魔力の流れは小さい頃から使っているからか、手にとるように分かる。そしてその種類や違いも。
父が言っていたように、常人では無理だろう。第一術式なんて見たりしないだろうし、魔力なんて感じたりとかはしないのだろう。
だが俺は違う! 俺にはできる!
そうと決まれば、まずは……
サササッ……ピタ…ガチャ──バタン。
侵入成功……よし。
久しぶりだな。父の書斎に無断侵入。
「別に次の朝行けばいいジャーン」
なんていう奴がいるかもしれないが、俺は我慢できるような性じゃない。
思いついたらすぐすぐやる。即断即決だ! うん。
さてと、お目当てのブツはどこかなー。
できれば……そうだな、
そもそもこの世界にあるかどうかは分からないし聞いたこともないが……。
うーん……どこにもないな…………隠し部屋とかか?
壁を叩いたりすれば分かるかな? ほら、スパイみたいにさ。
……コツコツ……コツコツ…コーン
ビンゴだ。
どうやら書斎の向こうに空間があるらしい。叩いた音の反響でよくわかる。
スイッチ……スイッチ……ん? あそこの本だけまだ出っ張っているな。ちゃんと元に戻してくださいよブラインさん。
コトン……ガチャ。
え…あ、これがスイッチだったんかーい。
……ガタン!
お、扉が開いた。これまた巧妙だなぁ。
「さてと、何があるかなー? うわ……すご」
その扉の向こうにあったもの。
それは、父が近衛騎士団で授かった数々の栄誉と、
それに見合うほどのキラキラしたオーラを放つ
名刀たちだった。
そして……その中で一際目立つもの。
紫色に輝く刀身。これだ。
これだけから唯一魔力を感じる。きっとこれが
手に取って確かめる。うん、申し分ない固さだ。魔力伝導率? も悪くない……気がする。
そうと分かればいざ勝負!
さっき思いついた方法を試す。
中級魔法の中でも比較的小規模なもの、前みたいに水浸しになったら申し訳ないから、水属性系は却下。
だとすると……よし。
術式をイメージ……そしてそれに適した魔力を手から……流す!
そのとき、刀身に文字が浮かんだ。頭の中でイメージした術字の一つ一つが。くっきりと映る。
そして、唱える。
「
その瞬間、目の前に巨大な炎の渦、いや竜巻が起こった。
そしてそれは……家の地下から2階まで貫通してしまった! なんて威力だ……ちゃんと調整したぞ?
案の定、ブラインが飛び込んで来た。
「うぉぉぉぉぉ! 何があったぁぁぁ!」
「あ……こ…こんばんはぁ……父さま…」
「魔物か! 魔物が現れたのかぁぁぁぁ!」
「ちちち違いますよ父さま! 僕ですよ! シューツですよ!」
「な、何だお前か……で、こんな夜中に何してるんだ?」
「こ…これは……その……すみませんでした!」
「……はぁ。探究心があるのは嬉しい限りだ。だがな。しっかり寝ないと、足腰持たんぞ?」
え……そこ? 家貫通してるんだぞ。
「それで、いったい何の実験してたんだ? 家をこんなにしちゃって……」
気づいてたんですねー。すみません本当に。
「えっと、剣術と魔法を同時にできないかと……」
「……できるわけないと言っただろう。それで結果は?」
「……成功……です」
「…………は?」
信じられないっていう顔をしている。
「お前……それマジかよ」
「はい。大マジです」
「それは……その……とんでもないな」
何がだ? 何がとんでもないんだ。
「いや……ほらな? 普通こういうのは出来ないじゃんかよ」
「……そうなんですか?」
「そうなんですよ」
「何で敬語なんですか」
「それはすまん。ふざけただけだ」
ふざけただけか。ならよし……じゃねえよ!
それで、これで俺はシアを超えられたのかな?
「それで質問なんですが、これってやっぱすごいんですか?」
「……もう…すごいどころじゃないんじゃないか?」
「褒められるほどのものですか?」
「大学でも褒められるんじゃないか?」
そうなのか……ふふふ、ふははははは!
やっと見つけた! 俺の特技! どうやら剣で魔法を使った場合、無詠唱+威力倍増するというメリットがある。
威力が倍増するのは、多分杖と同じ原理だろう。
それにしても、だ。やはりこの世界の魔法は術式が肝心らしい。ならば俺はいつかこの研究をしてみるのもいいかもしれないな。
いつの日だっけか、リリィ師匠に教えてもらったことがある。
「あそこの山を越え、山道に沿って山を下ると、とある都市が見えます。あそこはちょうど魔族領と人間領の境目にありますので、都市内では魔族と人間が入り混じっています」
つまりは○メリカ合衆国みたいな感じか。
「そこの中心地に大学、つまりは私の母校である「ペルシア魔法大学があります。もしあなたが何かを研究したければ、そこに行くのをおすすめします。
あなたほどのものならばきっと―――」
その後はなんていってたっけ。覚えてないや。
まあ要は、俺が15歳を越えたらそこで研究ができるのだ。
恥ずかしながら、前世の俺の高校の時の夢は研究家だったんだぜ? 笑っちまえるよな……。
ならば
この能力をもっと有効活用できるような研究がしたいなぁ。
今日俺は、この人生の夢を見つけた。
…………――――――…………
母日記
「朝起きたら、家にぽっかり穴が空いていたのだけど、いったい何が起きたのかしら? そう思ってシューツに聞いたら知らんぷりで誤魔化したので問い詰めたら、昨日の夜にやらかしたみたいで……うちの息子はどうしてこうも規格外なのでしょうかねぇ。
ふふふ」
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